アンジォ教団突入
「ここがアンジォ教団の総本山か」
タケルたちは目の前にある建物を見上げていた。
それはムナール王国の城よりも豪華で贅沢な造りの宮殿である。
アンジォ教団がここ十年で建てたものらしい。それまで教団は地方でみすぼらしい掘っ立て小屋に住んでいたという。それらの屈辱をバネにこのような贅を凝らした宮殿を作るとは見上げた根性である。
ちなみに建造費はすべてムナール王国国民の税金であった。アンサンセがそのように仕組んだのである。本当はトキによって操られていたのだが仕方がない。
「信者たちをこき使って作らせたそうですよ。ろくに給金も払わず、水っぽいスープ一杯しか与えなかったそうです」
アムールが言った。憤慨やるせない状態である。
「各村で飢餓が起きても税金は徴収し、足りなければさらに根こそぎ取り上げる。まったく死神みたいな連中だったね」
アグリである。彼女は農村出身だ。アンジォ教団の汚いやり口に腹を立てている。
「もっともそれがトキの狙いでしょう。信者たちをこき使い、無残に死なせる。怪物を作るための種が量産されるというわけです」
これはコンフィアンスだ。彼女は国一番の賢者サージュ・サージュの孫娘である。情報を整理することによって、状況を推測しているのだ。
「うわー、おっきな宮殿!! さぞかしパーティではおいしいものが食べられるでしょうね!!」
空気を読まない発言をしたのはピュールである。はっきりいって彼女は役に立たないが、放置すれば人質にされる危険性が高いので連れてきた。
4人ともドレスを着ている。
アムールは赤。アグリは青。コンフィアンスは黄色。ピュールはみどりである。ノブレスが用意したものだ。
「みんな気を引き締めることだ。ここは敵の本陣なのだからな」
ノブレスがいった。彼女は金を素材にしたドレスを着ている。体の線がはっきりとわかる衣装で、よほどの自信がなければ着られない代物だ。
それを普段着と変わらずなのだから彼女は生まれつきの姫なのである。
「いよいよか」
タケルはタキシードを着ていた。これからアンジォ教団大司祭トキこと、初代抜魂術師サダと出会うのだ。タケルは気合を入れる。
宮殿内はさらに豪華であった。きらびやかな衣装を着るものに、バニーガールが給仕をしているのである。宗教施設にバニーガールはどうかと思ったが、退廃を見せつけるにはちょうどいいのかもしれない。
贅沢な食事に贅沢な酒。それらを豚の様に喰らう貴族たち。
煽情的な衣装をまとった給仕たちに淫らな行為を繰り広げるなど混沌の極みであった。
これは自分たちの力の誇示ではなく、怪物を生み出す土壌づくりであるとタケルたちは見抜いている。
今の状況で誰かが無残な死を遂げればたちまち怪物になるであろう。
奴隷ゾンビに変えなければ怪物にはならないかもしれない。だが不測の事態は必ず起きる。
タケルたちは大司祭のいる広間へ向かった。
「こちらは大司祭様に招待された方以外立ち入り禁止でございます」
突如タケルの前に兵士が現れた。鉄の鎧と鉄兜に身を包み、ハルバートを握りしめていた。
それらがタケルたちをぐるりと囲んだのである。
「くっくっく、飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。お前ら、こいつらを殺せ!!」
突然暴挙が起きた。彼らはタケルの事を知っている。知ったうえでパーティ会場までおびき寄せ、殺害に至ろうとしているのだ。
「そうはさせないぞ!!」
タケルは手に剣を呼び寄せた。鉄兜を次々と弾き飛ばし、奴隷ゾンビに変えていく。そして彼らを使い、大司祭のいる広間へ強行突破に出たのだ。
奴隷ゾンビになった兵士たちが、別の兵士たちと戦わせる。傷ついて倒れた兵士を奴隷ゾンビに変えていくのだ。戦力は地味ながらも増えていく。
大司祭のいる広間はさらに痴態を極めていた。裸で抱き合う男女、同性同士もいる。甘く、蕩けそうなお香の匂いが充満していた。たぶんアヘンの類だろう。
その奥に一人の老人がいた。
白いフカフカのベッドの上に埋もれているそれは白豚であった。
丸メガネをかけ、ひげをぼさぼさに生やしている。手足は小さく、長年使っていないのか退化しているようであった。
美女二人が傍らに控えており、料理を食べさせている。こぼれたら布巾で拭いていた。
「あれが大司祭トキだ。食事もトイレも信者に任せている。自堕落な怪物だよ」
ノブレスが吐き捨てるように言った。
信者たちが一斉にタケルたちに攻撃してくる。
ハルバードを手にする者、かぎ爪を両手に持つ者、槍を持つ者など様々であった。
アムールとアグリは隠し持っていた武器を使い、相手を蹴散らしていった。
コンフィアンスも得意の魔法で相手を凍らせていく。
ピュールだけはテーブルに置いてあるごちそうを手にしていた。
タケルとノブレスはお互いに背を守り、敵と戦っている。
兵士たちはもう生きた人形であった。別の司祭たちが命じているのだが、彼らも絶叫している。もう目の前の現実が理解できていないのだ。
タケルという非現実な状況に部屋にいる者は狂気の渦に巻き込まれていた。
そしてタケルはトキの元にたどり着いた。
眼鏡をはずし、いつもの決め台詞を吐く。
「ぼくの奴隷になれ!!」
トキの心臓が光る。そして魂晶石が抜き取られた。
頭の中に声が響く。
『益田四郎時貞百十七歳』




