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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第3章 高貴な人を奴隷ゾンビに変えよう
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人体実験

 タケルとノブレスは毎日老人を十三人馬車に乗せてゴミ捨て場に向かう。

 すでにノブレスは自ら捨てに行かなくてはならなくなった。彼女の兄、アンサンセのせいである。

 内親王なのに臭く汚い仕事を押し付けられるノブレス。

 民衆の中には彼女に同情する者はいる。だが声には出さないし、手伝いもしない。

 そんなことをしたらあっという間に兵士たちに囲まれ、リンチに遭うか、疎外の対象にされるからだ。

 正しいことをして処罰される。そんな理不尽なことがまかり通るのがムナール王国の都であった。

 もっともそれは何も知らぬ第三者が噂するだけの事。当のノブレスにとって現在の状況は最上なのである。

 そもそも馬車には病人を乗せなくなった。タケルが奴隷ゾンビに変えたので健康を取り戻したからである。もちろん食事の際は人に見られないように指示を出した。

 捨てられた老人たちはすぐに奴隷ゾンビに変える。そしてタケルの直筆の命令書を配布するのだ。町ではサージュの指示に従うようにする。そして各人の能力に応じて仕える人間を決めるのだ。

 仕事が終わったらノブレスは詰め所で書類の整理をする。実のところどうでもいい書類ばかりだが、アンサンセが嫌がらせのために押し付けている仕事なのだ。

 周りの兵士たちはやる気がない。弱い者いじめを楽しみ、集り《たかり》や強請ゆすり、飲む、打つ、買うの三拍子であった。

 タケルはそいつらを片っ端から奴隷ゾンビに変えてやった。まじめに仕事をしろ、いじめや陰口は一切許さない。そう命じてやったのだ。

 さらにノブレスの屋敷周りは浮浪者が多かった。仕事を失い、日長一日寝転んでおり、夕方になると食事を漁りに動き出す程度である。

 その中には子供もいた。親に捨てられたり、逃げ出したりした者もいる。

 病気で寝込んでも誰も助けない。朝に冷たい遺体となって発見されると、都を通じるジョリ河に投げ捨てるのだ。それがノール村へ続いていくのである。

 もちろんタケルは彼らを奴隷ゾンビに変える。そして子供たちを世話するように指示するのだ。子供たちの住む場所は廃墟に移させる。大人たちはゴミを拾って子供たちに快適な空間を提供した。

 食事はゴミから漁ったものだがこればかりは仕方がない。子供たちの死亡率は低下した。

 それに大人たちは気温の変化に悩まされなくなったし、空腹もない。薄着になっても寒くないし、路上で寝ても痛くないのだ。

 たまに浮浪者を殺して遊ぼうとする兵士や貴族の子供がやってくるが、例外なく奴隷ゾンビに変えてやる。殺したり、いたぶったりはしない。まじめに規則正しい生活を命じてやるのだ。

 好き勝手に生きる人間にとって、規則正しい生活は地獄の苦痛である。もちろん精神的な痛みは感じないはずだが、奴隷ゾンビでもある程度のストレスはあるとタケルは思っている。


 ☆


 タケルとコンフィアンスは買い物に出ていた。食費はすでにタケルだけである。誰も新顔であるタケルを気にかけない。皆無情になっているのだ。人のことなどどうでもいい。家族ですら一緒に暮らす他人としか思っていないのである。

 奴隷ゾンビに変えられたテチュたちが一番家族らしくなったのは皮肉であった。

「食費が浮いています。タケル様しか食べませんからね」

 コンフィアンスは買い物かごの食材を見てつぶやいた。いろどりの野菜が入っている。食費は浮いているが、洗濯や掃除は必要だし、身だしなみも大切だ。そちらのほうに金を使えるようになっている。

「居候の身としては心苦しいな」

「気に病むことはありません。本来、タケル様がご主人様です」

 コンフィアンスはどこか冷たいものを感じる。爬虫類のような目をしていた。だからといって冷血ではなく、タケルに対しての気遣いは痒い所に手が届くようなものだった。

「おい、お前ら」

 タケルたちが住宅街を歩いている。買い物を終えて帰路についているところだ。突如声をかけられ、二人とも後ろを振り返る。

 そこには二十代を過ぎたばかりの男が三人立っていた。猿のように歯をむき出しに笑う漢、豚のような鼻にビア樽のような腹が出た男。そして頭部が河童のように禿げ上がった細長い男であった。

