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奴隷ゾンビを作って最強を目指そう!  作者: 江保場狂壱
第2章 遠出して奴隷ゾンビを作りに行こう
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新たな出会い

「いい天気だな」

 タケルとアムールは遠出でハイキングを楽しんでいた。北にある草原である。

 あれから一週間、グルタオン・ポルコの出現で町は混乱していたのだ。当然だ。奴隷ゾンビが怪物に変貌したのだから。住民の中にはいつか自分も怪物になるのではと不安がっている。

 それらの火消しはすべてサージュに任せた。それからタケルはいつも通りの生活に戻る。

 剣術の稽古に町の見回り、そして新たな住民の確保に大忙しであった。

 あれ以来怪物は出てこない。そもそもこの世界に怪物はいるのかとサージュに訊ねてみた。

 いると答えた。ただしタケルの世界に住む熊や猪のような害獣みたいなものだという。

 知性のある亜人はいるが、こちらは王国に差別されており、滅多に出会うことはない。

 グルタオン・ポルコのようなのは伝説でしか出てこないという。

 だいぶ落ち着いたのでサージュの勧めで気分転換に出かけたわけである。

「はい。心地よい暖かさでございますね」

「あれ? 奴隷ゾンビでも温度は感じるのかな? 確かあらゆる感覚から解放されるはずだけど」

「心地よい感覚なら残っております。例えば食事は摂らなくても大丈夫ですが、味覚は残っておりました。たまに口さみしさを紛らわすために木の実を齧ったりしておりますね」

 なるほどと思った。タケルはある程度奴隷ゾンビには好きにさせている。娯楽程度ならどんどんやってもかまわないと触れを出していた。

 実はタケルの書いた文字は奴隷ゾンビだと理解できるのだ。タケルはこちらの世界の文字はちんぷんかんぷんだが、奴隷ゾンビたちはタケルが書いた『ぼくは大和タケルです』を難なく読み解いたのである。

 これは子供の頃から職人一筋で文字の読み書きができない老人も読めたのだ。

 そしてそれは主の命令となる。サージュの助言でタケルの文字が書かれた紙が貼られていた。それで簡易的に命令を下せるのだ。

「そうなんだ。でもまだドーナツの完成はほど遠いんだよね」

「ドーナツ……ですか? 小麦を使うお菓子と聞いておりますが」

「うん。シャルルさんは木の実を潰した粉で作ったけどね。結構ぱさぱさなんだ」

 もちろんタケルは大満足である。限りある材料でドーナツを作ってくれたのだ。感謝しても足りないくらいである。

 だが子供たちは顔をしかめていたのだ。シャルルの努力など知ったことかといわんばかりであった。そしてこんな食べ物をありがたがるタケルを白い眼で見つめるのである。

「やはりきちんとした小麦が必要になるな。アムール、小麦粉はどうやって手に入るかな」

「都でも庶民の口には入りずらくなっています。代わりにオミの実を食べていますね。ふかしたりして食べてました」

 オミの実とはこの世界で言うじゃがいもみたいなものだ。よく焼け畑で作られているという。確か環境が悪化するので危険な農作だと聞いていた。サージュに訊ねたらまともな農業じゃないと一刀両断されたのを覚えている。

「農村だとどうかな? 小麦の苗とか購入できないだろうか」

「それも難しいと思います。なぜなら都は閉鎖的で、農村も同じなのです。よそ者を極端に嫌っています。出入りができるのは商人だけなんです。その商人もいきなり私たちに売買するとは思えません。それに……」

 アムールは口ごもった。当然だ。今の自分たちは許可なく土地を開拓し、勝手に住んでいる無法者なのだ。下手すれば軍隊がやってきて灰に変えられる可能性が高い。

 どうにか小麦がほしい。きちんとした食事を安定させるには食糧生産が必要不可欠だ。都には農業関係者がいなかった。サージュも知識はあるが、専門家でないので厳しいと答えた。

