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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第一章 奴隷ゾンビを増やしてみよう
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抜魂術の条件

「これはひどいところですね」


 タケルが呆れていた。しかめっ面になっている。

 それは当然だ。目の前にそびえ立つのはごみの山である。揶揄ではない。悪臭を放ち、肺を腐らせるような空気が漂っている。

 まともな人間ならばすぐに立ち去るだろうし、近寄りもしないだろう。

 そうここに住むのは人生のレールから外れてしまった人種だけである。


「そうひどいところです。王国で一番けがれた場所ですね。都のごみが分別されず捨てられているのです。捨てられるのはごみだけではありません」


 サージュが説明をしながら指をさす。ごみ山から少し離れたその先は掘っ立て小屋があった。

 さっそく二人は粗末な小屋に入る。そこはサージュが住んでいた悪臭漂う、ごみ溜めのようなところだった。

 家の中は何もない。ゴザが敷いてあり、そこに老婆が一人寝ていた。

 寝ていたというより狩られて猪のようにぐったりと横たわっているようだ。

 髪はぼさぼさで、体中疱疹ができている。垢で汚れきった薄着だけを着ていた。

 目は見開いており、口をだらしなく開けている。ハエがぶんぶん飛んでおり、腐りかけの状態だ。

 かすかに息をする音が聞こえているので死んでいないだろう。いやなぜ死んでいないのかと疑問に浮かぶのが先だ。


「タケル様。私は抜魂術を見ておりません。ぜひ見せてください」


「わかった。いいよ」


 サージュの願いをタケルは了解する。たとえ見られても真似などできないからだ。

 タケルは老婆の眼を合わせる。少しだけ老婆の眼が動いた気がした。

 そして老婆の心臓に向かって右手を突き出す。


「ぼくの奴隷になれ!!」


 タケルが叫ぶと老婆の心臓が光り出した。


『アムール・セルヴァント。十八歳』


 頭の中に声が響く。だが聞き捨てならない言葉であった。

 十八歳? 目の前の老婆が十八歳という現実にタケルは絶句する。

 さて光が収まると、タケルの右手に魂晶石が現れた。それは灰色である。若いから魂は穢れていないということだろうか。

 老婆は瞬きをした。そしていきなり起き上がると口元を抑える。

 そしてこけつまろびつ外に出た。地面に膝をつき、激しく嘔吐しはじめる。

 聞くに堪えない声であった。千年の恋も冷めてしまいそうな光景である。目の前の女性が初対面であることをタケルは安堵した。

 地面にはどす黒い水たまりができていた。そして鼻が曲がりそうな鉄の臭いがする。彼女は血を吐いているのだ。まるで体中の中身をすべてひりだす勢いである。

 やがて吐き終えたのか、老婆は口元を右手で拭いた。そしてタケルたちに顔を向ける。

 そこにあったのは般若のような形相であった。いや、彼女は怒っていない。長年自分を苦しめた病魔の重りに解き放たれている。今や天使の羽が生えたような軽やかさだ。

 彼女の拭った口が裂けていたのである。だが中からうかがえたのは歯茎ではない。若い女性の口が見えたのだ。


「あの、あたしの顔に何かついてますか?」


 若い女の声だった。十八歳という年相応の声である。まるで小鳥のさえずりであった。


「おぬしの顔が歪んでおるぞ。平気なのか?」


 サージュがずばり切り出した。女性の顔に対してはっきり訊ねるサージュはある意味大物かもしれない。もっとも女心を理解していないだけかもしれないが。


「え? 歪んでいるのですか。えっと」


 女性は立ち上がると裂けた口の部分を触る。そして左手で髪の毛を引っ張った。すると口は大きく割ける。まるで卵のようにぷるんと剥けたのだ。

 そこには美しい女性の顔が現れた。肩まで伸びた金髪に整った顔立ち、そして愛嬌のある笑みはタケルの心を暖かくした。


「ああ、顔が剥けてしまった。大丈夫ですか?」


 タケルは訊ねる。

 女性、アムールはさらに皮を引っ張った。右手をむき出し、そして左手も取り出した。

 そして一気にズボンを脱ぐように皮がむけたのだ。

 まるでザリガニのように脱皮をしたのである。これは驚きだ。

 アムールは生まれたままの姿になった。白い肌に均整の取れた裸体だ。彼女は古い皮を脱いでほっとしたようである。


「あら、恥ずかしいですわ。早く服を着ないと」


 アムールはタケルたちを見て、初めて恥じらったのであった。


「なるほどあたしはあなた様の奴隷になったのですね」


 改めてタケルはアムールに説明した。彼女はあっさり納得する。ちなみに彼女はゴミ山から拾った洋服を着ていた。結構きれいなもので、所々破れているが着るのに問題はない。


「奴隷にされたのですよ。何か含むものはないのですか?」


 タケルが訊ねた。アムールは首を振る。


「構いません。どうせあたしは病気で死ぬところだったのです。今では体が軽く、すがすがしい気分ですわ。あたしはあなたのご主人様になれて本当にうれしいのです」


 アムールは心底喜んでいた。


「さてタケル様。この辺りには彼女のような者が多いです。ですが私の言う通りに抜魂術を施していただきたい。お願いできますか?」


 サージュが懇願する。特に断る理由はないので承諾した。

 さてアムールの家を出て、適当に歩くとまた人を見つける。

 ブリキ板の屋根の下に寝転んでいた。それは男だが、ひどかった。

