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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第3章 高貴な人を奴隷ゾンビに変えよう
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タケルトン

 西から太陽が昇って数刻経った後、ノブレスの屋敷の塀を修復している影がふたつ揺らいでいた。

 塀は何年も修復されずにボロボロだった。狐狸だの浮浪者だのが自由に行き来できるほどの穴がぽっかりと開いている。日陰の場所では壁一面に苔がびっしりとへばりついていた。雑草も生え放題。化け物屋敷と言われても納得できる。

 それを新しい居候であるタケルともう一人全身皮の服に覆われた男が作業していた。黙々と赤レンガで補強している。

 腕や足の部分はなぜかボタンがついていた。いつでも外せるようだ。

 皮のマスクで顔を隠し、丸いレンズだけが光っている。

 だが覗き込んでもそいつの眼を見ることは不可能だ。なぜならそいつには目がないのである。

 タケルトン。そいつはそう呼ばれていた。タケル自身の骸骨だからだ。

 タケルに魂晶石を抜き取られた奴隷ゾンビのおかげである。

 奴隷ゾンビは自殺を命じられるか、魂が浄化されるまで死なない。

 今回は後者であり、一度に七名の魂が天に召されたのだ。

 浄化した者たちは木に変化する。そして魂晶石はその人間が得意としたものに変化するのだ。

 だが今回は全員がタケルの骨になりたいと願ったのだ。魂晶石がタケルの骨となり、入れ替わりに今までの骨格が外へ出たのである。

 その後コンフィアンスの魔法により、新たな魔法生物として生まれ変わった。それがタケルトンである。

 命名はメイドのピュールであった。

 タケルトンは黙々と作業をこなす。休憩は必要ない。彼は骨だけなので疲労はないのだ。もちろん骨自身はすり減るので注意は必要である。それを守るために皮の服で身を守っているのだ。

「大丈夫?」

 タケルは心配そうに声をかけた。

 タケルトンは首を振る。問題ないとジェスチャーをした。

 声帯はないが意思疎通は可能である。

「おいおい、魔女の家で何をやっているんだぁ?」

 銅鑼のような大声が響いた。みると三人組の男でチンピラである。

 こいつらはアンサンセの手下だ。ノブレスに親しくする人間は徹底的に嫌がらせをして、やめさせる。自身を磨くより相手を陥れるのが好きなようだ。

 コンフィアンスは意地でもやめない。むしろ相手を挑発するのが好きだ。そして決して自分では手を汚さず、自滅させる方法を選ぶ。

 さて因縁を付けられたタケルたちだが無視している。セミのようにうるさいチンピラは相手にしない。どうせしばらくすれば死んでしまうのだ。わざわざいたずらに命を奪う必要はなく、好きに泣かせればよい。

 もっとも彼らはセミのようにちっぽけなプライドを大切にしていた。無視する相手にさらに暴力を振るいたくなるのが彼らの性質である。

 見た目は弱そうな子供であり、一方的な暴力で蹂躙できると思い込んでいた。どうやって目の前の生意気なガキどもをいたぶり、殺して楽しもうかそれだけが頭にある。

「おいおいおい~。無視するんじゃないよ。俺たちを何だと思ってるわけ?」

「俺たちの後ろにはなぁ、国王様がついているんだよ。俺たちに指一本でも触れたらお前らは死刑になるんだねぇ」

「そうそう。だからお前らは死ぬんだよ。ここに住む淫乱な魔女のせいで殺されたと公園の真ん中で飾って札に書いておくからさぁ」

 聞いているとむかむかするしゃべり方である。自分たちの実力ではなく、他者の権威を盾にしていた。まったく軽い連中である。

 タケルトンは三人組に向き合った。しっしと手を振るう。あっちにいけといっているのだ。

 三人組は最初何をされたかわからなかった。だが理解するとすぐに真っ赤になる。

 さらにタケルトンは右手の親指を上に向ける。それで首を左から右へ一直線に掻き切った。そして親指を下に向けて降る。

 お前らの首を掻ききって地獄へ落としてやる。タケルトンはそう言っているのだ。挑発にもほどがある。


 ☆


 三人組は激高した。タケルトンの中身を知らない彼らは相手の力量をまったく無視して殴りかかった。

 タケルトンは相手の拳を空に舞う枯れ葉の如くさらりとよけた。

 そして自分の左腕を取り外す。服の構造はこれを意味していたのだ。

 外された左腕で、チンピラ共の頭をたたきのめす。

 一人は顔面を潰され、次に相手の側頭部を叩きのめされる。

 最後の一人は脳天に叩き付けられた。

 タケルトンは自分の腕を元に戻す。

 チンピラたちは混乱した。タケルトンが腕を取り外したからだ。目の前の現実が理解できず、思考が止まる。彼らは脱兎のごとく逃げ出した。

 このことを雇い主に報告し、報復するためである。ただの暴力ではつまらない。相手が働けないように各部署に工作する。商店にも通告してひとかけらのパンすら売らないように命じるのだ。

