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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第一章 奴隷ゾンビを増やしてみよう
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グルタオン・ポルコ

「剣になってしまった」


 タケルは右手に握っている剣を見てつぶやいた。

 それは先ほどまで魂晶石だったのだ。オネットという老人の魂が浄化され、真っ白になっている。

 それが手にした途端、まばゆい光を発したのだ。タケルはそこで漠然とした映像が見えた。それは長剣だった。タケルは躊躇せずそれに手を伸ばしたのだ。

 その後光は収束されるとタケルの手に一本の剣が握られていたのだ。


「まあ、魂晶石が剣に変わってしまいましたわ。どうしましょう」


 アムールは慌てるが、タケルは平然としていた。


「大丈夫だよ」


 タケルがアムールをなだめる。


「これはオネットだ。オネットの剣だよ」


 タケルは剣に名前を付けた。鞘から抜いたが、その刀身はすらりと美しく、まるで何十年も磨き上げられたようである。

 オネットの純粋な魂が剣に変化したのだ。彼は木に変化したが、気にしない。オネットの魂はタケルのそばにいる。タケルを守ってくれていると、そう思った。

 魔王サタナスは魂晶石が浄化されると、新たな力を得られると言っていた。これがそうなのだろう。


「さてオネットの木から成ったイチジクを持って帰ろう。子供たちが喜ぶよ」


 タケルは剣を鞘に納め、アムールに命じる。その笑顔は晴れやかで命令なしでも同じことをしていたに違いない。


 ☆


「タケル様!! ここにおりましたか!!」


 タケルとアムールがかごいっぱいにイチジクを詰めて歩いているところ、一人の男が駆けてきた。ひょろ長い体系だが足が速く、都では伝達の仕事をしていたという。

 タケルに奴隷ゾンビにされた後、町の伝達屋として活躍していた。息切れはしないし疲労もたまらない。まさに天職である。


「どうしたの。緊急事態?」


「はい。急いで川辺の開発地区へお越しください。非常事態が起きています!!」


 タケルはそれを聞くと用意された人力車に乗った。さすがにタケルは普通の人なので、体力に限界がある。サージュが作らせたものだった。

 人力車は走りだす。

 そして川辺の開発地区へ数分でたどり着いた。

 そこでは大勢の男たちが騒いでいる。土木建築関係者だ。複数の人間が何かを取り囲んでいる。タケルはそこへ向かった。


「どうした。何があった!!」


 主の登場に奴隷ゾンビたちは一斉に振り向いた。円の中心にはフェアネン・イディオが立っている。その表情は鬼のようであった。


「タケル様!! フェアネンのやつがタケル様の悪口を出だしたのです!!」


 悪口を言い出す? それはありえないことだ。なぜなら奴隷ゾンビは主の悪口を言えない。危害を加えることもできないのだ。

 それが本当なら確かに異常事態といえる。


「けっ、けっ、けーっ!! お前らは馬鹿だよ、頭がイカレているね。

 こんなクソガキにこき使われて、愚痴一つこぼさないなんて異常だぜ。

 こいつのせいでさぼることはできない、女と遊ぶことすらできないんだ。

 しかも俺たちに断りもなく奴隷ゾンビに変えやがったんだぞ。

 俺たちの意向を無視したんだ。そんなやつを主と呼ぶお前らはトンチキだよ。

 バカバカバーカ!!」


 聞くに堪えない罵詈雑言である。だがタケルは心をえぐられるより、疑問の方が勝った。なぜフェアネンは悪口を言えるのか?

 他の人間はそこに気づかず、フェアネンに反論した。


「タケル様を馬鹿呼ばわりするな!! 俺たちはあのお方に救われたんだ。病気で指一本動かせず、家族にゴミと一緒に捨てられた我らを救ってくれた!!

 感謝の意はあっても、侮蔑する理由などない。お前だってタケル様に救われただろうが!!」


 そうだそうだと周りが叫ぶ。だがフェアネンは不敵な笑みを浮かべたままだった。


「うーーーるせぇ!! 誰も頼んじゃいねぇよ! こいつが勝手にやったことだ、なんで感謝しなくちゃいけないんだ?

 俺はなぁ、お前らの気持ちを代弁してやっているんだよ。

 本当はこいつを憎んでいるんだろ、憎み切っているんだろ?

 それなのにわけのわからない力で陰口も愚痴もこぼせない体にされちまった。

 こいつは救いの神じゃない、悪魔の使いだ!! 聞けば魔王サタナスからもらった力だというじゃねぇか。こんな邪教徒を信仰する馬鹿がいるとは思わなかったぜ。

 てめぇらは大天使アウトクラシア様の裁きの雷に打たれるがいい!!

 ひひひ、ひひひ、ひひひひひ!!」


 フェアネンの言動は怪しくなっていた。口から泡を吐き、目の焦点は定まっていない。

 まるで何かに憑りつかれたようであった。否、文字通りこの男は憑りつかれている!! とてもとてもやばいものが彼の体を支配しているのだ!!


