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転生した勇者が、同じく転生した魔王に世界を救えと催促される件について(仮)  作者: ふぉるてっしも
元勇者は転生しましたけど、田舎で靜かに農業をしていたい件につてい(仮)
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第八話 元勇者は策にはまる件について(仮)


「シャルは金髪でオールバックの人が好きですよ」

「おい! 口を開くな!」

「いて!」


 両隣に座っている聖騎士が俺の腹に一発入れる。特にダメージがあるわけではないが痛がる振りはしていたほうがいいと思い。いてててと言っておく。


「そうなのかね?」


 だが、俺が放った言葉をしっかりとオールバック聖騎士は聞いていたようで、少し顔を緩ませながらシャルにたずねた。


 ――うわあ、気持ち悪い顔。


 そして、内心俺はぐっとガッツポーズをする。


「え? いやあ……」


 シャルは困惑の表情をする。


「何口ごもってるんだよ。いつも言ってたじゃないか。目の前に理想の人物がいるんだぞ!」

「おい! 口を開くなと!」

「か、かまわん!」


 オールバック聖騎士が俺の隣の聖騎士を制する。


「いや、しかし」

「多少は目を瞑ってやろう。こいつの最後の言葉になるのかもしれないのだから」

「か、かしこまりました」


 聖騎士が振り上げたこぶしを下ろした。

 俺の最後の言葉か……。

 ふん、シャルの情報を俺から聞きたいだけなのになんとも大層な言い方をするものだ。俺の最後の言葉がシャルに関することなんで御免だね。


「それで、君、その彼女の理想の人物をもう一度言ってもらえるかな?」


 オールバック聖騎士がにやけそうになる顔を必死で抑えているのがわかった。

 いや、本当に気持ち悪い顔をしている。

 もしシャルの理想が本当に金髪オールバックだとしても、髪が後退してきていてそんな表情をしているお前は理想の枠組みから除外されるだろう。

 だが、今回はごり押しだ。

 俺は複雑な表情をしているシャルを横目に、期待に答える。


「金髪で、しかもその髪を綺麗にオールバックにしているような人ですね」

「そ、そうかね。はは、それはまあ、いい理想だな」


 オールバック聖騎士は横目でシャルを見る。その顔はすでに自分が選ばれると確信しているものだった。ああ、本当に気持ち悪い。


「彼の言葉は真実なのかね?」


 流石にここまでくればシャルも否定はできまい。

 何せ相手がここまで喜んでいるのだからな。ここで否定でもしようものなら、相手がどんな手段に出るかわからない。相手はあの傲慢な聖騎士だ。好いている相手を強引に手中に入れようとくらいはするだろう。

 仲良く二人で夜の街にでも消えてくれ。そうすれば、俺は適当に村に帰ることができるからさ。

 俺はシャルを見て微笑んだ。


 ――さあ、言うんだ。そうですと!


 シャルはうつむき加減の顔を上げる。


「は、はい。そうです……」


 ――よっしゃあああああ! 俺の勝ちだ! 大勝利だ!


 俺はつい、表情がさらに緩みそうになるのをあわてて我慢する。これではあの気持ち悪いあほ騎士と同じ顔になってしまうところだ。


「ほう!」


 オールバック聖騎士が大げさに相槌を打つ。あからさますぎて、なんかあれだ。あほだ。


「それでは、君は――」

「ですが!」


 オールバック聖騎士の言葉をシャルがさえぎる。


 ――おい待て、何を言う気だ。


 俺は言い知れぬ不安に襲われる。シャルの身体から出ているオーラ、あれは間違いなく魔王のそれだった。寒気が俺を襲う。


「確かに、私の理想は、オールバックの金髪。そうですね。あなた様のようなお方です」


 シャルは憂いを帯びたその美貌をふんだんに使用した武器をオールバック聖騎士に向ける。

 言葉だけなら、俺の計画通りだが……。

 俺はシャルの言動、行動に最大の注意を向けた。


「ほう!」


 オールバック聖騎士がまた大きく相槌を打つ。

 お前にはそれしか相槌の種類がないのか!


「ですが、出会ったのが少し遅かったのです」


 シャルが顔を俯けて、声が鼻声になる。


「それは一体どういうことだね?」

「私の純潔はすでに奪われてしまいました」

「なんだって!?」


 俺はふーん。とその会話を聞いていた。まあ、シャルもそれなりの年だ。そういうことが誰かとあってもおかしくないだろう。

 確かにこういう世界では、びっくりすることなのかもしれないが。


 ――ん? ちょっとまて


 ここで漸く、俺はシャルの思惑に気が付き始めた。

 純潔は奪われてしまった? つまりは……。


「はい、なので、私はあなた様の元に向かうことはできないのです」

「それは、合意の上だったのかね? 君はその相手のことを好いていたのかね?」


 ――これはまずいぞ。


「いえ、その、いきなりではありました……」

「つまり、襲われたということか!!」


 馬車の中にオールバック聖騎士の声が響く。

 シャルは俯いたまま、何も言わない。

 これはまずい。


「お、おい」

「黙れ!」


 俺が言葉を発しようとしたとき、オールバック聖騎士がつばを飛ばし怒鳴り声を上げる。

 これだと俺の最後の言葉が「お、おい」になるじゃないか。


「それは誰だね?」

「言えません……」

「君を傷つけた人物だ。私が聖騎士の名のもとに粛清してくれよう」


 ――ああ、まずいまずいまずい。

 おいおい、聖騎士さんよう。流石に好きな女のために聖騎士の名のもとにはないでしょう。お前も清廉潔白な人間じゃないはずだろ? それを、こういうときだけそうなるのはいけないなあ。

 俺は突っ込みを入れながら、冷静さを保とうと必死だった。何せ今後の展開がすこぶる自分に不利に働くことを理解していたからだ。

 そこからなんとも茶番が続く。


「いや、しかし!」


 シャルが今にも泣きそうな顔を向ける。この嘘泣き女が!


「構わないんだ。後で、私の元にきなさい」

「ですが、私は汚れた身、あの崇高なる聖騎士様の元になんて……」

「そんなことは気にしない。それに君を汚したという男を抹殺さえすれば、君は純潔だ」


 今、崇高なる聖騎士様からなんとも、それとはかけ離れた物騒な言葉が聞こえたけど、気のせいかな? 後さりげなく口説くのやめてもらっていいですか? 気持ち悪いんで。


「…………」


 シャルは最後に俯く。


「誰なんだい?」


 オールバック聖騎士がシャルの肩に手を掛けて、やさしく聞く。うん、だから気持ち悪いって。

 シャルの右腕が少しずつ上がってくる。そう、俺の方向に……。

 そして、腕が上がりきると、みなの視線が俺に集中した。


 ――まあ、流石に終わったかな……。


お読みいただきありがとうございます。他の作品もぜひお読みください!

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