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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第一章 奴隷ゾンビを増やしてみよう
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メイド付きの家

「これはすごいな」


 タケルは感心した。時刻はすでに夕暮れ、あたりを血まみれのように真っ赤に染めている。ごみ山から離れた場所であった。この辺りはゴミの腐った臭いは届いていない。

 タケルの目の前には木造の家が建っていた。可愛らしいおもちゃのような家だ。大体一時間もかかっていないはず。

 家の近くにテチュがドヤ顔で立っていた。彼の仕事であることは間違いない。


「本当にテチュさんが建てたのですか?」


 思わず訊ねずにはいられなかった。タケルのいた世界では家を建てるのに数日もかかる。機械がないのにどうやって短時間で作れるのか疑問であった。


「そりゃあ魔法を使いましたからね」


 テチュはさらりと答えた。

 魔法? おとぎ話や漫画などのフィクションの世界にしかないものを、目の前の頑固おやじが使ったというのか。その疑問をサージュが補足した。


「タケル様。この世界では大抵のものが魔法を使えます。正確にはその者の職業に合わせてたものです。さらに正確に申しますと幼少時に魔法検査が行われ、その者に適した職業に就くことになります。

 テチュは重い物を持ち上げる魔法を使います。それなら必要なものはすぐにゴミ山で調達できますし、何度も通う必要はないのです。

 他にも鑑定の魔法を使えるものがいて、その者の助言で建築に最適な材料を入手できたのですね」


 サージュの答えにタケルは納得した。この世界は異世界だ。魔法を使えてもおかしくはない。ただそれはサージュのような賢者だけしか使えないと思っていた。

 テチュのような大工は魔法と縁がないと思っていたのが驚きであった。


「さてタケル様。今日は日も暮れるので簡易的なものしか造れませんでした。明日はきちんとやりますのでご期待ください」


 テチュが胸を叩く。これで簡易なのかと驚いた。


「家の中にはタケル様が使う家具を用意しました。それと集めた食料もあります。どうぞおくつろぎください」


 アムールが前に出てお辞儀する。自分はみんなの主なのだ。自分の物を自分で使って気兼ねはいらない。


「それではタケル様。アムールをメイドにいたしますので、なんでもお申しください」


 サージュの言葉にタケルは顔が赤くなった。なぜなら女性と二人暮らしなんて初めてだからだ。母親は女性のうちに入らない。

 タケルは断ろうとしたがサージュにやんわりと却下された。他の奴隷ゾンビたちも同意見であった。

 こうしてタケルはメイド付の家に住むことになったのだ。

 

 ☆


 タケルは家の中に入った。突貫工事とはいえ、内装はまずまずである。ログハウスのような作りでテーブルに椅子、大きなベッドが備え付けられていた。

 トイレもあった。これは汲み取り式だが当然であろう。後日テチュに水洗便所のことを話そうと思った。

 アムールは簡易台所で食事の支度を始める。手際が良く慣れていた。包丁の使い方もまるで手と同化しているのではと思うくらいだ。

 テチュをはじめとした奴隷ゾンビは長屋の建築に勤しんでいる。確かに奴隷ゾンビは疲れないし、食欲はない。だがやはり家は必要だとサージュが進言したのだ。

 それに身体は汚れるので風呂を作ることも検討されている。衣服もきちんとしたものをそろえなくてはならない。必要な材料はすべてゴミ山から調達すれば問題はないのだ。


「つまりゴミ山は使えるものを平気で捨てているのだな」


 タケルが呟いた。自分は貧乏だった。使えるものは例え壊れても直して使ったものだ。もったいない精神だが小学生時代はそれでいじめられていた。ケチだのなんだの馬鹿にされてたのだ。飽食の世界では倹約は罪悪なのである。


