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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第3章 高貴な人を奴隷ゾンビに変えよう
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ドーナツが食べられない環境

「ドーナツを食べることはできないかな?」

 昼下がり、ノブレスの屋敷にある台所で、タケルとコンフィアンスは向かい合っていた。タケルは自分の世界で作られたお菓子、ドーナツの話をしていたのだ。コンフィアンスは顎に右手を当て悩む。

 タケルがドーナツを作り、彼女は味見をした。そこそこいける味だと判断している。だが屋敷に唯一のメイドは顔を曇らせた。

「難しいでしょう。そもそも一般の子供に食べさせるのは危険です。アンジォ教団は一部の特権階級を除き、嗜好品を禁じていますからね」

 それが縛りになっているのだ。ノブレスは一応貴族であり、小麦粉や砂糖、卵は手に入る。だがそれを他者に食べさせることはない。それだけの金がないからだ。

 さらにノブレスの兄が許さない。人気取りのために庶民に対して食事を提供するなど、王族の矜持が許さないのである。パフォーマンスすら行わないのは国として末期である証拠だ。

 あと子供たちは秘密を守らない。ドーナツが特別おいしいわけではないが、甘いお菓子をくれたことをしゃべらずにはいられないのだ。内緒にしろと言われても無理である。子供は自分だけなら大丈夫という根拠のない自信に満ちているものだ。

 口の軽い子供たちから秘密が漏れ、ノブレスに災厄が降り注ぐ可能性は大である。奴隷ゾンビなら命令すれば約束は守れるだろう。だが子供たちは違う。タケルは腐った大人を一掃するため子供の教育に力を入れたいのだ。

「ですが嗜好品を禁じられていない場所なら問題はありません」

 コンフィアンスが答えた。彼女はタケルの作った街のことを言っているのだ。

「邪魔で汚い子供たちも大量に片付けたいと願い出れば叶う確率は高いです。ノブレス様が庶民に嫌われるから。子供を捨てる魔女として悪名が広がるからです」

 なんとも胸糞の悪い話である。だがそれはタケルの町に子供たちが増えやすくなることを意味するのだ。さっそくノブレスが帰ってきたら提言するとしよう。


 ☆


 夕方、都の屋台通りをタケルとコンフィアンスは一緒に歩いていた。タケルの食事の買い出しである。屋台通りはそこそこ人が多かった。だが売っている物は微妙である。

 ネズミやカエルの焼肉に、ザリガニやヘビのから揚げ。虫の佃煮などが店頭に並べてあったのだ。お菓子の類は一切おいていない。置いたら最後兵士たちが店を取り潰し、品物と金を根こそぎ奪い盗るためだ。

 買い物に来ている客はどれも生気がなく、ぼろをまとっている。閻魔の裁きを受けるために並ぶ亡者の群れに思えた。

 生活に疲れたものがほとんどなのだ。希望もなく、楽しみすらない。生きる屍と化している。

 そんな中、タケルは一人の少女にぶつかった。

 年齢は十代前半でピンク色の髪に軽くパーマがかかっている。

 小柄でハムスターのような愛嬌のよさそうな娘であった。着ている服は黄色い洋服でエプロンを付けている。

 だが彼女の胸は豊満であった。歩くたびにたぷんと揺れている。

 右手にはバケットを持っており、彩の花が入っていた。

「はわわ~。ごめんなさい~。ぶつかっちゃいました~」

 舌足らずな口調で謝る少女。タケルは平気だよと謝罪し、後にする。

 タケルはすたすたと歩き、隣にいるコンフィアンスに声をかけた。

「花売りなんて珍しいね」

「いえ、花売りは禁止されているはずです。生きるのに関係ないからだと」

 彼女の答えにタケルは思い返す。確か町には花が飾られているはずだ。

「あれはフラメル商会の独占です。一般人は花を売ることは認められておりません」

 だとすると先ほどの少女は何者だろうか。すると後ろから絹を裂くような悲鳴が上がった。

「てめぇ、また凝りもせず花を売りやがったな?」

「てめぇみてえな小便臭いガキが生意気なんだよ!!」

 それはピンク髪の少女であった。ガラの悪い兵士二人組に絡まれている。先ほどのセリフからして彼女は再犯のようだ。

「おしっこ臭くないです! きちんと濡れタオルでしっかりと拭いたから大丈夫です!!」

 左右に手を腰に当て胸を張る少女。論点がずれている。兵士たちは身だしなみについて文句を言っているわけではない。

「そういう意味じゃねぇんだ!! 誰に許可をもらって花を売っているかって聞いているんだよ!!」

「花を売らないとご飯が食べられないからです。子供だって知ってるよ」

 またずれた発言だ。許可を取らずに商売したことが問題なのである。彼女はどこかピントが外れた性質のようだ。

 兵士たちの表情がみるみるうちに赤くなる。おそらく前にも似たようなことがあったのだろう。彼女はえへんと胸を張る。まるで物知りを自慢するガキ大将であった。つまり年齢と比べて頭脳が幼稚なのである。

「てめぇ、来やがれ!! 今日こそたっぷり可愛がってやるよ!!」

「そうだなぁ。他の連中も呼んでやろうか。楽しませてやるよ」

 兵士たちは下品な笑みを浮かべる。少女はきょとんとした顔になった。

「えーと、あたしが可愛いのは当然だけど、可愛がるって何? あたしの頭をなでなでしてくれるの?」

 それを聞いたタケルは彼女を助けることにした。とてもではないが危なっかしくて放っておけなくなったのだ。コンフィアンスに服の袖を引っ張られる。人気のないところに誘えという意味だ。

