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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第2章 遠出して奴隷ゾンビを作りに行こう
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タケルの覚悟

「ここがノール村か。なんとも寂れた村だな」

 タケルとアムール、アグリはノール村にたどり着いた。後ろには奴隷ゾンビとなった黒い兵士たちが列を作って付いてきている。

 村は木の柵で囲まれており、出入り口は一か所しかない。

 禿げ頭のような農地が広がり、皮膚病めいた見ただけで鳥肌が立ちそうな風景であった。そして畑を耕す農民は案山子が歩いているようだ。ぼろを着て、竿竹のように細い腕で鍬を振るう。そしてしわしわにやせ細った牛を連れてのたのたとしたいるのだ。

 木の柵は鳥かごのようである。見た目は手を動かすと崩れてしまいそうに見えるが、今の村人たちには麦わらを一本吹き飛ばす気力がないように見えた。

「タケル様。失礼ですよ」

 アムールがたしなめる。それをアグリが止めた。

「いいよ。タケルの言う通りさ。さあさっさといこう」

 タケルはさっそく門番というか、家畜を逃がさぬ見張りを奴隷ゾンビに変える。

 そして途中で出会った兵士たちを片っ端から同じ運命をたどらせていた。

 アグリは胸がスカッとしたし、ざまあみろと心の中で笑う。自分たちを家畜、いや害獣扱いし、いたぶって遊んだ奴らが奴隷ゾンビになった。

 全員がタケルの言いなりになる。口では命令に従うがその顔は屈辱で歪んでいた。額に血管がみみずのように浮かんでいる。

 さて兵士の中には隊長のグレゴリーはいなかった。いったいどこにいるのだと訊ねてみると、ジョリ河の大橋にいるという。

「ジョリ河の大橋!!」

 アグリが突如叫ぶ。脂汗を流し、顔が真っ青になっていた。

 どうやらノール村にとってその地名はおぞましい何かにあたるようだ。

 タケルは急いでその場所に案内させた。馬を走らせ、しばらく経つと大きな河が見える。

 大型船がすれ違っても問題ほどの広さである。だが悪臭がした。河にはゴミが捨てられており、濁ってた。

 生活水がそのまま投げ捨てられているのだ。とても魚は生きておれず、害虫しか住まない地獄の河である。

 さて大橋が見えた。木製で馬車が長蛇の列を作っても大丈夫そうな造りである。その橋の前に大勢の人だかりができていた。祭りというわけではない。むりやり呼び寄せられた感じである。

 その真ん中で黒い兵士たち十数名ほどが笑い声をあげていた。足元には縄が垂れ下がっている。だが下を見ると驚愕するだろう。人間が逆さで荒巻鮭のように吊るされていたのだ。

 頭をぎりぎりに浸かっている。あれでは息などできない。その数は七名。中年から老人、残りの三名は子供である。

「イヤァァァァァァ!!」

 アグリがそれを見て絶叫した。最悪の事態である。おそらくアグリの家族だ。彼らはアグリが逃げた責任を取らされ、処刑されたのかもしれない。

 タケルは激高した。だがアムールは冷静だった。彼女は兵士たちの行為に疑問を抱いたのだが、主はそれを無視して馬を走らせる。

 疾走する馬を見て、兵士たちは手を振った。おそらく仲間が戻ってきたと勘違いしたのだ。だがタケルは馬から飛び降りると、兵士を袈裟切りにしてやった。

 血飛沫をあげ悲鳴を上げる兵士。兜を脱がすとすぐに奴隷ゾンビに変える。

 その所業に残りの兵士たちは怒り狂った。タケルは槍を突き刺しに来る兵士たちの兜を次々と振り落とした。そして奴隷ゾンビに変え、急いで橋の下に吊るされた哀れな農夫一家を救うよう命じる。

「勝手な真似はやめてもらおうか?」

 黒い兵士の中で兜に立派な羽飾りを付けた者が前に出た。目は兜で隠れており、口元は立派な髭をたくわえている。

「お前がグレゴリーか? ぼくは大和タケルと申します」

「そうですか。初めてお目にかかりますグレゴリーです。この村の兵士の隊長と務めております」

 グレゴリーは頭を下げる。なんとなく気品のある声だ。挨拶も礼儀正しい。荒くれ者たちの隊長とは思えなかった。

「イヤーッ!!」

 タケルは挨拶が終わるとすぐに兜を弾き飛ばそうとした。だがグレゴリーはすぐに剣を抜き、受け止める。

 余計な話はなしだ。今はアグリの家族が最優先する。こいつがいては彼らを奴隷ゾンビにして救えない。

 さっさとこの男を奴隷ゾンビに変える。それだけだ。

「セイセイセイ!!」

 グレゴリーの剣術が冴える。縦横無尽でどこへ飛んでくるかわからない。

 だがすべて見切れている。オネットの修業の成果だ。

 もっとも反撃をする隙がない。与える隙がないのである。

 こいつの軸足を狙う戦法もあったが、油断がない。

 これほどの剣士はオネット以来である。もっともこいつを師と仰ぐことはない。この男は敵だからだ。

「キェーーー!!」

「セイヤァ!!」

 タケルの持つ剣が火花を散らす。刃こぼれ一つしない。当然だ、これはオネットの魂そのもの。六〇年間磨き続けた技術が詰まっているのだ。

 しかしグレゴリーも負けていない。金にあかせたのかわからないが、いい剣を持っている。それ以上に剣の腕も冴えていた。

 タケルは再度疑問視する。これほどの男がなぜ小さな村で暴君になり下がったのか。そしてどうして王家に立ち向かわないのか。

 詮無いことだ。こいつの過去など知らない。タケルにとって大事なのは結果だけだ。過程などどうでもいい。

 こいつはアグリの家族を水責めの拷問を行ったのだ。その結果を見ただけでこの男を奴隷ゾンビに変えてやると誓った。そして丸一週間、川の底で正座させてやる。そうでなければアグリの溜飲は下らないのだ。