「そうですね。都の方々、特に金持ちの方は物を粗末にする人が多いです。そして人間も……」


 アムールは口を閉じた。おそらくは暗い話なのでご主人様の耳に入れるべきではないと判断したのだろう。


「さあタケル様。食事の支度ができました。どうぞこちらへ」


 アムールがテーブルの上に置いたのは、木の実のパンとウサギの焼肉であった。すべて奴隷ゾンビが集めた物である。

 他にも獣や魚を獲ったが、こちらは燻製にしている。タケルの腹を満たさなくてはならないからだ。

 タケルは異世界の料理を堪能した。それは自分のいた世界とまったく変わっていない。どの世界も人間の食べるものは同じなのだ。


「うん。おいしい。君の腕がいいのかな」


 タケルがほめるとアムールの頬は赤くなった。


「はい。前は貴族様のお屋敷で料理を作っておりましたので」


「へえ、君は貴族の家で働いていたの?」


 その瞬間アムールの表情が曇った。あまり口にしたくない話題のようだが、主の問いに答える。


「あたしは生まれたときからメイドとしてアロガン・バロン男爵様のお屋敷で母親と一緒に働いていました。父親は知りません」


 言い終わるとアムールははっとなった。慌てて手で口をふさぐ。自分でも答えるつもりはなかったのに、タケルの問いに答えてしまったのだ。


「ねえ、アムール。今君はぼくの問いに答えるつもりはなかったんじゃないかな?」


 タケルの質問に、彼女ははいと答えた。うつむいたままである。


「そっか。でも先ほどゴミ山では人間も捨てられるみたいなことを言いかけていたね。こちらはぼくが突っ込まなかったから答えなかったのかもしれないな」


 奴隷ゾンビは質問に答えなくてはならない。具体的に言わなければ曖昧な答えしか返ってこないのだ。これは大発見だ。明日サージュに報告しよう。


「ごめんね」


 タケルはアムールの手を握った。彼女は顔を上げる。


「君の心の中をずけずけと土足で入ってしまった。ごめんね」


 タケルは謝罪した。先ほどアムールは生まれたときから働いていたと言っていた。だが赤ん坊が働けるわけがない。そもそもメイドが勝手に子供を作ることができるだろうか。


「ねえ、アムール。そのバロン男爵には君と同じくらいの子供はいなかった?」


「はい。おります。ラキュニエ様です」


 その答えにタケルは確信した。おそらくアムールの母親は乳母だ。ラキュニエに乳をやる役割を与えられたのだろう。だが母乳は妊娠していないと出てこない。つまりアムールの母親は無理やり孕まされたのかもしれないのだ。

 タケルはそれ以上のことを訊かなかった。訊けるわけがない。


「タケル様?」


 アムールが心配そうに声をかけるが、タケルはなんでもないと答えた。


「もう休みたい。今日はぼくと一緒に寝てくれないか。ただ添い寝してくれるだけでいいんだ」


「……はい」


 メイドはただ頭を下げただけである。


 ☆


 タケルとアムールはベッドの中で寝ていた。二人とも寝巻に着替えている。ベッドは拾いものにしては生活臭などがしない。真新しい物を捨てたのかと、タケルは複雑な気分になった。

 隣にはアムールがいる。女性特有の甘い匂いがつんと鼻につく。女性と寝るのは初めてだ。

 いや病気の母親と寝たことはある。人間湯たんぽとしてだ。体が冷えて震える母親のために抱き着いて暖めていた。


「タケル様は異世界からいらっしゃったのですよね。家族はいらっしゃらないのですか?」


「いない。母親がいたけど、病気で亡くなった。死ぬまでずっと看病していたんだ。そもそもぼくが召喚されたのはこの世の理から外れたためだ。ぼくが死んでも誰も悲しまない。だからぼくが選ばれたのさ」


 自虐気味に答えた。もっとも母親が死んでも虚脱感はなかった。開放感だけである。人が死んですがすがしくなるのは、人として問題があると思っていた。

 だが今まで病人に付きっ切りだったが、解放されたのだ。悲しみより喜びが勝っていたと言える。火葬したとき葬儀屋の人間が笑みを浮かべるタケルに嫌悪感を示したことを思い出した。

 自分はあの世界では異質なのだ。人が死んだら悲しまなくてはならない。死を喜ぶのは悪なのである。それを否定する人間はすべからく異質なのであった。

 だから自分が呼ばれた。タケルはそう考えている。人の魂を抜き取り、奴隷ゾンビに変える技を持つ。ここでもタケルは異質なのかもしれぬ。

 最初はともかく、だんだん自分に恐怖を抱くものが出てくるのではないか。タケルはそうなったときどうすればいいのだろう。

 突如アムールがタケルの手をぎゅっと握った。


「あたしはタケル様の奴隷になれて本当によかった」


 アムールの眼から涙がこぼれた。羨ましそうにタケルを見つめている。


「タケル様はお母さまをきちんと看病し、死を看取った。そんな素晴らしい方があたしの主様になるなんて。これも神様、いいえ魔王サタナス様のご加護かもしれません」


 アモールの言葉にピンと来たものがあった。

 彼女は捨てられたのだ。雇い主だけでなく母親にも。肉親は娘が病気になると躊躇なく捨てたのだ。

 もしかするとサージュやテチュたちも似たようなものかもしれない。

 自分の世界でも子供を捨てる人間はいた。老後の生活に不安を抱き、介護した親を殺害することが多かった。

 タケルはアムールを抱いた。母親が我が子を抱くような感じだ。


「ぼくは捨てない」


「え?」


「ぼくはアムールを捨てない。いいやすべての奴隷ゾンビはぼくの物だ。魂が浄化されるまでずっと傍にいてもらう。だから安心しろ。お前の居場所はぼくが作る。お前を捨てた貴族も母親も忘れてしまえ。新しい人生はここから始まるのだ」


 彼女はびっくりしたが、こくりとうなづいた。

 やがて眼を閉じると、タケルに口づけを交わす。

 それだけであった。タケルはアムールに優しく抱かれて眠りについたのである。

 そして安らかに新しい朝を迎えたのであった。

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