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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第2章 遠出して奴隷ゾンビを作りに行こう
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覚悟を決めろ

「ここがサージュの家か」

 タケルは町の中にあるサージュの家を見上げた。正確には図書館である。三階建ての石造りの建物で体育館ほどの大きさだ。

 ここにはゴミ山から拾ってきた本が何百冊も並んでいる。タケルは一度見てみたが、その図書量には驚いた。どれも新品のようにピカピカである。

 もちろん汚れているものもあるが、きちんと修復していた。これらを平気で捨てる都の人間に嫌悪感を覚えたのは無理のないことだ。

「でかいわねぇ。こんなでかい家は領主様か、教会くらいしかないわよ」

 アグリも見上げて感心している。

「教会ですか? なんという神を祀っているのかな」

「アンジォ教会よ。ここ十数年で台頭してきたわね。いままではサタナス教が主流だったんだけどさ」

「サタナスって魔王サタナスのこと? 魔王を信仰していたのか」

 タケルの質問にアグリは答える。

「そうだよ。でも詳しくは知らない。だってじいちゃんの代からそうだったから。六月六日はサタナスの生誕祭で、赤いワインかブドウジュース、ザクロの実で作ったお菓子で祝うのがあったわね。今ではアンジォ教会がうるさいから家の中でしかしてないけど」

 アムールも同意する。彼女らにとって宗教は生活の一部でしかない。生まれたときからそういう儀式を行っていた。だから何も考えずに従う。教義とは生活に密着したものだからだ。

 今は宗教談義をする場合ではない。サージュにこれからノール村から兵士たちが来ることを報告しなくてならないのだ。勝手に自分で突っ走って迷惑をかけるわけにはいかないのである。

 さてサージュの執務室は三階にある。途中で長椅子に座って本を読む人の姿があった。息抜きに読書をする者が多いのだ。それ以外はタケルが教えた卓球やゲートボール、バトミントンなどのスポーツを楽しんでいる。

 タケルは娯楽の神様だと崇められていた。

 タケルは黒塗りの木製の扉をノックする。

「どうぞ」

 返事が来たので扉を開けた。

「「いらっしゃいませ♪」」

 サージはソファーに座っていた。だが左右には女性が一人ずつ座っていたのである。

 右の女性は赤い長髪で右目が隠れている。けだるそうな表情だがどこか色気があった。赤い口紅を付け、化粧もばっちり決まっている。

 黒いシックなドレスを着ており、胸元は大胆に開いている。かなり豊満であった。

 左の女性は緑色のショートでシャギーがかかっている。健康そうな笑顔で見るものを明るくする素朴さがあった。化粧っ気はないが、こちらは素材で勝負している感じだ。

 こちらはかなり大胆な衣装で、薄緑のビキニを身に着け、腰にパラオを着ていた。すらりとした体形である。

 サージュは真ん中に座り、彼女らの肩に手を回していた。美女を侍らしているのである。

 二人は立ち上がり、タケルに挨拶をした。

「どうもご無沙汰しております。タケル様。ブラン・グルーです」

「こちらもご無沙汰しております。タケル様。ヴェール・トルチュです」

 タケルは首を傾げた。はてなこのような美女初めて見るぞ。だが彼女らはご無沙汰していますと言った。初対面でないことは確かである。タケルはじっと彼女を見る。そして気づいた。タケルは抜魂術で魂晶石を抜くと相手の名前と年齢がわかる。それは魂晶石はなくても頭の中に浮かぶのだ。

 二人とも六〇歳と出たのである。

「あの二人とも、確かサージュと同じ年齢では……?」

 タケルが恐る恐る訊ねた。するとサージュが注意する。

「タケル様失礼ですぞ。女性に年齢を訊くなどとは」

 なぜか怒られた。

「ですが仕方ありませんな。実際彼女らは私と同じ歳です。タケル様が戸惑うのも無理はありません」

 あっさり肯定された。何が何だか分からなくなる。

「これも奴隷ゾンビの特性です。彼女らは最初六〇歳にふさわしい風貌でした。ですがタケル様に魂晶石を抜かれて以来、彼女らは若返ったのです。仕事で忙しく遊べなかった、もう一度青春時代に戻りたい、その願いが彼女らを在りし日の姿へ変えたのございます」

「そうなの? でも容姿が変わるのは病気の人がほとんどだった気がするな」

 タケルはアムールを見た。最初に出会った頃の彼女は病気で老女のように変わり果てていた。抜魂術を施した後彼女は病魔に侵された古い生皮を脱ぎ捨てることができたのである。

「これは本人の願望でしょう。アムールの場合は健康な体を取り戻したいと願ったからです。この二人に限らず、女性というのは若さに憧れるものですよ。おそらくタケル様が知らないところで女性たちは潤いのある肌を取り戻しているのです。アムールも最近は化粧を覚えるようになりましたよ。気づかなかったのですか?」

 サージュの問いにタケルは目を丸くした。そして改めてアムールを見る。彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。確かに綺麗になっている。化粧が彼女を美しくしたと言っても過言ではない。