「きぇーーー!!」

「セイセイセイ!!」

 タケルが渾身の力を振るった。グレゴリーの蠅のように目に止まらぬ素早い剣技を振るう。

 グレゴリーの剣が真っ二つに折れた。最後は剣の質で勝利できたのだ。

 最後はこいつの兜を取り外し、奴隷ゾンビに変えるだけ。タケルはグレゴリーの兜を弾き飛ばした。そしてそいつの眼を見て、奴隷ゾンビに変えようとした。

 それはできなかった。なぜならグレゴリーはタケルの剣を刃ごと掴み、自身の腹に突き刺したのである。

 そしてよろよろと橋から川へ落下した。あとにはグレゴリーの遺体が川面にぷかぷかと浮かび流れるだけであった。


 ☆


 大橋の上に七名の人間が横たわっている。両親に祖父母、兄と姉、弟だ。

 タケルはすぐにアグリの家族に抜魂術を施そうとした。だが一向に発動しない。タケルは水に落ちたときの対処法として人工呼吸を施した。誰一人息を吹き返さない。

「ねえタケル。あんたは人を奴隷ゾンビに変える力があるのでしょう? だったら早くやってよ!!」

 アグリは家族の体を抱きかかえ、叫ぶ。だがタケルの表情は暗い。泣きそうな顔になっている。

「ごっ……」

「?」

「ごめんな、さい」

 タケルは絞るような声で謝罪した。目から涙がぽろりと零れ落ちる。

「なんで謝るの? そんなのはいらない。早く生き返らせてよ。あんたはこの腐った世の中を変えるために来たんだろ。だったら早くみんなを生き返らせて、元の生活を戻してよ!!」

 アグリの悲痛な声が橋の上に響く。だがタケルは何も言えない。涙を流すだけだ。そこにアムールがアグリに優しく肩を叩く。

「だめなのです。タケル様の力はあくまで魂を抜き、奴隷ゾンビに変える力。死んだ人間には使えません。人は死んだら生き返らないのです」

 アムールも悲し気な表情でアグリを諭す。

 そう、抜魂術が使えるのは生者のみ。魂があるから人間なのだ。魂の抜けたものは人間ではない。人の形をした肉の塊である。

「うそ、うそよ。うそって言ってよ……」

 アグリはいやいやと首を振る。目から滝のように涙がこぼれた。タケルもただ泣くだけである。

「嘘つき!! 家族を守ってくれるって言ったじゃない!! あたいを助けてくれるっていったじゃない!!」

 アグリはタケルの胸ぐらをつかみ泣きじゃくる。そして赤子のように泣き叫んだ。タケルは何も言えない。言えるわけがない。家族を救えなかった自分に何も言えるわけがない。

 タケルは自分の無力さに嘆いていた。

「お待ちください。今は悲しむときではありません」

 アムールが言った。

「もう過ぎたことは忘れましょう。大切なのは今です」

 無慈悲な言葉であった。だが正論でもある。

「それにおかしいです。なぜグレゴリーという人はアグリさんの家族に拷問を行ったのでしょうか?

 アグリさんの話では逆らう人の目の前で家族にあだ名すと聞きました。なのにアグリさんが帰ってくる前に殺害するなど、前例があるのでしょうか?」

 アムールの問いにアグリは頭をひねる。見物していた他の村人にも訊ねてみた。

「……そういえばおかしいわ。あいつらならあたいが帰ってくるまで家族を人質に取っているはず」

 村人たちも賛同していた。今朝グレゴリーがジョリ河の大橋でアグリの家族たちに処刑命令を下したとき、耳を疑ったくらいだ。

「そう人質はある意味生きた盾です。それをあっさり処刑するなどありえません。これには何かがあると考えた方がいいでしょう」

 アムールが冷静に判断する。彼女はメイドであり、サージュから知恵を授かった者でもあるのだ。

「その前にこの村の領主、ソンブル子爵を奴隷ゾンビに変えましょう。そしてその後村人の皆さんを奴隷ゾンビに変えるのです」

 これは当初の目的だ。ソンブル子爵を奴隷ゾンビに変えたところで死者は生き返らない。だが生きている者に希望の光を照らすことができる。

 やるしかないのだ。タケルは自分に甘さがあることを再度確認する。もう油断はしない。するものかと覚悟を決めた。

「ねえあんた。あたいを奴隷ゾンビにしてよ」

 唐突にアグリが頼んだ。

「あたいは生きるんだ。死んだ家族のためにも生きるんだ。そしてあんたを支える。あたいのような人間を増やさないためにも、あたいを奴隷ゾンビに変えてよ」

 アグリの眼は真っ赤に腫れたままだ。だが彼女の意志は固い。彼女もまた閣議を決めたのだ。

「わかった。君を奴隷ゾンビに変えてやる」

 そういってタケルは右手をアグリに突き出す。そしていつもの言葉を出した。

「ぼくの奴隷になれ!!」

『アグリキュルトゥール。一八歳』

 アグリの魂晶石が取り出された。それは真っ黒に染まっている。家族を奪われた魂はどす黒くなっていたのだった。

「この色を真っ白に変える。ぼくは誓う」

 タケルはそう思った。

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