 タケルは少女の右手を掴むと、強引に引っ張っていった。そして人気のない路地裏に逃げ込む。

 暗く日の当たらないナメクジが沸いていそうなじめじめした空間だ。長い間ここにいれば身体だけでなく精神まで腐りそうになる。生ごみのような悪臭で息が詰まりそうだ。

 少女は息を切らしている。コンフィアンスはタケルが少女を連れ出したとき、反対方向へ逃げた。兵士たちに見つからないようにするためである。

「……あたしと遊びたいの?」

 少女がぼそりと呟いた。女体に飢えた野良犬二匹から無理やり引っ張られたのだ。そう言った覚悟を決めていたのかもしれない。

 タケルは否定しようとしたが、少女の口からは予想外の答えが返ってきた。

「ままごとをしたいならもう少し明るい公園でやりましょうよ。ここじゃ、どろどろの不倫劇になっちゃうわ。あたしはもう少し家庭的な雰囲気を楽しみたいの?」

「はい?」

「ままごとが嫌なら、お医者さんごっこでもいいよ。男の子はみんなあたしを診察したがるんだよね。そしたら他の女の子たちが懸命に止めるの。なんでだろ?」

 少女は首をかしげる。タケルは思った。彼女は馬鹿だ!! 限りなくオツムが緩すぎる。この都でよく生きてこられたと感心したくらいだ。

 そこへ兵士二人組が追いついた。息を大きく切らしている。

「ぜぇ、ぜぇ、もう、にがさ、ねぇぞ?」

「ひっひっひ、ここまで疲れさせたんだ。てめぇもたっぷりと楽しませてもらうぜ」

 汗を滝のように流しながら、少女をねめつける。よほど彼女の身体に興味を抱いたのか、舌なめずりしていた。

 タケルは兵士二人組の前に立つ。

「ぼくの奴隷になれ!!」

 魂晶石がふたつ心臓から取り出された。タケルは簡単な命令を与えると兵士たちは回れ右をして勤務に戻っていく。その様子を見た少女は惚けていた。

「あなた……」

 少女は怯える目でタケルを見ていた。いきなり非現実的な光景を見せられたのだ。タケルを得体のしれない化け物と思っているかもしれない。

「ぼくは……」

「あなた、男が好きなの? 男のくせに、同性を奴隷にするなんて。男が好きな証拠よ」

 少女はかなり的外れな発言をした。思わずタケルはこけそうになる。なぜ今の光景を見て自分を同性愛者扱いにしたのか理解に苦しむ。

「違うよ。ぼくは男が好きじゃない。奴隷にするのに男女は関係ないよ」

「じゃあ両刀使いなの?」

 頭が痛くなってきた。彼女と話をしていると疲れてくる。自己紹介をしてから去ろうと思った。

「初めてお目にかかります。大和タケルと申します」

「ああ。どうも初めまして。ピュール・ムニュイジエです」

 少女が深々と挨拶した。タケルはムニュイジエという性に聞き覚えがある。試しに訊いてみた。

「ムニュイジエというと、大工のテチュさんをご存知ですか?」

「大工のテチュ? それはあたしのお父さんだよ」

 果たして彼女はテチュの娘であった。頑固そうな父親に反して娘の頭はかなり緩そうである。

「あなたはお父さんのことを知っているの? もしかして愛人?」

「愛人じゃないよ。というかどうしてそんな発想になるのさ」

「男同士仲が良ければみんな愛人なんでしょ? あたしが考えたんだけど」

「違うよ! それと君の考えは間違いだらけだよ!!」

 タケルは力いっぱい突っ込んだ。とても疲れる女性だ。

「それはそうと君の家族はどこにいるの? ぼくが家まで送るけど」

「家族はいないよ。親はみんなあたしを置いて消えちゃったし」

「え?」

「最初はお父さん。病気になったからあたしたちに迷惑かけられないといって、置手紙を残して消えていたの。次はお母さん。アンヌって名前だけどお父さんが消えてから一気に老け込んで、寝たきりになったわ。それで兵士たちがやってきてお母さんを捨てちゃったの」

「……財産とかはどうしたの?」

「みんな取り上げられた。国が管理するって。すごく親切だよね。あたし難しいことはわからないから助かっちゃった」

 最後の方はずれていたけど、なんともひどい話である。彼女は両親が病気になったために不幸になったのだ。幸いなのが彼女は自身の境遇をこれっぽっちも認識していないことである。なんとも危なっかしい、そしてほっとけない少女だ。

 それとテチュの女房であったアンヌという女性。そういえば同じ姓であることを思い出した。ピュールからアンヌの特徴を訊いてみる。すべて一致していた。

「君のご両親は生きているよ。ぼくが奴隷ゾンビに変えたからだ。二人は再婚しているよ。でもそのことには触れていなかったのが不思議だけど」

「新婚気分でいたいからじゃないの? 生まれ変わったならそうする。あたしだってそうするわ」

 ピュールが自信満々に答える。そうかもしれないとタケルは納得した。

 今回新キャラを出しました。

 作中では珍しいおばかキャラです。話を進めるために頭のいいキャラを出すのは大事だけど、箸休めみたいなキャラも必要だと思うのですね。

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