 なんで自分は今まで気づかなかったのか、後悔していた。


 ☆


「おいタケル。無駄話はやめてさっさと本題に入れよ」

 後ろにいたアグリは小突いた。置いてけぼりにされてかなり苛立っている。さっさと本題に入ろう。だがそこをブランが邪魔をした。

「タケル様。この部屋でサージュ様の所業を見て何を連想なさいますか?」

 突然の問いにタケルは固まった。代わりにアムールが答えようとする。

「えーと、ハー……」

「アムールさん。あなたに訊いてません。私はタケル様に質問をしているのです。余計な口出しは控えてください」

 ヴェールがきつく注意した。アムールは思わず口を閉じる。

「では、タケル様もう一度訪ねます。サージュ様の所業を見て何を連想しましたか?」

「ハーレム……かな?」

 ブランは無表情のまま、首を縦に振る。正解というわけだ。

「そうです。ハーレムです。ですがサージュ様はあくまでタケル様の相談役です。それなのに主を差し置いて女性を侍らせる。そのことをどう思いますか?」

 ブランが立て続けに質問を繰り返す。彼女の意図が分からない。

 たまりかねたアグリが文句を言い出した。

「あんたらいい加減にしてくれ。タケルはそっちの爺さんに用事があるんだ。さっきから無駄話はやめてく……」

 それを見たヴェールが一喝した。

「今はタケル様と話をしているのです。割り込みはおやめください!!」

 アグリは一瞬びくっと震えた。部屋の中が振動するほどの声であった。

「ちょっと厳しく言いすぎました。あなたも大事な用があるのはわかります。それまでもう少しお待ちください」

 ヴェールはぺこりと頭を下げる。そしてブランは質問を再開した。

「ではタケル様に再度訊ねます。サージュ様の行為をどう思いますか?」

「どう思いますかと言われても。サージュは町の貢献者だよ。女性を侍らせるくらい別に……」

 すると今度はブランが烈火の如く怒った。

「タケル様! あなたはこの町の支配者です。いいえ、わたくしたちはタケル様に魂を抜き取られた奴隷でございます。奴隷を扱う主です。

 それなのに部下の勝手な振る舞いに注意どころか肯定するなどありえません! あなた様には支配者としての自覚がこれっぽっちも感じられないのです」

 あまりの啖呵にタケルは驚いた。奴隷ゾンビはタケルに逆らえない。だが彼女はタケルのことを想い、叱っているのである。

 タケルにはそれがわかる。ブランは自分のことを叱ってくれているのだ。サージュの件ではなく、自分に自信のないことが問題なのだと教唆しているのである。

 そしてヴェールも補佐する。

「タケル様。私たちはあなたの奴隷です。あなたのしたいことは心の赴くままなさってください。もし失敗しても私たちが穴埋めをいたします。タケル様は私たちの支配者として存分に力を振るっていただきたいのです」

 タケルは檄を飛ばされ、立ちすくむ。おそらく彼女たちはサージュの手先だ。自分に頼り切る主に危機感を抱いていたのだ。その弱い心を見透かされ、タケルは両手で頬をパンパンと叩く。

「ありがとうブランさん、ヴェールさん。ぼくは弱気になっていた。サージュに頼りきって堕落するところだった。子供たちの教育を重視していたのに、ぼくはまったく学んでなかったことに気づいたよ」

 タケルは胸を叩いた。二人の美女に気合を注入され、元気が湧いてくる。

 ノール村から来るであろう軍勢は必ず撃退する。そしてそのまま村まで行き、全員奴隷に変えてやる。タケルはそう誓った。

「従者はアムールだけでよいでしょう。そして兵士から鎧をはぎとり、馬を奪うのです。そして兵士たちを奴隷ゾンビに変えてしまうのがよいですな」

 サージュはあっさりと答えた。サージュは千里眼の持ち主なのかと疑った。

「いえ、読唇術で知りました。先ほどタケル様が図書館に入る前に口にしていたからです」

 ヴェールが種明かしをした。彼女は先ほどちらっとタケルたちの会話を覗き見たという。あの一瞬ですべてを理解する彼女はただものではない。

「ちなみに私たちは司書を務めております。こんな衣装もさっき初めて着ました。恥ずかしくてたまりませんでしたね」

「私もです。若返っても肌を露出する衣装は気まずい思いがしました」

 ブランとヴェールは顔を見合わせてぼやいた。だったらなんでそんなことをしたのだろうか。

「やっぱりハーレムには露出度の高い美女でしょう。少々回りくどかったですが効果は抜群ですな」

 サージュはからからと笑った。迂遠にもほどがある。サージュは賢者だがいたずら好きでもあるのだ。タケルにとってそのことは彼に人間らしさが残っていると安堵できる部分である。

「つーか、回りくどいにもほどがあるだろ。これだから暇な年寄りはろくなことを考えないな」

 アグリの痛烈な毒舌である。部屋の空気が一瞬で冷え込んだが、当の本人はどこ吹く風であった。

 ある意味無知は最強なのかもしれない。

 今回は話が進まなかったです。

 ブランとヴェールは当初入れる予定はなかったけど、

 あんまり説明文が多いとつまらないので追加しました。

 正直閑話をもっと入れるべきだと思ってます。

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