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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第5章 奴隷ゾンビを最初に作った人に会いに行こう
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シゥーメス・コーブラ

益田四郎時貞ますだしろうときさだ?」

 タケルは首を傾げた。どこかで聞いたような名前である。

 一方でトキはころころと笑い始めた。

「やったな。やってくれたな。ついに私を奴隷ゾンビに変えてくれたな!!」

 むくむくと体が震え始めている。そしてべりっと真っ二つに分かれたのだ。

 そこから十代後半の男性が現れた。タケルと同じ日本人のようである。

「どうも初めてお目にかかります。益田四郎時貞です。島原で一揆を指揮した者です」

 トキが頭を下げる。その顔は邪悪な笑みで歪んでいた。

「島原? それって島原の乱のこと? それなら益田じゃなく天草四郎じゃないの」

「おおその名でも呼ばれていますね」

 トキが笑った。この男は天草四郎時貞で間違いない様だ。

 島原の乱とは江戸時代初期、寛永十四年に十月二十五日勃発した日本の歴史上最大規模の一揆である。

 島原におけるキリスト教再興を目的とした一揆であった。

 天草四郎時貞はそのときのカリスマとして一揆軍の総大将にされたのである。

 だが結局失敗し、三万人近い人間が死んだと言われている。

 それがタケルの知っている島原の乱の歴史だ。

「あなたは確かキリシタンでしたよね。それを徳川幕府によって蹂躙された。キリスト教の愛を教えが許せなかったと聞く。あなたはその復讐のためにこんなことをしたのですか?」

 以前サタナスから聞いた話だが、爆風とは幕府のことを言っていたのだ。

 サタナスにしてみれば人間の服装はどれも奇抜に見えるのだろう。

「復讐ですって? そんな陳腐な感情ではありませんよ。確かにキリシタンは結束しました。それにあの一揆は単に島原藩に対する一揆です。島原藩は自分たちの失政を認めなかった。そして徳川幕府もキリシタン弾圧を口実にしたのですよ」

 『細川家記ほそかわかき』『天草島鏡あまくさとうかがみ』など同時代の記録に、反乱の原因を年貢の取りすぎにあるとしている。島原城の改築に必要だったからだ。

 だがトキが言った通り、当時の島原藩主であった松倉勝家まつくらかついえは自らの失政を認めず、反乱勢がキリスト教を結束の核としていたことをもって、この反乱をキリシタンの暴動と主張したのだ。いわゆるスケープゴートである。

