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魔王との出会い

 大和やまとタケルは目を覚ました。


 そこは真っ暗な空間だが、なぜか自分の指はきっちりと見える。

 いったいここはどこだろう? タケルは首を傾げた。


 そもそもタケルは天涯孤独の身である。唯一の肉親である母親は死んだ。

 病死である。医者にもかかれず最後は自室の粗末なアパートの一室で亡くなったのだ。

 高校にもいかず、内職をしながら看病していた。


 だがタケルは気にしない。なぜなら母は死んだのだ。病魔に苦しめられ、苦痛で歪む日々は終わった。

 タケルは母親を火葬してもらうと、一切の権利を放棄した。

 これは借金を相続しないためだ。タケルはすべてを捨て、裸一貫になる。


 その後、雨の降る晩にふらふらと町を出ていた。そしてトラックにはねられたと思う。なぜなら記憶にないからだ。


「ようやく起きたな」


 それはつややかな声であった。タケルが後ろを向くとそこには褐色肌の美女が立っていた。

 紫色のロール髪に羊の角が生えている。瞳の色は金色、そして煽情的な黒い衣装を身にまとっていたのだ。


 手には山羊の髑髏に蝙蝠の羽を象った杖を持っている。


「ここはどこだ。あなたはだれだ?」

「質問が多いな。ここは魔界。人間界の裏側にある世界だ。

 そしてわらわは魔王サタナス。お前を召喚したものである」


 目の前の美女サタナスが自分を呼んだのか。とりあえず納得する。


「そうか。ぼくは死んで地獄に落ちたのか」

「違う。ここは地獄ではない」


 サタナスが否定する。


「おまえたちが信仰する地獄は存在しない。天国も同じだ。

 魔界はあくまで魔界。悪魔だけの住む世界だ」

「地獄も天国も存在しない? じゃあぼくらの魂はどこにいくんだ?」

「どこにもいかない。お前らが死んだあと魂が放出される。それは我ら魔族の空気となるのだ」

「ぼくらの魂は空気なのか?」


 タケルはショックを受けた。自分たちの死後が存在しないことに衝撃を受けたのだ。

 タケルは無神論者だが子供の頃から天国と地獄の有無について知っている。


 地獄を題材にした絵本を読んだときは、背筋に寒気が走ったほどだ。

 だが地獄が存在しなければ、この世はなんでもやり放題ではないかと思う。


「空気だ。だが決して軽い存在ではない。お前たち人間がいなければ我らは生存できないのだ。

 おまえを召喚したのはそれが理由なのだよ」

「どういうことだ?」

「実はある異世界を救ってほしい。現在そこでは悪徳がはびこり、人々は毎日絶望の魂をばらまいているのだ。

 ある程度の黒い魂ならほどよい。だが絶望に染まった魂は悪魔にとって毒なのだ。

 これは酸素と同じだ。人間にとって必要な酸素は濃度が濃くなれば毒となる。

 おまえの役目は絶望する人間を減らすことだ。そのためにこの力を授けよう」


 そういうとサタナスは右手から光を発した。その光はタケルの右手に吸い込まれていく。


抜魂術ばっこんじゅつだ。人間の魂を抜き取り奴隷ゾンビを生み出す力だ。

 奴隷ゾンビになったものはすべての苦痛と感覚から解放される。そしてお前の言いなりになるのだ。

 主に絶望しているのは生にこだわる人間だ。病気で苦しむ貧乏人が多い。

 そして金持ちと貴族も危ない。こいつらは自分の財産に異様なまでに固執する。自分の子供は自分の溜めた財産を食らいつくす虫としか思っていないのだ。

 こいつらの死に際も恐ろしく黒い魂を放つ。

 あと抜き取った魂は魂晶石こんしょうせきとなる。水晶の形をしており、大抵は黒く染まっているな。真っ白になればそいつの体は木に変化する。それを繰り返すのだ」


 大体はわかった。だがタケル自身強くない。どうすればいいのか。


「浄化された魂晶石はお前の望む力となるだろう。それを利用して強くなるのだ」


 魔王の説明が終わる。


「ところでどうしてぼくを召喚したの?」

「簡単だ。この世に未練がなく、この世のことわりから外れたからだ」

 納得した。ちょうど母親が亡くなり、事故に遭ったからだろう。

「ちなみに拒否権はない。戻ればお前は死ぬ。新しい生を異世界を救うために役立ててほしい」


 サタナスは頭を下げた。


「ところでなんであんたがやらないんだ?」

「我らは直接かかわることはできない。精々召喚され契約するくらいだ。

 悪魔の願いを知っているか? あれは黒い魂を持つ者を浄化するためにあるのだ。

 大抵三つ目の願いは記憶消去だな。あの世がないことを知ってしまうと余計に魂が黒くなるのだ」


 なるほど。悪魔の願いとはそうだったのか。


「その代わり、お前の好きにしていい。人間を皆殺しにする以外なら大丈夫だ」

「なんでも? それはドーナツを好き放題に食べていいのかな?」

 タケルは思わず口にした。ドーナツは好物だ。母親が元気なころよく作ってくれたのである。

「ああ、構わない」


 サタナスは真顔で答える。

 タケルは覚悟を決めた。どうせ自分は天涯孤独だ。

 ならばできることをやろう。そう決めた。


「わかった。やろう」

「そうか。では早速送ってやろう」


 タケルは一歩を踏み出す。

新連載です。マッスルアドベンチャーとは違う作風なのでお楽しみに。

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