続うさぎがいっぱい
「ここがタケル様の住んでいる屋敷なのですね」
アムールが目の前の屋敷を見て感心していた。
ここは都にあるノブレスの屋敷だ。以前は奉公人はコンフィアンスだけなので荒れるに任せていた。だが現在はタケルトンによって修復が進んでおり、多少は見られるようになっている。
それとアンサンセの嫌がらせはなくなったので、人を雇えるようになったからさらに加速している。
「住んでいるというより居候だね。実際はノブレスさんの持ち物だから」
タケルがこたえた。
タケルたちは都に戻っていた。アムールとアグリも一緒に連れてくる。コンフィアンスとピュールもだ。ピュールはテチュとアンヌに正座させられ説教を喰らったが、あとはタケルに任せたのである。
「うふふ。ノブレス様には素敵なお土産を持ってきました。喜ぶ顔が目に浮かびます」
「そういやブランさんとヴェールさんが渡してくれたんだよね。人数分だと言っていたけどなんだろうな?」
ピュールがかばんを引いている。それをアグリが見てつぶやいた。
ブランとヴェール。あの二人は図書館で働いている司書だ。ブランは洋裁を得意としている。たぶんお土産は新しい服だ。
けどタケルは思った。嫌な予感しかしない。
☆
「変わった服だな。肩が寒い」
夕方ノブレスが勤務から帰ってきた。ティミッド王の下で働いている。宰相や将軍たちは奴隷ゾンビに変えたので忠実になった。問題はアンジォ教団だが今のところ何も言ってこない。トキ代理の司祭があいさつに来た程度だ。
後日、アンジォ教団のパーティがあるので王族にはぜひ参加してほしいと言う手紙を献上したくらいである。
トキにとってアンサンセの脱線は問題ではないようだ。現在アンジォ教団を信仰している貴族たちが不満を抱いている。その不満は十年間熟成されたものだ。もう少しで気化し爆発する時期を待っているのだろう。
サタナスを呼び出す儀式はある貴族が継承しているそうだ。その人の名はアロガン・バロン男爵である。アムールの元雇い主だ。彼女もまさかバロン家が重要な役割を持っていたことは知らなかったようである。
さてノブレスは自宅に戻った。そしてコンフィアンスからお土産をもらったのである。それを全員で着てみたのだが……。
それはバニースーツであった。ノブレスはうさ耳と紺色のバニースーツを着ている。カフスに紺色のハイヒール、網タイツを履いていた。
ノブレスはすらりと背が高く、胸が豊満で形がよく崩れにくい。
さらに腰回りは細く、足はすらりと長かった。
そんな中で高貴な雰囲気を身にまとっている。生まれ持った王族の素質がにじみ出ているようだ。
「うむ。体の線がはっきりとわかってしまうな。自身がいかに規則正しい生活をしていたか、判明できるのだな」
ノブレスは感心していた。彼女はバニーガールを知らないのだろうか。
「ノブレス様はパーティには呼ばれませんでした。アンサンセ様の嫌がらせで」
コンフィアンスがそっと耳打ちする。そしてその横でタケルトンが頭を下げた。中身はアンサンセだ。放蕩を繰り返した暴君ではなく、誠実な性質の頃に戻っていた。
「ところでコンフィアンスも同じ衣装を着ていたのか?」
コンフィアンスは黒いバニースーツを着ていた。小柄な体格で胸は悲しいほど平たんである。洗濯板といっても過言ではない。
「はい。皆さまが着ているのに私だけ着ないのはできませんので」
そう言った彼女のこめかみが引きつるのが見えた。
それもそのはず周りの人間のスタイルの良さが眼に入るからだ。
アムールとアグリも同じバニースーツを着ている。アムールは結構豊満で、アグリは平坦だがコンフィアンスほどではない。
だがピュールは違う。彼女の胸は爆弾であった。ぽっちゃりとした体だが、むっちりとした肉付きが男の心をそそる。
ぴょんぴょんと跳ねるたびに胸が躍るのだ。それはタケルの眼をくぎ付けにしてしまう。タケルは真っ赤になった。
「うーん。この服かわいい~♪ さっすがブランさんだよね~。こんな服初めて着ちゃったよ~♪」
いや普通は着ない服だ。体型がはっきりわかる服装は女性にとって恥ずかしいものだ。アムールとアグリも二度目だが恥じらっている。
ピュールは全く気にせず無邪気に笑っていた。
「でもコンフィアンスさんの胸は寂しいね。洗濯板みたい」
ピュールの言葉にコンフィアンスは目を剥いた。般若のような形相である。
アムールたちは怯えていた。誰もがコンフィアンスの胸のことを思っていたのに、あっさり口にしたからである。
「うふ、ふふふふふ」
コンフィアンスは生気のない声が出た。
目は虚ろだが語尾に怒気が含まれている。
本人はまったく気づいていない。呑気そうに笑っていた。
「そういう今日のピュールさんの胸はなかなかですね」
コンフィアンスが褒める。実は彼女の言い方は失礼なのだ。今日は、という単語は、今日だけという意味なのである。
「あはは、ほめてくれてありがと~。コンフィアンスの胸もなかなかだよ。洗濯すれば汚れが綺麗に落ちそうだから♪」