「タケル様はお優しいですね。子供たちの未来をしっかりと考えています」

「そうかな。ぼくは自分の欲でドーナツが食べたいんだ。これだけがぼくの望みだよ」

「うふふ。そう言ってタケル様はいろいろなものを発明なさいました。洗濯機だの掃除機だのあんな便利なものがあるなど思いもよりませんでしたね」

 ちなみにタケルはだめもとで元いた世界の電化製品を話していた。魔法具職人の老人が目を輝かせ、次の日に試作品を作ったのは驚いた。

 そしてタケルのリクエストに応え、それらは完璧なものへと進化したのである。ちなみに動力は魔法石だ。

「あーれー!!」

 女性の叫び声がした。タケルは剣を取り出すと、アムールに木陰に隠れるように指示し、声の主に向かったのである。


 ☆


「あーれー!!」

 可憐な少女が哀れな声を上げている。黒髪で腰まで伸びており、素朴な服を着ていた。顔立ちは煤で汚れており、よくわからない。だがその口からほとばしる声は悪魔の吹くラッパのようであった。

 少女を追いかけているのは二頭の馬だ。その上に黒い鎧を着た男たちが乗っている。どちらも槍を掲げていた。おそらくはどこかの兵士だ。都からくるごみを捨てに従事する兵士とは違っていた。

