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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第3章 高貴な人を奴隷ゾンビに変えよう
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白銀の騎士

 タケルが異世界に来て一か月が過ぎた。町は順調に発展している。ゴミとして捨てられた老人や病人は回収しているし、兵士たちも奴隷ゾンビに変え、規則正しい生活を命じた。

 子供たちも元気に育っている。新しい家族の元でのびのびと過ごしていた。奴隷ゾンビとして命令されただけでなく、本心から子供たちを愛しており、愛情たっぷりその身を受けているのがわかる。

 懸念は怪物化だ。都がどうなっているかわからないが、平穏なのだろう。なぜなら兵士たちは通常通りに仕事をこなしているのだから。

 何をきっかけに怪物になるのか。それがわからない以上、悩んでも仕方がない。タケルは自分の仕事を淡々とこなすだけである。

 さて今日もゴミ山には馬車がやってきた。いつも通り六〇歳になった老人や医者も匙を投げた病人たちが一三名乗っている。

 馭者はいつもと違っていた。白銀の鎧に身を包み、兜を頭からすっぽりとかぶっている。兵士というより騎士と呼ぶにふさわしかった。

 もう一人は通常通りの兵士だが、顔を隠していた。あれでは目が見えない。もしかして奴隷ゾンビに気づき、対策してきた可能性が高い。

 さて馬車が止まると白銀の騎士は丁寧に老人たちを下した。いつもなら兵士が馬車の上から蹴り落として楽しんでいるところだ。

 その態度から白銀の騎士は違う人種と理解した。

 タケルは姿を現す。白銀の騎士はそれを見ても動じていない。老人たちから数十歩間を開ける。巻き込まないためだ。それを見てますますタケルは感心した。

「お前は何者だ? こんなゴミ山に住んでいるにしては小奇麗な格好だな」

 兜のせいか、くぐもった声である。

「人に何かを訪ねるときは、まず自分から名乗る者だよ」

 白銀の騎士は答えない。腰に佩いたレイピアを抜いた。

「お前が兵士たちに何かをしたのだろう? 奴らはまじめに仕事をしているし、音も揚げない。こんなことはありえないのだ。太陽が東から昇るのと一緒だよ。

 私はその謎を解きに来たのだ。まずはお前から話を聞かせてもらおう。いくぞ!!」

 白銀の騎士は犬が駆けだす様に素早く詰め寄る。

 タケルは剣を取った。騎士のレイピアが雨のようにタケルを突いてくる。

 剣で何度も弾く。その度に火花が飛び散った。

 良い腕前である。

 タケルは騎士の軸足を狙うが、その度に弾かれた。

 そして利き腕を狙おうとしても、決して油断をしない。とても手ごわいと思った。

 タケルの息が上がってくる。体に熱がこもり、蒸気でぱんぱんになる気持ちだった。

 騎士の方は平然としている。重たい鎧と兜を身に着けているのに、向こうはまだ余裕があるようだ。

 これが経験の差かもしれない。だが負けるわけにはいかないのだ。

 タケルは剣を握りしめると、集中する。

 そして兜を弾き、いつもの言葉を吐いた。

「ぼくの奴隷になれ!!」

 抜魂術を施すと、魂晶石を取り出した。

 だがタケルは驚愕する。なぜなら兜の中身は女性だったからだ。

 銀髪ロールで、切れ長い目に高い鼻、柔らかそうな唇で高貴な印象を受ける。

 女性は唇で薄く笑った。

『ノブレス・ムナール。二〇歳』

 タケルの頭の中に相手の名前と年齢が聴こえてきた。その名前は知っている。デポトワールの王、ティミッド・ムナールの第四王女であったはずだ。

 お姫様がじかにやってくる。

 にわかには信じられなかった。だが目の前にあるのはまぎれもない現実である。

 ノブレスはしてやったりといった表情を浮かべていた。


 ☆


「ほう。なかなかよいところだな」

 町の中、タケルとノブレスたちはいろいろ見て回っている。

 ちなみにもう一人の兵士はノブレスの従者であった。こちらはまだ奴隷ゾンビにしていない。

「いい街並みだ。ゴミは一つも落ちてないし、異臭もしない。都も見習ってもらいたいものだ」

 都と比べているノブレス。たぶん都はここより散々とした様子なのだ。

「すべて材料はゴミ山から調達しました。そして作った人材はあなたたちが捨てた人々です」

 タケルは皮肉を交えて言った。

「うむ。耳の痛い話だ。私は都の未来を案じているが、それだけだな。行動が伴っていなければ無意味だ」

 ノブレスは答える。毅然とした態度で謝罪をしても卑下していない。町の中も堂々と胸を張り、闊歩している。町の住民はそんなノブレスの姿を見て、複雑そうな顔であった。

 タケルは自分の家に案内した。中にはアムールとアグリが掃除をしている。

 二人ともメイド服を着ていた。アムールは青で、アグリは黄色を強調したものだ。

「タケル様おかえりなさい」

「タケルおかえり。あれ、後ろにいる女は誰だい?」

 アグリが訊ねる。タケルは顎を指で掻くと、ノブレスが代わりに答えた。

「私はノブレス・ムナールである。以後よろしく」

「ノブレスだって? この国のお姫様と同じ名前なんだな」

「いや、本人だ」

「あっはっは。そんなわけないだろう。お姫様がこんなところに来るもんか。もしあんたが本物ならあたいは真っ裸になって逆立ちしてやるよ」