ピュールは能天気に答える。コンフィアンスの目が血走っていた。ピュールに悪意が一切ないのが怖い。時に空気の読めない人間は知らず知らずのうちに地雷原を走っているようなものだ。
「つーか、洗濯板はないだろう? 十歳の子供くらいの大きさじゃないか」
「いえいえ。ほめてますよ。だって洗濯板は生活の必需品だからね。関係のない物を引き合いにするほうがよくないじゃない」
アグリのフォローはフォローになってない。さらにピュールは火に油を注いでいる。そしてノブレスがとっておきのダメ押しをした。
「そうだな。コンフィアンスは私の屋敷に必要な人間だ。生活を支えてくれる必需品だ。洗濯板の表現はなかなかいいものだな」
タケルは胃が痛くなった。ノブレスもまったく悪意がない。彼女は本心でほめているのだ。コンフィアンスはさすがに主の言葉を否定できずにいる。
するとコンフィアンスはタケルに抱き着いた。タケルの右腕に絡んできたのだ。そして胸を腕に当てている。
困惑するタケルにコンフィアンスは上目遣いでつぶやいた。
「当たってますよね」
タケルは困った。大いに困った。確かに当たっている。コンフィアンスの暖かな胸はふっくらと当たっていた。だがそれだけだ。正直小学生の胸の方が大きい。
「当たってますよね?」
コンフィアンスは再び問う。その眼は獣のようににらみつけていた。否定したら喉元を噛みつく。そんな覚悟を彼女から感じたのである。
「わっほ~♪ 何々? タケルさんに抱き着くなんて。あたしもする~」
今度はピュールがタケルの左腕に抱き着いた。こちらは圧倒的な胸である。柔らかく腕をすべて包み込みとろかせてしまう。そんな熱量があふれていた。
「うふふ。タケルさんたら顔が真っ赤っか~。そんなにあたしの胸がいいんだ~。もっと押し付けてやれ~」
さらにぎゅっと抱き着く。タケルの顔はさらに真っ赤になる。そのまま頭に火がついて燃え尽きそうであった。
「じゃあ、あたいたちも抱き着こうじゃないか。アムール」
そういってアグリはアムールの手を引っ張り、タケルの後ろに抱き着く。アムールとアグリの胸の温かさが直接伝わる。タケルの眼はぐるぐるになっていた。
女性特有の甘い匂いが鼻につく。あまりの快楽にタケルの身体はどろどろに溶けてしまいそうな感じになった。
「ほう。とても楽しそうだな。では私は残りをいただくとするか」
ノブレスが立ち上がる。歩く様はスーパーモデルだ。特に意識してないようだが、魅せる歩き方をしている。
彼女はタケルの目の前に立つと、その胸をタケルの顔に埋めた。
ノブレスの豊満な胸はタケルの顔を沈める。
「もう、だめだ……」
タケルは燃え尽きた。どうしてこんなことに?
意識は真っ暗になった。
☆
「ああ、恥ずかしかった」
翌朝、タケルはベッドの上で目を覚ました。起き上がったタケルを迎えたのはコンフィアンスである。彼女はいつものメイド服であった。
「おはようございます」
タケルは昨日のことなど知らないと言わんばかりである。その気遣いにコンフィアンスが先ほどの言葉を吐いたのだ。
「昨日はどうかしていました。あんな破廉恥な衣装を着たのは初めてでしたので」
「あはは……」
タケルは乾いた笑みを浮かべた。
「ですが私ははっきりと理解しました。タケル様のお役に立ちたいと。他の女の子たちに取られたくないと思いました」
突然の告白にタケルは目を剥いた。コンフィアンスは恥ずかしそうにしている。
「私の胸は平坦かもしれません。ですが私には知識があります。祖父から学んだものと、独自に学んだものがあります。私はそれを武器にしたいと思っています。ですからタケル様も私を頼ってください」
コンフィアンスが手を握る。そこには固い決意が現れていた。
二人はじっと見つめている。そこへ残りの三人も入ってきた。
「わっ、私もタケル様のお役に立ちます!! いいえ、コンフィアンスさんよりずっと前からタケル様にお使いしておりますゆえ!!」
「あたいだってそうさ。まあ弓の腕しか能がないから、気に喰わないやつがいれば射貫く覚悟はあるよ」
「あたしはタケルさんの物だから好きにしていいよ~。もうこのあたしの自慢の身体でとろとろにしちゃうんだから~」
「ピュールさん、あなた意味わかってて言っていますか?」
「もっちろん!! 毎晩マッサージしてあげるよ!! そしてとろとろにしちゃうんだから~」
アムールの問いに、ピュールのずれた発言が飛び出た。
「何を言っていますか。付き合いの長さに問題はありません。要は絆の問題です。私とタケル様の繋がりは強固な鎖で繋がれているのです」
コンフィアンスが力強く答える。
そんな姦しい女たちの騒ぎを、部屋の外でノブレスが聞いていた。
その顔に笑みが浮かんでいる。悪くないと言う感じだった。
サタナス召喚の儀式は次回にやります。
今回は何でこの話にしたのかわかりません。
すぐに書くのがもったいないと思ったためでしょう。




