表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第4章 奴隷ゾンビを作って国を変えよう
29/42

オルグリオ・レアオン

「ラスプーチン?」

 タケルはつぶやいた。高校に行っていないタケルでもラスプーチンの名前は知っている。確かロシアの怪僧であり、暗殺されかけても死ななかったという逸話は知っていた。

 正確には帝政ロシア末期に活躍している。実家は農夫だったがある日巡礼の旅に出た。そして帝都サンクトペテルブルクに進出する。

 その後ラスプーチンは人々に治療を行い、神の人ともてはやされるようになった。

 そしてロシア皇帝ニコライ二世とアレクサンドラ皇后と謁見。血友病患者である皇帝の息子アレクセイ皇太子の治療を行った。

 彼が祈祷をささげると、翌日のアレクセイの発作が収まり、症状が改善されたと言う。もっとも祈祷ではなく一八九九年に流通したアスピリン投与の沈痛治療ともいわれていた。

 この件で皇帝夫妻の信頼を勝ち取ったラスプーチンは宮中の貴婦人や宮廷貴族の子女から熱烈な信仰を集めるようになった。そうなると黙っていられないのが他の男たちである。

 彼らはラスプーチンをペテン師として扱っていた。怪僧と呼ばれるゆえんである。

 一九一四年にシベリアにあるポクロスフコエ村に帰郷したラスプーチンは暗殺者に襲われ、入院する羽目になる。暗殺を扇動したと疑われたものは精神病院に入院したため罪に問われなかった。この件でラスプーチンを公然と批判する者はいなくなったと言われる。

 第一次世界大戦後、彼の破滅が待ち構えていた。このころには反ラスプーチンの勢力が増大化していった。皇帝夫妻はラスプーチンの操り人形だと反皇帝派がポスターを作ったくらいである。

 そして一九一六年に暗殺が決行された。まずフィリックス・ユスポフによってプチフールというお菓子と紅茶に毒を盛られたのだ。

 だがラスプーチンは平然と平らげてしまう。

 次にユスポフはラスプーチンを泥酔させ、応接間におびき寄せる。そしてリボルバーで背後からラスプーチンを撃った。心臓と肺を貫通し床に倒れこむ。

 しかし彼は死ななかった。むくりと起き上がり、ユスポフを驚愕させたのだ。

 その後ユスポフの仲間がやってきて数発鉛の玉をお見舞いしたのである。それでもラスプーチンは起き上がった。暗殺者たちのほうが追い詰められるなど信じられないといえた。

 ユスポフたちは死体を絨毯で簀巻きにし車でクレストフスキー島に運んだ。そして橋の上から凍てつくネヴァ川に捨てたのである。

 遺体は二日後に橋から一四〇メートル西に離れた場所で発見された。これが歴史に記されたラスプーチンの生涯である。


 ☆


「ラスプーチンてロシアで有名な怪僧のこと? 暗殺されても死ななかったという」

 タケルが訊ねるとラスプーチンは肯定した。

「正確には帝政ロシアでしたね。怪僧というあだ名は不本意ですが、的を得ています。私の名前と最後は日本の国にも伝わっているようですね」

 ラスプーチンが丁寧に答えた。だがわからないことがある。なんでラスプーチンがここにいるのか。どうして言葉が通じるのか。その謎は解けていない。

「簡単ですよタケル様。おそらく初代抜魂術師サダの仕業でしょう。奴隷ゾンビになっていれば殺されることはないのですから」

 これはサージュ・サージュである。彼は少ない会話から情報を分析していたのだ。なんたる人間算術機であろうか。ラスプーチンはにやりと笑う。

「その通りです。あの方は異世界から私に語り掛けてきました。我がロシア帝国がフランスやイギリスと連合を組み、ドイツ帝国と戦争を行う前のことでしたね。ある日あの方は私を奴隷ゾンビに変えました。異世界から直接別の世界の人間でも奴隷ゾンビに変えられるかの実験でした。実験は見事に成功しましたが、私はユスポフとドミトリーに殺されかけ、冬の凍てつく川に捨てられました。

 ですからあの日ノール村のジョリ河に捨てられた時は運命だと思いましたね。

 その後、私の身体はこちらに移りました。そしてサダ様の命令に従い、この時を待っていたのです」

 ラスプーチンはべらべらと自身のことを語っている。タケルはこいつを斬ろうかと思ったが、だめだった。隙がないのだ。この男はペテン師と呼ばれていたが実力は高いようである。

「さて私がおしゃべりをしたのは理由があります。あなた方に知ってもらうためです。あの方が用意した絶望を味わってもらうためですね。何も知らずに突っ走ってもらうのは困るのですよ。あなた方をより深い絶望に陥れるためにね」

 するとラスプーチンはもろ肌を出した。心臓部分には天使の門が描かれている。

「この男を殺したのは理由があります。この男の無残な死がほしかったのです。死を否定し、すべての不幸は自分を避けて通ると信じ切っている者のね」

 オネット・エペイスト三世の遺体からうっすらと黒い影が浮かび上がってきた。それは人の形をしたものである。そしてラスプーチンの心臓に吸い込まれていったのだ。

「さあ我に力を!! 我の身体を器としもう一度肉体を得るのだ!!」

 ラスプーチンの足元から渦が巻きあがる。身体が光り出した。

 一瞬まぶしくなる。目を開くとそこには怪物が立っていた。

 ライオンが十字架に縛られている。両手は楔に打ち込まれ、両足は縛られていた。それを均衡を保ちながら立っている。

「オルグリオ・レアオンですか。ちっぽけな矜持を守ろうとする小者にふさわしい力ですね」

 それはライオンの怪物からであった。今まで怪物に変化したものは意識を喰われており、本能の赴くまま暴れていたのだ。それなのにオルグリオ・レアオン、ラスプーチンは自分の言葉でしゃべっているのである。