 アグリは自信満々に答えた。そこにタケルが申し訳なさそうに耳打ちする。

「彼女は本物だよ」

「え?」

 アグリの目が丸くなった。冗談だろと目で訴えている。

 だがタケルは首を横に振った。

「嘘だよね?」

「嘘ではないぞ」

 ノブレスが堂々としている。それを見てアグリはしばし考え込んだ。

「よし、脱ぐか」

「なぜそうなる!?」

 ノブレスがつっこむ。

「約束したんだ。本物だったら真っ裸で逆立ちすると。それがいまだ」

「いやいや、それはだめだって」

 アグリの動きが止まる。タケルが命じたからだ。だがぷるぷると指が震えている。約束を守れないことにジレンマを抱いているようだ。

「……タケルよ。部屋を出るがよい」

 ノブレスは目を瞑り、ぽつりとつぶやく。

「この娘の約束を果たさせるべきだ。幸いどこで裸になるとは言っていない。女の見ている前でならよいだろう」

「でっ、でも」

「約束は大事だ。冗談で済ましてはならぬ。何より約束を守ろうとする者の意志を踏みにじる行為だ」

 ノブレスがまっすぐな目で見据えている。タケルは折れ、部屋を出た。

「まあアグリさんの身体はスレンダーですわね」

「うむ。なかなかいい肉付きだ。その日焼け具合からして農業に従事ていたな」

 アムールとノブレスの会話が聞こえてくる。

「ちょっと待ってろ。いま逆立ちするから」

 部屋の外からばたんと音がした。おそらく逆立ちに失敗して床に倒れたのだ。

 何度も何度も失敗したようで、アグリの息切れの声がした。

「アグリさん。私が支えます」

「私も協力しよう。手伝いをしてはならないと言われてないからな」

 二人のおかげでアグリは逆立ちができたようだ。アグリは歓喜の声をあげている。

 ドアを背に向け、タケルは思った。

「なんでこんなことになった?」


 ☆


「現在、ムナール王家は腐っている。いや腐らされていると言っても過言ではない」

 ノブレスはソファーに座っている。正面にはタケルが座っており、アムールとアグリは左右にいた。

「腐らされているとはどういうことですか?」

「文字通りの意味だ。アンジォ教団とフラメル商会によってムナール王国はだめになった。

 文化を否定し、学問を見下し、技術を捨てる。自分たちは最高だから何もしなくていい。自分たちが働くなんてばからしい。ほしいものは南にあるイシュタール共和国から奪えばいいとな」

「イシュタール共和国?」

 アムールが耳打ちする。

「南の海にある島国です。百年前は強大な軍事国家だったのですが、戦争に敗北した後西の帝国エストカープの従属同盟を組まされたのです」

 それをノブレスが肯定した。

「そしてムナール王国はイシュタールから莫大な賠償金をせしめた。それは今も続いている。不作になればイシュタールから食料を提供させ、金融恐慌になれば資金を流させる。そのくせ相手には感謝せずもらって当然だという態度をとるのだ。呆れてものが言えないね」

 タケルも呆れていた。犯罪被害者が加害者を攻め続けるようなものだ。相手が反省していても生きている限り謝罪を要求する。いや死んでも家族がそれを受け継ぎ、何度も頭を下げさせる。性質の悪いゆすりだ。

「だが問題がある。現在ムナール王国は深刻な王室離れが社会問題となっているのだ。国民の目を逸らすためにイシュタールに戦争を仕掛けようとしている。馬鹿みたいに兵士を増やし、軍艦を税金を投与して建造しているのだ。そして反イシュタール運動を盛り上げ、毎日働きもせずデモを繰り返しているな」

「そうなのですか。ではムナールはイシュタールに勝てますか?」

 タケルが訊ねると、ノブレスは首を振った。

「勝てない。勝てるわけがないのだ」

 ノブレスは神妙な面持ちであった。

「イシュタール共和国はエストカープ帝国から軍艦を購入させられ、国防隊として使っている。エストカープ製の軍艦は世界一だ。ムナールの軍艦はただ海に浮いているだけの代物で泥船の方がましだな。

 さらに隊員の質も雲泥の差があるな。ムナールの場合は多少の体力があれば馬鹿でも入隊できる。

 だがイシュタールの場合は厳しい軍律で練度が高い。おそらく戦争が始まればうちの方が負けるな」

 ノブレスは投げやりであった。自身が軍事に関わっているため、自国に憂いているのだろう。タケルも何も言えなかった。

「それはアンジォ教団やフラメル商会が勧めたのでしょうか?」

「その通りだ。奴らは王家、特に兄上をそそのかしている。父上はまだイシュタールをゆすって小銭を稼ぐ程度だったが、兄上は違う。イシュタール共和国に対してすべての利権を自分たちに寄越せと通告してきたのだ。イシュタール籍の漁船を不法領海といって拿捕しては身代金を要求する。

 あまりの非道にイシュタール共和国も堪忍袋の緒が切れてな。経済制裁を喰らわせたのだ。おかげで今のムナール王国は貧しくなる一方だ。戦争に負けたほうがはるかに豊かという矛盾に悩まされているのだよ」

 ノブレスの独白にタケルは考える。

 彼女は何を求めているのだろうか。顔を隠しタケルにわざわざ奴隷ゾンビにさせた経緯もあり、彼女の考えがわからない。

「あなたはぼくに何をしてほしいのですか」

 それを聞いたノブレスはにやりと笑う。

「決まっている。アンジォ教団の大司祭とフラメル商会の会長を奴隷ゾンビに変えてほしいのだ」

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