 兜を被っており、目元が見えない。だが口は歪んだ笑みを浮かべているのは見える。

「ひゃっはー!! おらおら逃げろ逃げろ!!」

「逃げないとお前の太ももを突き刺しちゃうよん。そしたらもう逃げられない。逃げられないから俺たちの慰み者になるんだよん。にょほほほほ!!」

 男たちは下劣な笑い声をあげる。少女を遊びで追い回しているのだ。

 彼らは交互に槍を突き刺す。本気で狙っていない。明らかに遊びである。

 少女の方は涙で顔がくしゃくしゃだ。裸足でぼろぼろになっている。

 彼女が転ぶたびにげらげら笑う。少女の命は風前の灯火であった。

「まてぃ!!」

 そこに助けに入る声がした。我らのタケルである。

 黒い兵士はお楽しみを邪魔され不機嫌になっていた。

「てめぇ! 殺されてぇのか!!」

 兵士が叫ぶ。

「おまえら、ぼくの奴隷になれ!!」

 タケルが叫んだ。だが光が出てこない。おそらくタケルの視線は彼らに届いていないのだ。

「てめぇ、ふざけたことをぬかしやがってぇ……。殺してやる!!」

「にょほほほほ! こいつも殺して楽しもうぜぇ。ああ、どういたぶって楽しもうかな、にょほほ……」

 兵士は怒り狂っていた。そして狂気の笑みを浮かべている。こいつらは本当に兵士なのかとタケルは思った。

 タケルの方は冷静である。兜で視線が邪魔になると予測していたからだ。

「ひゃっはー!!」

 兵士の一人が槍を突き刺した。でたらめにただ相手をいたぶることしか考えていない雑なやり方だ。

 だがそんなものは当たらない。オネットの木剣の方が怖かった。

 こいつらの槍術は子供の遊戯だ。本物を体験したタケルにそんなものは通じない。

 逃げ惑う獲物をもてあそび、二人の狩人は酔いしれていた。

 早くこの生意気な小僧を殺したい。泣き叫び命乞いをするのを無視して命を摘み取る。

 その快感がたまらないのだ。殺人は彼らの唯一の娯楽であった。

「イヤァー!!」

 タケルはバッタの如く高く飛んだ。そして彼らの兜を剣で打ち払う。兜はふたつとも草むらに落ちた。

「野郎……」

 怒りで目が真っ赤になった兵士はゆっくりと振り向いた。完全に切れている。

 すべてを破壊する狂戦士の霊が彼らに憑依しているのだ。

「おまえら、ぼくの奴隷になれ!!」

 それで終わりだった。兵士二人はタケルに魂を抜き取られた。

 もう彼らは人殺しを楽しめない。主の命令に従い、兵士としての規則を永遠に守る。

 それは死ぬよりも苦痛な人生であった。

 タケルは遊びで狩りを楽しむ快楽者を追い払った。もちろん制約をかけたのは言うまでもない。

 ちなみに少女は安堵した後気を失ってしまった。


 ☆


 少女は町に連れて行った。タケルの家に運び、そして医者に診せる。

 その間にアムールが少女の体を綺麗にふき取り、綺麗な洋服に着替えさせた。

 数分後、少女は見事なまでに美しい姿を現したのだ。

 肌は日焼けで黒くなっているが、健康的である。肉付きはふっくらとしており、愛嬌のある顔立ちだ。

 素朴な農民の娘。そんなフレーズが頭に響く。

 足は綺麗に手当てされ、包帯が巻かれている。

「大丈夫? もう安心だよ」

 タケルが優しい声色をかけた。少女は警戒しているのか挨拶できない。

「初めてお目にかかります。大和タケルです。この町の町長を務めております」

 タケルはあいさつした。ちなみに町長になったのは自然の流れである。サージュはあくまで相談役だ。

「あっ、初めまして。アグリ・キュルトゥールです。親は農夫です」

 アグリは釣られて頭を下げる。

「あなたはここの町長なのですか? それにこんな場所に町があるなんて信じられない」

「はい、その通りです。それにこの町は三週間前に作られたから知らなくて当然ですね」

 アグリは周りを見回す。立派なレンガ造りの家だ。テチュたちが一からレンガを焼き、作ってくれたのである。

 家具はゴミ山からの拾い物ではなく、家具職人によって制作されたのだ。

 もっとも材料はゴミ山から調達しているが。

「すごいじゃない。こんな部屋貴族様の家でもお目にかかれないわ」

 アグリの口調がどこか伝法になってきた。もしかしたらこちらが素なのかもしれない。

「でもあなたは何者かしら。見たところみんながあんたのことを慕っている。

 貴族でない限り、あたいと同じ年齢のやつにへこへこするなんておかしい。

 あんたは特別な力がある。あたいはそう感じているわ。つーか気を失う前に兵士共がいいなりになってたのを見てたからだけど」

 アグリはそれを見破った。学問ではなく、経験で判断したようだ。

「そうだよ。ぼくは抜魂術という秘術が使えるんだ。こいつは魂晶石を抜き取る力がある。

 それを抜き取られると奴隷ゾンビになるんだ。ぼくのいいなりになるね。

 もっともぼくのためなら自主的に行動はとれる。ぼくに害する行動は制限されるんだ」

 簡単な説明にアグリは納得した。彼女も現実主義で見た物を信じる性質なのだろう。

「それはすごいわね。人を簡単に奴隷ゾンビにするなんて。

 村のファナティック爺さんが聞いたら憤怒しそうな内容だけどね」

「村? すると君は村から来たのかな」

「ええ、ノール村よ。ここから北に五オリックほどの距離ね。あたいはそこから逃げてきたの」

 アグリの言葉にアムールが口を挟んだ。

「ノール村ですか? そこから逃げてくるなんてとても無茶だわ。それ以上に魔物に襲われてもおかしくなかったわね」

 アムールの表情が曇る。オリックは距離のことだろうが、相当遠いのはわかった。

 それにアグリの足は肉が削げている。女の足では気軽に来れないのだろう。

「ソンブル子爵の私設兵士からね。あいつらは子爵の陰で好き勝手にやっている。

 子爵は悪人というわけではないけど、私設兵共は最悪よ。

 あいつらは都からきて、子爵に寄生虫のように宿って食い物にしているわ。

 税の取り立てもむちゃくちゃよ。あいつらの懐を暖めるためにわざわざ上げているの。

 そして税を払えない家は娘を差し出せと迫ってきたわ。それがあたいに白羽の矢が立ったわけ。

 でもあいつらの思い通りになるのは癪だから逃げてきたの。それでもついに追い詰められてこのざまってわけね。

 本当に助けてくれてありがとう。あのままだったらあたいは殺されていたわ!」

 がばっとアグリは深々と頭を下げる。口調は悪いが根は素直なのだろう。

 その語感には感涙で震えていたのだ。

「……ねえ。アグリさん。ぼくは今日彼らを返したけど、このままで済むかな?」

 タケルは質問した。

「そうね。あいつらは人面獣心よ。殺すにしても死体を持ち帰って家族の前にさらすのはわけないわ。

 あたいの死体を持ち帰らなかったら、怒鳴り散らして死体を取りに行かせるはず。

 そしたらこの町に迷惑がかかるわね」

 アグリは神妙な面持ちであった。

「そうか。ならぼくはそいつらを迎撃するまでだ」

 タケルの眼に炎が宿った。

 先ほどからタケルは我慢していたのだ。アグリの村は彼女自身の問題である。

 だがノールの村の兵士たちの腐りように吐き気を覚えた。

 あんなやつらがへらへらといい気になって笑っていることにむかっ腹が立ってくる。

 あいつらの仲間を全員奴隷ゾンビに変えてやる。サージュが止めるかもしれないが知ったことではない。

 そして目の前にいるアグリを救いたい。それだけだ。

 アグリはその様子に戸惑いを覚えた。

 逆にアムールはその様子に頼もしさを感じている。

 この主はやると言ったらやる。不屈の闘志の持ち主であることを知っているからだ。

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