02 王子の場合
俺は昔からの習わしの“花嫁召喚”に反対派だった。
どこぞの世界のものかもしれない女を、最終的には俺の后に迎えるだと?
それなら、まだ腹黒い貴族の娘から娶ったほうがまだマシだ。
世界の違う女は、何を考えているかわからないし、外見が同じでも中身が俺たちの世界と同じとも限らない。薄気味悪くて吐き気がする。
運悪く、俺の時代での“召喚”が決まった。
召喚が行われるのは、大体100年単位で、運悪く俺の年だ。
“花嫁召喚”は決定事項で、いくら王子の俺でも逆らえない。そして、それは極秘に行われる事、王子である俺と、宰相、俺の護衛の騎士、そして召喚をする魔術師のみで行われた。
神殿の地下で寒々しい空気感の中、陣の中に現れたのは2人。
一人目の女は、記録通りの美しい女だった。
二人目の女は、男のようで醜い女だった。
どちらが“花嫁”かと聞かれれば、一目瞭然だった。
宰相が二人に説明をし、質問をしていた。言葉は通じるようだ。これも記録通り。
すると、二人目の女が急に泣き叫びだした。
騎士が女を押さえつけ、黙らせる。
なんだあの態度は、容姿だけではなく、心も醜いのか。
一人目の女の名前は、アイリと言った。
アイリは、これから“花嫁”の準備をしながら1年間この神殿に過ごすこととなる。
二人目の女の処遇が悩まされた。
俺はすぐにでも殺そうとしたのだが、宰相がそれを止めた。
「万が一の事があります」
万が一…とは、アイリではなく、二人目の女…ナオが“花嫁”の場合。
それに、ここで殺しては、涙ながらに女を庇うアイリの心情も良くない。
俺たちが目の届く場所として、下働きとして雇うことになった。
神殿に入ったアイリは、身を清め神殿の衣装に着替えた。
薄い白い生地で出来たソレは、アイリの白い肌にスルスルと滑り体のラインを強調し、良く似合っていた。そして、恥ずかしそうに頬を染めてこちらを覗き込む。俺はこの時、1年後にアイリを后として迎えるのも悪くないと思うようになった。
アイリの噂は、城にいても良く耳に入る。その全てが賛辞の言葉で、もの覚えが良く、仕来りも早々に覚え、もうこの世界に馴染なさったと。誰にでも優しく、辛い顔を見せずにいつも笑顔で――まるで、女神のようだと。
一方、もう一人の女…ナオは、仕事が遅く、グズで到底役に立たない荷物だと。叱られても、ニヤニヤ笑っていて気持ち悪い異世界の女。アイリ様の温情も分からずに、恥知らず。――それが、ナオの評価だった。
(やはり、殺しておけばよかったのだ)
つい3日前の事だ、アイリが完璧であれ、ナオを利用してアイリに危害を加えようとする者が出て来たが、運良く事なきを得た。あれは、優しい女だ。あの時、ナオが人質にでも取られたら、自らの危険も顧みず己を危険に晒していた事だろう。
もしかして、ナオがアイリに嫉妬して起こした事件だったのかもしれない。しかし、証拠もないのでこちらは手出しが出来なく歯がゆい。
嗚呼、アイリ。
異世界の花嫁、アイリ。
約束の1年が経とうとしている。
3日間の試練の後、神が降りてこられなかった時は、お前を后にとろう。
すべらかな肌も、流れる艶やかな髪も、お前の心も…
みんな――愛している。