「ピギャパァァァァァ!!」


 人とも獣ともわからぬ咆哮をあげると、フェアネンの体から黒い気が流れ始める。そして気の竜巻が生まれ、彼を巻き込んだ。

 タケルは急いで周りの人間を遠ざけた。そして新たに手にした剣を握る。

 気の竜巻が収まると、そこには一匹の化け物が現れた。

 それは肉の玉である。三階建ての家のような大きさだ。それは豚の顔をしていた。

 目玉はぎょろりと大きく、口は人をあっさり丸かじりにするほどである。そして巨大な舌をレロレロと動かしていた。


『ブゴォォォォォン!!』


 怪物は吠えた。その威力は周りの景色を振動させ、人間は立つことができず、座り込む始末である。


「あっ、あれはグルタオン・ポルコだ。魔王サタナスが生み出した怪物の一柱だ!!」


 誰かが叫んだ。グルタオン・ポルコ。フェアネンの変わり果てた姿だ。

 グルタオン・ポルコはボールのようにごろごろ転がっている。そして巨大な舌で方向転換をしているようだ。

 幸いここは開発地区だ。住宅街からほど遠い。だがこいつがそちらにいかない保証はない。いや、嫌がらせで家を踏みつぶし、みんなの努力が水泡と化すのを見てあざ笑う可能性がある。


「ここで倒す!!」


 タケルはフェアネンの成れの果てに戦いを挑む。

 グルタオン・ポルコはタケルに向かって、転がってくる。下手すれば十二トンダンプのような威力だ。タケルが突進すればあっさり肉塊に変えること間違いなしである。

 だが周りの人間が巻き込まれた。ぷちぷちと転がるたびに奴隷ゾンビが潰される。大勢の悲鳴が上がり、泣き叫ぶ声が聞こえた。


 奴隷ゾンビは死なないが、潰されると行動を制限される。再生するのに時間がかかるのだ。これはサージュ自身が魔法で岩を浮かし、自らを潰して確かめたので知っている。

 グルタオン・ポルコはさらに潰れた人々に向かってくる。そして再生しかけたのにまた潰す。泣き叫ぶ声があがり、不快な笑い声をあげるのだ。

 潰れかけた人は涙目でタケルに救いの手を伸ばす。それをさらに潰された。


「野郎!!」


 タケルの髪の毛が逆立った。ここまで怒りが沸いたのは初めてだ。

 自分に危害を加えるのは納得できる。本人の承諾なしに奴隷ゾンビに変えたのは自分だからだ。

 だが他の人を巻き込むのは許せない!! 人をいたぶって楽しむ人間はさらに許すことはできない!!

 タケルは突進した。だがグルタオン・ポルコはタケルを無視し、住宅街へ向かおうとしている。タケルを潰す前に、彼の作った街を灰塵にしてやろうという腹だ。中の意識は完全に邪悪な者と化している。

 だがグルタオン・ポルコはそこにいけなかった。なぜなら穴にはまったからである。


「タケル様! やっちゃってください!!」


 それはテチュだった。彼は部下たちに命令し、速攻で落とし穴を掘っていたのだ。

 球体であるグルタオン・ポルコは身動きができない。タケルはすぐに剣を構え、剣を突き刺そうとした。

 だが敵も諦めが悪い。舌を使って排除しようとする。

 タケルは舌に打たれる前に剣を振るう。舌は真っ二つに裂けた。

 絶叫を上げるグルタオン・ポルコ。タケルはそいつの眉間に剣を突き刺した。


「オネット! ぼくに力を貸してくれ! この悪魔をうち滅ぼしてくれ!!」


 断末魔の叫びが上がると、穴の中は空洞と化した。フェアネンはこの世から消え去ったのである。


 ☆


 被害は少なかった。犠牲者はもちろんいなかった。開発地区は荒らされたがまた直せばいいだけの話である。

 そこにサージュがやってきて詳しい事情を聴く。もちろんタケルの持つオネットの剣についても話した。


「オネット殿は自分の人生に満足したのでしょう。羨ましいことです」


「それで魂晶石は白くなったんだ。でもぼくは剣がほしいとは思わなかった。なんとなく剣の影が見えたので取ってみたんだ」


「おそらくオネット殿の影響でしょうな。あの方は剣術使いです。その魂は剣の形を作るのは自然だと思いますな」


 サージュが結論付けた。タケルもそう思う。


「ところで肝心なのはフェアネンです。彼はタケル様に罵詈雑言を浴びせ、グルタオン・ポルコに変化した。実のところこれは魔王サタナスの意志とは思えないのです」


「どういうこと? 確かグルタオン・ポルコはサタナスの配下なんだよね。人を怪物に変えるくらいわけないと思うけど」


 サージュは首を振った。確かにグルタオン・ポルコはサタナスの配下だ。だがそれは穢れた魂の持ち主を喰らいつくし、黒い魂をその身に受ける存在だろ言う。最後に黒い魂を溶かして消えるそうだ。

 それを聞くと先ほどの怪物の行動はおかしい。奴隷ゾンビを潰して楽しんでいた。


「それにサタナスの目的は黒い魂の浄化です。魂晶石は徐々に魂を浄化させるものです。フェアネンの魂晶石はどうなりました?」


 サージュの問いに、タケルは右手を出す。先ほどから呼び出しているが、魂晶石が現れない。フェアネンの魂は粉々に砕け散ったのだ。


「魂の浄化が目的なのに、それを砕くのはおかしいです。それに伝承では奴隷ゾンビが怪物に変化した記述はありません。あるとすれば……」


 サージュは口を閉ざす。何か心当たりがあるのだ。だが確証はない。まだそれをタケルに言うわけにはいかないのだ。


「タケル様。これからもこのような事態が起きるかもしれません。町民に武器と防具を用意させ、警戒させます。そしてフェアネンの過去を調べましょう。今回の件で謎が解けるかもしれません」


 すべてサージュに任せた。今回はタケルの剣でなんとかなった。

 しかし防衛は大事だ。怪物の出現は不意を突かれたが、本来は都から兵を向けられてもおかしくはない。

 戦いが始まる。タケルはそう思った。

 今回は初めて怪物との戦闘を書きました。

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