「さてさっそく力を震わせてもらいますよ」

 オルグリオ・レアオンは十字架でぴょんぴょんと移動し始めた。さらに高く飛ぶとタケルたち目がけて落下してくる。

 その衝撃で地面が揺れた。突然の揺れにタケルの家の周りの住民たちは何事かと外に飛び出す。

「さあ私の力を見せつけてやりましょう!!」

 十字架に磔にされたライオンは自分自身を独楽のように回転させた。まるで竜巻である。タケルの家を半壊し、他の家も巻き込み始めた。

 奴隷ゾンビたちも巻き込まれてミンチに化したが、すぐに修復される。それでも見ていて気分が悪くなった。

「貴様ぁ!!」

 タケルはキレた。住民たちを巻き込んだからだ。奴隷ゾンビだから大丈夫なのではない。彼らを無視して害を与えたことが許せないのである。

 回転が終わると、タケルは剣を持って切り出した。

 だが十字架をうまく回転させ、タケルの剣をさばく。磔にされているのにも関わらずまったくハンデを感じさせない戦い方であった。

「タケル様加勢いたします!!」

「あたいもがんばるよ!!」

 アムールが槍を構え、アグリが弓矢を持つ。

 タケルが切り付け、アムールが突き刺す。そしてアグリが援護していた。

 だがオルグリオ・レアオンは微妙に体をずらし、攻撃を避けている。一番不自由な怪物は、自由に動くタケルたちを翻弄しているのだ。

「それで精一杯ですか? まったく話になりませんね」

 オルグリオ・レアオンはタケルたちに背を向ける。そしてある方向へ飛び始めたのだ。

「ああ、あそこは!!」

 アグリが叫んだ。

「保育園がある場所だ!!」


 ☆


 タケルたちはオルグリオ・レアオンを追いかける。そして保育園に到着した。そこでは惨劇が広がっていたのだ。

 保育園は壊滅していた。周りの家にも炎が移っており、消火作業で走り回っていた。

 子供たちの泣き声が響いている。保育士たちは怪物に立ち向かうも返り討ちに遭った。

 子供たちは一塊になり、目の前で暴れる脅威に怯えていたのだ。

 張本人は崩れ落ちた保育園の建物の上に立っている。そこで

「きっさまぁぁぁ!!」

 タケルの頭が沸騰した。自分を狙うのは構わない。だが無力な子供を狙うのだけは許せないのだ。この外道が!! てめぇは自分の手で地獄に叩き落してやる!! タケルの眼はそう言っていた!!

 ライオンはあごをしゃくる。こっちに来いと言っているのだ。明らかな挑発であり、アムールは止めようとした。だが怒り心頭の主を止めるなどできない。自分ができることは補佐することだけである。

 アグリと目を合わせうなずく。こういうときは息の合う二人なのだ。

 怪物はタケルに襲い掛かる。逆さに落下して、足を払う。タケルの足に激痛が走った。だがタケルの骨は魂晶石でできている。ひびなど入らない。

 だが何度も打撃を喰らえば肉が持たない。なんとかダメージを与えたいがどうすればいいのだろうか。アムールたち奴隷ゾンビを利用するにしてもこいつは人を喰わない。わざと食べられてダメージを与える方法は使えないのだ。

「こいつの防御はちっぽけな矜持を守るために生まれたもの。ならば防御ができないようにすればよいのです」

 コンフィアンスである。彼女は知らないうちに保育園に来ていたのだ。

「タケル様、そちらへ誘導してください」

 タケルは彼女に言われるままに怪物を誘導した。怪物はタケルを追いかけ飛んでくる。だが着地した瞬間地面に飲み込まれた。

「落とし穴を掘らせてもらいました。古典的ですが、やはり基本は大事ですね」

 コンフィアンスがガッツポーズを取る。一体いつの間に掘ったのだろうか。たぶん魔法を使ったのかもしれない。

 動きを止められたオルグリオ・レアオンはなすすべもなくタケルに打ち取られた。

「これでいい。これであなたたちはなぜ怪物が生まれたのか理解できたはずです」

 死にゆくラスプーチンは命乞いをせずそのまま消え去った。

 タケルたちは知らないだろうけど、ラスプーチンの身体は彼が元いた場所へと戻っていったのだ。

 すなわち一九一六年一二月三〇日のネヴァ川に戻ったのである。

 警察と政府関係者が発見したとき、ラスプーチンの遺体の手足は縛られていた。まさか彼が別世界で十字架に磔にされたライオンの怪物になっていたなど知る由もない。こうしてラスプーチンは史実通りの死を迎えたのであった。

 今回のネタは連載当初考えていませんでした。

 連載を進めるうちにアイデアが温まり、今回の形になったのです。

 ラスプーチンの名前は知っているけど、グレゴリーが本名なのは調べないとわからないと思いました。

 応援ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