01 はじまり
ご都合主義の王道トリップのつもりです。生温かい目で読んでいただければ光栄です。
別の世界から神に捧げる“花嫁”を召喚する。
こんな、おとぎ話のような事を、この国では何百年も前から行っていました。
どうして、この国の女ではいけないのでしょうか? この世界の女ではいけないのでしょうか?
“召喚”を行うにしても、金と人と時間が掛かるのです。
ある時代の王が、召喚をせずに、国で一番美しい女を花嫁と偽りました。
ひと月もせずに、王は謎の奇病で死にました。
周りの宰相も大臣らも花嫁の一族も一緒に死にました。
みんな奇病で死にました。
まるで、神が見ていたかのようだったのです。
最後まで反対していた信仰心のあつい第一王子が“召喚”を無事に行い、事なきを得ました。
“花嫁”は1年間神殿で暮らし、神との結婚の準備を行います。
1年後の3日間。祭壇の上で静かに神を待つのです。神が降りてこられない場合、“花嫁”は王族の后となったのでした。
代々、それが習わし。何百年も現れない“神”。
呼ばれるだけの“花嫁”。
いつしか、王は“花嫁”を召喚するのは、自らの“花嫁”にする為と思うようになります。
また、花嫁の召喚が行われました。
歴代の花嫁の記録によると、『召喚される“花嫁”は15歳~29歳の処女が1名。姿は可憐で美しく、性格は正義感に溢れまっすぐな性分で世界にすぐに順応できる少女が多く、召喚されても数日で立ち直り、すぐに順応する』と言われています。
しかし、今、目の前にいる少女たち。
一人の少女は、記録通りに美しい少女でした。
スラリと伸びた手足、白く透き通るような肌。
髪は腰まで長く、黒く艶のありサラサラと肩から流れ落ちる様は、絵画のよう。
瞳は、宝石のようにきらめき潤み、唇は朝露を含んだ果実のように熟れて艷やかなのです。
そして……。
もう一人の少女。
少女と呼ぶには、乏しい体格。肌は焼け、髪は男のように短くバサバサ。瞳は、ギョロギョロと動いて、口は大きくアンバランス。
辛うじて少女だと推測されたのは、もう一人と同じ制服を着ていたから。
「もう、元の世界には戻れない」
一人目の少女は、戸惑いながらも説明を受けて納得していました。姿勢をただし、真っ直ぐな瞳に、誰しもが飲み込まれたのです。
しかし、二人目の少女は違いました。取り乱し、泣き出し、「お母さん、お父さん」と暴れる始末。なんという醜悪。一人目の少女が二人目の少女を慰めて事なきを得ましたが、二人目の少女に対する視線は一層冷ややかな物になったのでした。
召喚に集まった、王子と宰相と騎士と魔術師は、すぐに最初の少女を“花嫁”と決めました。
そして、もう一人の少女の処遇について話し合いをしました。
――殺すか。
――外に放つか。
――それとも…?
二人目の少女を乱暴に扱うと、一人目の少女が涙ながらに庇うのです。
なんと心優しき少女。彼女こそが、“花嫁”に違いないと。
早速、彼女を神殿に住まわせ、大事に扱いました。
彼女は誰からも愛され、愛し、誰もが彼女が“花嫁”で良かったと思うのです。
もう一人の少女は、城の外には出さずに下働きとして生かすことにしました。
本人もそう望んだのですが、一人目の少女の流した涙の温情の力があればこそだったのです。そうとも知らずに、ヘラヘラと過ごす姿に苛立ち、人々は辛く当たったのでした。
そして1年が経ちました。
一人目の少女は、立派に“花嫁”の準備を整えました。
後は、3日間、祭壇で“神”が降りて来られるのを待つのみとなったのです。
――3日目。
世界に一筋の光が落ちたのです。
しかし、それは城にある神殿ではなく、城を離れた、遠い森の中。
一筋の光がそこに落ちていました。
*11/5 言い回しを変更いたしました。