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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第一章 奴隷ゾンビを増やしてみよう
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奴隷ゾンビの性質

「まずは私の身体を確かめます」


 サージュは走った。とても枯れ木とは思えないほどの速さである。

 実際機敏で全力疾走し、戻ってきたのは数刻だった。息切れはしていない。

 まるで燃え尽きる蝋燭のように、溌剌とした表情であった。いつ死神のお迎えが来てもおかしくない。


「信じられません。あれだけ走ったのに疲れておりませんぞ」


「うん。ぼくも信じられないな」


 タケルは驚いた。だがそれはまだ序の口でだったのである。

 次に石を持ち上げた。漬物石程度なら軽々と持ち上げられたのだ。

 そして自分より大きな岩を持ち上げようとしたが失敗した。

 自分より体重が重い物は持ち上がらないようである。神話のサムソンのような怪力は得られるわけではないようだ。


「疲労感はおろか、空腹も睡眠も感じませぬぞ。これは大きいですな」


 サージュは感心している。だが次の行動はタケルの予想外であった。

 サージュは尖った陶器のかけらで首をかき切った。血が噴き出て、ばったりと倒れる。いきなりの自殺にタケルは唖然となった。


「え?」


 サージュから噴き出た血が一瞬で元に戻ったのだ。そして首には傷跡は一切残っていない。とても怪奇、とても怖い現象であった。悪夢で蘇ること間違いなしである。


「痛みはなかったですが首をかき切った瞬間意識が飛びました。ある程度の衝撃を受けると体が止まるようですな」


 サージュは平気の平左であった。

 ここからがサージュの自殺劇場の始まりだったのだ。

 首を吊る、焼身自殺を図る、高所から飛び降りる。その度にサージュは蘇り、感心するのである。

 ちなみにサージュの魔法での行為だ。彼はすごく優秀な魔法使いだったのだ。

 その様子をタケルは平然と見ていた。あまりにも非常識な光景なのでかえって現実感が沸かないのかもしれない。

 スプラッタ映画で血飛沫が激しすぎると、逆に笑えるような感じである。


「結果的に言えば痛覚はありません。しかしある程度の衝撃を受けると動きを止められてしまいます。焼身自殺の時は体が焼け、炎が収まるまで体が不自由でした。不死性を信頼するのは危険ですぞ」


 タケルはひいていた。これは元いた世界だろうと異世界だろうと関係ない。

 サージュの精神構造は常人に比べ遥かに歪んでいるのだ。

 普通はゾンビになったと言われても信じない。相手がおかしいと思うだけだ。

 サージュはゾンビ化をあっさり受け入れ、あまつさえ自らを実験体にしたのである。その飽くなき知的好奇心は鬼気迫る物であった。


「すごい。とてもすごい。あなたが最初の奴隷ゾンビで本当によかった」


 タケルは感心した。彼もまたこの世の理に外れた存在となったのである。

 魔王サタナスに召喚されただけで非凡なのだ。そして異世界にとってタケルは病原体なのである。それがいつ突然変異を起こし、体内にどのような異常を起こすかわからない。

 ものすごく不安である。そして恐怖が津波となって押しつぶされる感覚だ。


「私もタケル様に奴隷ゾンビにしてもらい、嬉しゅうございます。この年になっても新たな知識を吸収できるなど夢にも思いませんでした。

 このサージュ・サージュ、タケル様のために老骨に鞭を打って働きますぞ」


「うん。これからもよろしくお願いします」


 タケルが頭を下げようとするとサージュは止めた。


「これからは奴隷に頭を下げるのはおやめくだされ。あなたは王でございます。奴隷を顎でこき使ってこそですぞ。私はあくまでタケル様の知恵袋として働かせていただきます。よろしいですな?」


 サージュの真顔に圧倒されて、タケルは思わず、うん、とうなづいた。

 その様子を見てサージュは顎に指をあて考える。まるで彫像の如く表情は硬くなり、思案に明け暮れていた。


「どうしたの?」


「いいえ、なんでもありませぬ。少し考え事がありましたので」


 サージュは立ち上がると、身支度を始める。もっとも大した着物などなく、あくまで手で髪を整えただけだった。


「これからある集落に向かいます。そこにいけば最低限のタケル様の衣食住が得られると思いますので」


「そうなの?」


「はい。タケル様は私と違って空腹や睡眠を必要としております。生活を充実させるにはまず奴隷ゾンビを増やしましょう」


 サージュのいう通りであった。タケル自身は普通の人間なのだ。腹は減るし、眠くなる。サージュの粗末な掘っ立て小屋では安堵した生活など送れるわけがない。

 サージュ自身タケルに貧しい生活を送らせたくないのだ。一番最初に奴隷ゾンビとなった自分がタケルを王にする。それこそ自身が生を受けた最大の宿命だと感じていたのだ。


「そういえばこの魂晶石真黒だな。これはどうやって使うのだろうか」


 タケルは水晶のようなものを取り出した。サージュから取り出した魂晶石である。それは禍々しい闇の色を放っていた。見ているだけで吐き気を催してくる気がする。便器があればそこで中身をすべてぶちまけたい気分だ。


「魂晶石……。文献で読みましたが、人間の魂を結晶化したものだとか。ペテン師の絵空事と思っておりましたが現実に存在するのだから信じましょう。

 文献では魂晶石の黒は人間の負の感情で染まったものだそうです。

 あらゆる欲情が入り混じり、黒く見えるともっともらしく書いてありました。

 その石が真っ白になれば、そいつの体は木へと変化します。

 そして石は主の望む物へと自在に変化させられるということです」


 サージュの説明にタケルは魂晶石を見た。

 真黒で、いくら念じてもうんともすんとも言わない。このままではだめなことは確かだ。天に唾を吐いて、地面へ落下するくらいの確立である。


「私は欲深い人間です。そしてその欲望を満たせるならばどんなことでも致します。私はタケル様を利用してこの国に復讐をしたいのです。私を弊履の如く捨てた貴族共にぎゃふんと言わせたくてたまりません」


 サージュの顔が歪む。まるで福笑いのようだ。タケルは自分の欲望に忠実な老人に好意を抱いた。

 タケルの周りには弱者を食い物にするハイエナたちが群がった。天使の声をささやき、中身は鬼だったことは珍しくなかったのだ。


「そうですか。ぼくはあなたのように自分の本音をさらけ出す人は好きです。これからも僕のために働いてください」


 そう言ってタケルは握手した。サージュは一瞬毒気を抜かれたが、歯をむき出しにして笑い返す。


「さあゆきますぞ。これからタケル様の快進撃が始まるのですじゃ」


 こうしてタケルとサージュは掘っ立て小屋を出た。

 奴隷ゾンビの説明です。次回は集落で新しく増やす予定です。

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