 全身疱疹だらけで、膿が出ており、悪臭がひどい。こふーこふーと息をしておりまだ生きていることがわかった。

 逆にまだ生きていることに驚きを隠しきれない。


「タケル様。まずは目をつむったままやってみてください」


 サージュに言われるまま、目をつむった。右手はきちんと突き出している。


「ぼくの奴隷になれ!!」


 何も起こらなかった。男はいきなり大声を出されて不愉快そうである。表情は疱疹に埋め尽くされており、どこが眼か鼻かわからないほどであったが、雰囲気でわかる。


「次は遠くから声をかけてみてください。ぎりぎり視線が入るようにしてほしいのです」


 タケルは男から少し離れた。そしてもう一度抜魂術を施す。


「ぼくの奴隷になれ!!」


 今度は成功した。男の心臓は光り、魂晶石を取り出すことに成功したのだ。


『テチュ・ムニュイジエ。四〇歳』


 タケルの頭に声がした後、男は激しく嘔吐した。アムールと同じである。黒い血を吐き出した後、顔をかきむしった。バリバリとかきむしった後、ばりっと頭の皮を剥いだ。

 そこには角刈りの中年オヤジの顔があった。眉毛がつながっており、岩のようなごつい顔である。オヤジは自分の顔をなでまわした。自分にまとわりつく疱疹と膿が消えていることに驚いているのだろう。


「ない、ない! 俺の顔に疱疹がない。どこにいっちまったんだ?」


 男が混乱していると、アムールが鏡を差し出した。おそらくゴミ山から持ってきたのだ。


「はい。あなたの顔ですよ」


「ああ、俺の顔だ。もちもちでぷるぷるの肌が戻っている。こいつはいったいどういうことだ、俺はあの世にいっちまったのか!!」


「あの世ではないです。ぼくがあなたを奴隷ゾンビに変えたからです」


 タケルが説明した。それとサージュも補佐してくれたので、男はすぐ理解できたのだ。男は残りの皮を脱ぎ捨てようとしたが、アムールがいたので建物の陰に隠れた。


「そうか。俺は助かったのか。こんなにありがたいことはない!!」


 男ことテチュは泣いた。感動の涙が滝のように流れている。頑固そうな男だが男泣きする様はどこか神聖めいたものを感じた。

 

 タケルはサージュたちと共に人を見つけた。アムールやテチュのような病人もいれば、サージュのような老人もいる。

 タケルは壁越しに声をかけたり、後ろから声をかけたりもした。

 だが成功しなかった。きちんと視線を合わせないと発動しないようである。


「さてタケル様。今度は複数で試してみましょう」


 サージュは他の奴隷ゾンビたちに頼み、老人を二人ほど壁によりかかせた。


「ぼくの奴隷になれ!!」


 すると二人の心臓が光り出す。そして頭の中で二人の名前が入ってきた。タケルの右手には二個の魂晶石が現れたのだ。


「今度は三名にしてみましょう」


 これも成功した。そして四名で試してみる。今度は一人タケルの後ろに立たせた。

 成功したのは三名だった。こちらはタケルの眼を見ていたが、後ろの人間は声が聞こえても変化がなかったのである。


「結果的にタケル様の抜魂術は視線を合わせないと効果がないようです。逆に視線が合っていれば一度に複数の人間を奴隷ゾンビに変えられるということですな」


 サージュが結論を出した。この日奴隷ゾンビになったのは十三名である。なんとなく不吉な番号だが、タケルは日本人なので問題はない。

 魂晶石はサージュを含めて十四個に増えた。どれも黒か、灰色である。サージュのように真っ黒なものはなかった。タケルにはどれが誰の魂晶石か理解できる。

 他にも人は見つけたが息絶えていた。死にたてはともかく、中には腐りかけや白骨がざらであった。タケルは奴隷に命じて埋めるように命じた。


「いいえ。まずタケル様の家を作るのが最優先です」


 サージュが口を挟んだ。


「そしてタケル様の衣服と食料の確保が大事です。タケル様は我らの王。我らは奴隷ゾンビなのですから」


 確かにタケルは普通の人間だ。腹も減るし、眠気もある。奴隷ゾンビを増やしたのだ。まずは衣食住を充実させるのが問題だろう。

 そこにテチュが叫んだ。


「家を建てるのなら任せてくれ!! 俺は大工だ。ごみ山から素材を見繕って立派な家を建てて見せるぜ!!」


「俺たちも手伝います!!」


 テチュの掛け声に複数が同意する。元病人は健康を取り戻し、老人たちは見た目に反して元気溌剌だ。働きたくてたまらないのである。


「あたしはタケル様の衣服を縫います。こう見えても裁縫が得意なのです」


 アムールも賛同する。こちらは女性が中心だ。

 残りの人間はタケルのために食料を探しに行った。

 後の残るのはタケルとサージュだけである。


「自主的に動きましたな。命令をしておらんのに」


「うん。そうだね。本当に奴隷ゾンビになったのだろうか」


「いいえ。それは確実でしょう。病気で死にかけた者は健康になりましたからな。これはまた試さなくてはならないでしょう」


「そうだね。サージュさんにはお世話になってばかりだ。ありがと―――」


 タケルは頭を下げようとしたが、サージュに止められた。


「支配者は軽々しく奴隷に礼を言ってはなりませぬ。王としての沽券に関わりますぞ」


「うーん、そうなのか。ぼくはまだ支配者としてまだまだなんだな」


「今は学びなされ。無知は恥ではございませぬ。知るは一時の恥、知らぬは一生の恥といいますからな。じっくり勉強し、この世界、デポトワールを変えましょうぞ。これは私の欲望でもありますからな」


「うん。これからもよろしくね」


 タケルはまた頭を下げようとして、サージュに注意されたのだった。

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