 江戸幕府も島原の乱をキリシタン弾圧の口実に利用したため「島原の乱=キリシタンの反乱(宗教戦争)」という見方が定着したのである。

 ちなみに江戸幕府はキリシタンの教えを恐れたわけではない。

 キリシタンの背後にあるイスパニア、現在のスペインを恐れたのである。

 それに当時の宣教師たちはキリシタンでなければ奴隷にしており、キリシタン大名たちは火薬の材料である硝石と奴隷を交換したという。

 さらに神社や寺を焼き払わせていた。キリスト教と関係ない物は認めない方針だったのである。

 それにこの反乱には有馬・小西両家に仕えた浪人や、元来の土着領主である天草氏・志岐氏の与党なども加わっていたのだ。

 これらの記録は教科書には載っていないのでタケルは島原の乱を表面しかわからなかったのである。

「もう過去のことはどうでもいい。私は私の役目を果たす。すなわち世界を破壊し、生命の循環を断ち切るのです!!」

 トキこと天草四郎は両手を上げた。そして心臓部分に影が入り込む。

 みるみるうちに怪物へ変化していった。それは熊の風船ブレグイソーゾ・ウルソであった。

 宮殿の天井は破壊される。そして大空にブレグイソーゾ・ウルソがぷかぷかと浮かんでいたのであった。

『ふはははは!! ようやく私の望みが叶ったぞ!! もうだれにも止められない。この世界は亡ぶのだ!!』

 天草四郎は勝ち誇りながら、都へ向かった。影に入った者は全員影を抜き取られるというのだ。早く止めなければならない。

「なるほど。これで謎が解けましたね。百年の前の戦争で奴隷ゾンビたちが嗜好品を禁じた理由が」

 コンフィアンスのつぶやきにノブレスが食いついた。

「どういうことだ?」

「簡単です。初代抜魂術師サダは命令していたのですよ。嗜好品を禁止にさせろ、そして命令されたことを絶対にしゃべるなと」

「そうか。奴隷ゾンビなら命令に絶対だ。秘密が漏れるわけがない。すると経典が書き替えられたのも同じ理由か」

 そう、百年前ねつ造は始まっていたのだ。奴隷ゾンビたちを利用して今の状況を作り上げたのである。

「じゃあ、フラメル商会も」

「その通り!!」

 アムールが言う前に別の誰かが声を上げた。

 それは小男であった。丸っこく縮れ毛の髪と髭である。まるで達磨が歩いているようだ。

「すべてはこの日のためにおこなわれていたこと!! トキ様の望み通りよ!!」

「あいつはフラメルだ!!」

 ノブレスが叫ぶ。フラメルはにやりと笑った。

「そうだ。我が名はニコラ・フラメル。異世界からの来訪者よ。我が名前に聞き覚えはないか?」

 タケルは首を振る。

「いいや、聞いたことがない」

「それは仕方ないな。我はあの世界では錬金術師であった。トキ様に魂晶石を抜かれて不老不死に変えてもらったのだ」

 ニコラ・フラメルとは十五世紀に活動したパリの出版業者であった。錬金術に関係し賢者の石の製造に成功したと言われている。

 一説では賢者の石で夫婦共々不老不死となったという。

 だが一般的には某魔法使いの少年が有名であった。

「さて我はお前らの邪魔をせねばならん。さあ行くぞ!!」

 するとフラメルの身体が光った。その身は怪物へと変化していく。彼は奴隷ゾンビだったのだ。

 上半身は筋肉隆々の人間で鱗だらけであった。だが上半身は蛇の身体であった。尻尾をドリルの様に回転させているのである。

「シゥーメス・コーブラだ! 嫉妬を司る怪物です!!」

 コンフィアンスが叫んだ。

 シゥーメス・コーブラは蛇の尻尾をらせんの様に回転させ、飛び跳ねる。

 その動きは実際機敏でバッタの様に飛び回っていた。

 右に行ったと思えばすぐに左へ飛び跳ねていく。せわしなく動いていた。

 床に着地すれば、衝撃で一気に崩れ落ちる。天井にぶつかっても強靭なん上半身が両腕でうまく抑えていた。

 宮殿はぼろぼろになっていった。信者たちはすでに逃げ出している。

 タケルはシゥーメス・コーブラを無視して天草四郎を追いかけようとした。

 だがフラメルは螺旋のしっぽで地面を掘りだす。地中からはどっどっどと不気味な心臓の鼓動音みたいなのが聴こえてくる。

 そして一気に地面が爆発し、そこからフラメルが飛び出すのだ。

 その際に破片が飛び出て、周りに被害が及ぶ。

 フラメルはタケルに勝つ必要はないのだ。こうやって被害を拡大させることが目的なのである。

「タケル様ーーー!!」

 廃墟と化した宮殿を出たタケルたちの前に、数十人の老人たちが走ってきた。

「わしらが盾になります。タケル様は先に行ってくだされ!!」

 老人たちはシゥーメス・コーブラに立ち向かった。奴隷ゾンビなので死なないから大丈夫だと思っている。

 だがフラメルは尻尾を回転させ、しゅるしゅると地面を張っている。まるで竜巻だ。

 老人たちはいとも簡単に弾き飛ばされてしまう。

 飛ばされた老人たちは近くの建物の壁にぶち当たった。トマトの様に潰れるもすぐに再生されてしまう。いくら特攻してもフラメルの動きを止めることは叶わなかった。

「やめてー! みなさんやめてください! 死ななくてもあなたたちのその姿を見るのは耐えられない!!」

 タケルは叫んだ。老人たちは笑顔を向ける。そしてまたフラメルに特攻するのだ。

「我々はうれしいのです。老人となり必要とされなくなったのに拾ってもらったからです」

「このわしらが再び役に立つなら、どんなことでもします」

「わしらの命はすでにタケル様の物じゃ。なんでもできるわい!!」

 老人たちは群がるようにシゥーメス・コーブラに立ち向かう。

 さすがにうっとうしくなり、一気に弾き飛ばした。

『ふはははは! 枯れ果てた老害どもよ。お前たちなど糞の役にも立たぬわ!!』

 フラメルの高笑いに、タケルはその隙をつき、剣を背中に突き刺した。

 フラメルは老人たちを潰すことに夢中になっていた。魅力な老人たちを踏みつぶして楽しんでいたのである。その隙を突かれたのだ。

『ばっばかな。この我が……』

「この剣はお前が馬鹿にした老人の力で生まれたんだ。お前は時代を支えてくれた年配の方々を馬鹿にした。それが敗因だったんだ」

 フラメルの身体が溶ける。だが最後にフラメルは笑った。

『どっちにしろこの世界は終わりだ。もうじき救いが来る。命の循環が終わる日はもうじきだ……』

 そう言ってフラメルは消滅した。正直奴隷ゾンビであったフラメルを倒すのは避けたかった。今頃どこかで彼の魂晶石が砕けただろう。

 後には倒れた老人たちだけである。タケルたちは一斉に介抱に向かう。例え不死身だろうと自分たちの手助けをした彼らをねぎらいたかったのだ。

「ああ、嬉しいなあ。タケル様の役に立てたんだ」

「ああ、満足だ。わしは満足だ」

「タケル様。最後に思い出をありがとう」

 老人たちの身体が光った。そして木に変化する。

 それと真っ白になった魂晶石が飛んできた。

 タケルの眼がふたつ飛び出した。そして吐き気が催してくる。

 タケルは吐いた。胃袋、心臓、筋肉を吐き出したのである。

 身体はくらげのようにふにゃふにゃになった。

 そして口の中に魂晶石が入ってきた。ひとつふたつ、やがて数十個の魂晶石がタケルの体内に入っていったのである。

 タケルは肉玉と化した。ぺりっと皮が剥ける。タケルの抜け殻ができた。

 次にばきばきと不快な音を立てると、元のタケルの身体に戻ったのである。

「おーいタケル殿。無事かーーー!!」

 タケルトンが走ってきた。彼は留守番だったが、タケルが心配で駆けつけてきたのである。

「おや、道に落ちている内臓はなんでしょうか?」

 路上に散乱したのは内臓であった。筋肉と脳も転がっている。

 それらが一気に空中に浮いた。そして人の形をとり、タケルトンに抱き着いたのである。

 しばらくもがくと内臓はタケルトンに収まった。そしてタケルの抜け殻に足を入れる。皮を着るとタケルトンはタケルへと生まれ変わったのだ。

「なんということだ。新しい肉体を手に入れてしまったぞ」

 それはタケルトンの中身、アンサンセの声ではなかった。タケルの声である。

「ぼくの身体はすごく軽くなっているぞ」

 タケルは全身から元気が湧いてきた。老人たちの魂晶石がタケルをパワーアップさせたのである。

「みなさんの思い僕は受け止めます。ではいくぞ。僕たちの戦いはこれからだ!!」

 最後は最終回ぽいこと言っているけど、まだですから。

 あと二回で終わらせる予定です。

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