「何か御用ですか」

 コンフィアンスは無表情に訊ねる。

 猿男はきっきっきと笑いながら彼女に絡んできた。

「ようお嬢ちゃんよぉ。てめぇはノブレスの腰ぎんちゃくだよなぁ? さっさとあそこをやめる気はないのかよぉ?」

 タケルは一瞬何を言われたのかわからなかった。するとコンフィアンスが軽く肘を打ち小耳に入れる。

 彼らはノブレスの屋敷で働く者を脅してはやめさせるよう仕向けているのだ。

 アンサンセの差し金である。彼女を孤独にしないと気が済まない様だ。

 タケルは呆れた。そしてアンサンセの蝮のような執着心に背筋がひやりとなる思いであった。

「やめません」

 コンフィアンスは断言した。まったく迷いのない答えだ。それに反して男たちの顔がみるみるうちに赤くなる。彼女より年上だろうが、沸点の低いにもほどがあった。

 河童男がナイフを取り出す。慣れた手つきでちらつかせていた。

「てめぇ……。俺たちを舐めるんじゃねぇぞ……? 俺たちにはでっかい後ろ盾がいるんだよ。てめぇみたいな小便臭いガキなんざ消し炭にするくらいわけはないんだ。てめぇも自分の身が可愛いんだろぉ? だったらあの女の家なんか出て……」

 河童男が脅し文句を並べていると、コンフィアンスはナイフを持つ手を掴んだ。

 なんとナイフを自分の右眼に突き刺したのである。血は出ていない。彼女の表情は全く変化なしだ。

「なるほど。痛みはありませんね。ですが右目の視界が悪いです。ナイフが刺さっているからでしょう」

 コンフィアンスは冷静に自己判断している。河童男の方は顔が蒼くなっていた。他の仲間たちも茫然としている。しばらくして恐怖が頭の中に広がっていき、汗が噴き出てきた。

「さて次は耳をそぎますか」

 彼女はナイフを持った手を右手でつかむ。そして左手で左耳を抑え、一気に耳をそいだ。

 耳はぽとりと地面に落ちる。やっぱり血は流れない。すると耳がふわりと宙に浮いた。それをコンフィアンスが足で踏みつける。

「やはり痛みはないですね。そして一度離れたら元に戻ろうとしています。こうやって足で踏んでおくと動きを止められるようですね。勉強になります」

 靴を少し浮かせると耳は持ち主の元へ戻った。耳はきれいにくっつく。

 河童男は白目を剥いていた。目の前にいる少女は人間ではない。人間のふりをした人形だ。そうでなければこんな現実離れしたことなど起きるわけがない。

 必死に現実逃避を試みていたのだ。

「ぶひぃぃぃ!!」

 豚の鳴き声がした。それは豚男の声だ。手にはこん棒を持っている。脅しのための小道具だろうが、今は怪物胎児の必須武器だ。

「この化け物め、人形め!! お前なんかぶっ壊してやる!!」

 豚男の振るうこん棒は容赦なくコンフィアンスの頭部を打ち据える。

 殴られるたびに彼女の身体は左右へ吹き飛ばされた。猿と河童は正気に戻り、豚男と一緒に暴行に参加する。

「死ね死ね死ねぇぇぇ!!」

「ぶひひひひ、人を殴る感触たまんな~~~い!!」

「化け物め、化け物め、化け物め!!」

 彼らはか弱い少女を力いっぱい自分の欲望をぶつけた。もう彼らの意識は現実から離れていった。白昼夢を見ているような錯覚を覚えている。

 タケルは呆気に取られていたが、正気に返る。そして三人組を奴隷ゾンビに変えてやった。

 三人組は暴行の手を止めた。後に残るのはほこりまみれのか細い少女人形だけである。

 コンフィアンスは立ち上がると埃を手で払った。

「……なるほど。暴行を受け続けると動きが封じられてしまいました。私の腕力では反撃ができませんでしたね。自分より強いものと関わるときは要注意です」

 けろっとしていた。先ほどの暴風雨の被害など頭にない様子だ。これを見て三人組は恐怖で引きつった。失禁し口から泡が噴き出ている。逃げ出したくても足がすくんで動かない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。

「さあ、もっと実験を続けましょう。今度は鼻をそいでくださいな。次はナイフで頬を貫くのもいいでしょう。

 乳房を切り取り、子宮にナイフを突き刺すのも興味深いです。さあもっと試してみてください。お願いいたします」

 三人組はあまりの恐怖に意識が飛んだ。

「あらら。もうおしまいですか。残念です」

 コンフィアンスは心底悔やむ様子であった。


 ☆


「やはり君はサージュさんの孫娘だね」

 屋敷に戻ったタケルとコンフィアンス。台所でタケルのために食事を作っていると、彼に声をかけられる。

「どういう意味ですか?」

「あなたは奴隷ゾンビとしてどのような性質か試そうとしたのでしょう?

 サージュさんも同じだった。魔法で体を焼いたり、高所から落下したり、自殺紛いのことをして実験していたんだ。

 ちなみに奴隷ゾンビは自殺を命じられると死ぬから先に言うよ」

「なるほど。祖父らしいですね。いいえ、祖父ならそうします。知的好奇心を満たす気持ちは祖父にも負けません。いつか祖父のような賢者になる、そう願っています」

 コンフィアンスは食事の支度をしながらつぶやいた。

 タケルは彼女に尊敬の念を抱くようになった。

「でも自分の身体で実験するのはひいちゃうな」

「自分が体験しなければ無意味ですから」

 彼女はそう言い切った。

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