 それらを瞬時で想像し、残虐な笑みを浮かべている。鼻水と涎をだらだら垂らしながら、走っていた。

 だがタケルトンはそれを見逃さない。両手で頭部を取り外すと、チンピラたちが走り去る壁の近くに投げつける。

 頭部は壁に跳ね返り、チンピラたちの頭にぶつかった。ごちんごちんと頭がぶつかり、星が出る。道端に倒れた。

 タケルはすぐにチンピラたちを奴隷ゾンビに変えてやった。もう彼らは好き勝手なことはできない。強制的に真面目な人生を送らされる羽目になったのだ。

 さてタケルトンの頭部は戻ってきた。天高く飛ばされた頭部を両手できれいにつかみ取る。そして頭部を元に戻すと、壁の補修を続けた。

 その様子を見たタケルは感心した。

「本当に僕の骨なのだろうか?」


 ☆


 その晩、応接間でタケルはコンフィアンスとともに情報の整理をしていた。

 奴隷ゾンビに変えた浮浪者たちや兵士たちから情報をもらい、まとめていたのである。

 現在浮浪者が多いのは、国が公共事業を次々と廃止したためである。それらはイシュタール共和国の技術が提供されたためだ。ムナールを侮辱しているということで潰されたのである。

 だがイシュタールの技術のおかげで食糧事情は向上し、工芸品も昔と比べればはるかによいものができている。西の帝国エストカープに輸出することができるほどだ。

 さらに貴族の使用人雇用も削減された。未亡人などを雇うことで雇用を増やしていたのだ。病気になっても新米の医者に診せることができる。経験を積ませるためだ。それなのに雇用を削減しろと命じられた時、貴族たちも首を傾げた。

 今の五〇代は百年前の戦争など知らないのだ。祖父や父親たちはイシュタールの恨み言を子守歌として聞かせたが、彼らは聞き流す。

 三代目にもなると恨みが薄くなるものだ。むしろうるさい祖父たちの言葉など誰が聞くものかと苛立つ始末である。

 イシュタール共和国に留学している者は多い。ムナール王国のカビの生えた文化と技術より、エストカープの化学が入り混じったイシュタールの大学の方が勉強になるからである。

 実はアンサンセも留学しており、イシュタールの国力に感心していたのだ。娯楽が充実しており、彼は二〇年前には老人たちの小言を無視してイシュタール共和国の祭を開催したのである。老人たちは猛反発したが流れ者の小唄のように聞き流した。

 イシュタール共和国の著名者や技術者を招いては自国のために協力を求めたのである。

 それがここ数年変貌してしまった。反イシュタールに力を込め、敵国の文化を一切否定し、廃止したのだ。

 そして父親であるティミッドを幽閉し、暴君と化した。

 毎日甘いお菓子を貪り食っているという。あまりの変貌に国民は彼は洗脳されたのだと噂している。

 他の弟たちはすでに処刑された。ノブレスの姉三人は国内の帰属に嫁いでいたがこちらは一族郎党皆殺しにされたのだ。生きているのはノブレスと末の弟だけである。

「現在アンサンセ陛下に従う貴族がほとんどです。ですがどれも家族を守るためですね。それにあまり国民をいたぶるのも勘弁したいと思っています」

「国民をいじめて楽しいとは思ってないのかな?」

「あまりいじめて逆恨みされるのを恐れています。ムナール王国の貴族は結構その点は気にしていますね。追い詰めるより優しくした方が得だとイシュタール共和国の大学で習ったそうですから」

 コンフィアンスの答えにタケルは納得した。

 ちなみにピュールは食事の支度をしている。調理はタケルトンだ。彼女自身調理をしたがったがタケルトンが止めた。この点に関してはタケルトンを称賛したい。

 あとタケルはフェアネン・イディオの弟と出会えた。兄と違い人当たりの良い若者だった。弟曰く兄は親に甘やかされて育ったためわがままになったという。娼婦に入れあげて元締めに絡まれたのは数多い。金貸しに追われたこともあった。

 弟の方は兄を反面教師としたためトラブルとは縁がなく、きれいなお嫁さんをもらい子供もいた。フェアネンはそんな弟に無心をしており、彼の家族に嫌われている。

 そんなある日アンジォ教団を信仰しはじめたという。祈るだけで働かなくて済むと弟に勧めに来たくらいだ。断ろうとすると兄と同じ信者たちがやってきて脅迫を始めたのである。

 妻の友達を引き裂き、子供をいじめに対象にするなどあくどいのだ。それに折れて弟たちも信仰することにしたのだ。

 その後フェアネンは心臓にある刺青を入れた。

 それは親指で丸を作るほどの大きさで、五方星のマークだった。

 兄曰く天使たちが入り込む門のマークだと言う。信仰深い信者だけに与えられると言うらしい。

「なんでも弟さんの話では天使の門を与えられたのはフェアネンさんのような人ばかりみたいなんだ。プルミエやスゴンもそんな人種だったね」

「自分大好き、他人大嫌いな人間がほとんどらしいですね。一体なぜそんな人たちを選んだのでしょうか」

 今のところ町や都にも化け物になった者はいない。いつ化け物が出現してもおかしくないのだ。

「ただいま帰ったぞ」

 主が帰ってきた。コンフィアンスは主の元に急ぐ。

 ノブレスはやっても無意味な仕事を押し付けられていた。従者であるタケルは手伝えない。ノブレス一人だけでブラック勤務をしているのだ。もっとも疲労感はないので意味はない。

「タケルよ。明日は一緒に城に行くぞ」

「城、ですか?」

「ああ、兄に会いに行くぞ」

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