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私、○○に転生しました~転生メルヘン~

作者: あづま

――むかしむかしあるところに、とても美しいお妃様がいました。


けれどその美しいお妃様は、実は魔女だったのです!

お妃様は毎日魔法の鏡に向かって問いかけます。




「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは、だぁれ?」






『……規定は?』


「は?」


『いえですから、規定は?世界中の女性の中で一番ですか?それとも男性を含めて?それから美醜の判定基準となる地域を設定していただけますか。年齢基準は設けた方がよろしいでしょうか?また、年代はどういたしましょうか。年代・日付を設定していただくことも可能ですが如何いたしましょうか』



「……はぁ?」




……しかし、その魔法の鏡は、前世現代日本人・現世魔法の鏡、というなんとも摩訶不思議な鏡だったのです。





***



皆様初めまして。

前世日本国籍の一般人(女)、現世は何の因果か魔法の鏡なんていう胡散臭さ極まりないものに生まれ?変わっていた者です。鏡って生命体カウントしていいのだろうか……。

名前がないと不便でしたらカガミとでもお呼びください。苗字か名前か、どんな漢字かも忘れてしまったけれど確か前世の名なのです。もしかしてそれが縁でこうなっているんでしょうか。謎です。


そして魔法の鏡な私なんですが、ご主人?といえるこの方。

この国の王妃様兼魔女兼後妻・継母なんですって。なんとも称号の多い方ですね。

義理の娘さんがいるんですけど、黒檀のように黒い髪と血のように赤い唇が印象的で、将来美人になるだろうなーというのがわかる容姿でした。前お妃も美人でしたんでしょうね。つまり、ここの王様は面食いなんですね。



「ちょっと!鏡!!聞いてるの!!」


「はい?何か御用でしょうか」



イライラと、今にも鏡面をその手に持った王杖でカチ割りそうな剣幕でお妃様が私を睨んでいました。



「お怒りの顔もお美しいですが、妙な形の皺が残ってしまいますよお妃様」


「アンタの所為でしょうが!!……それに、わたくしが美しいのは当然のことよ、全く」




そう言いつつも少々気分が上昇したように見受けられますがお口チャックです。鏡なので口、ないですけど。




「改めまして、御用はなんでしょうか?」

「わかりきっているでしょう!この世で一番美しいのは誰か答えなさい!」



副音声で「この世で一番美しいのはわたくしだと答えなさい!」と聞こえた気がします。鏡なので耳、ないですけど。


しかし、困りました。

この世で一番美しいのは誰か……前回もお妃様にその質問をされたのですが、くくりが『この世』とざっくりしすぎているので判断に困るのです。



「お妃様、検索範囲を全世界とされますと、美的感覚の違いというものが出てきまして抽出結果が予期せぬものになる確率が非常に高いのですが……」


「もう!融通の利かない鏡ですこと!!それに美的感覚の違い?わたくしが醜女だと評されるような無粋な場所があるというの!?」


「ええと…具体的に申しますと、南方にある五つほど国を跨いだ場所になりますと『女性はふくよかであればあるほど美しい』という判断基準になりますのでお妃様では今一つ魅力に欠ける、という評価を下されてしまいますね。北国の遊牧民一族ですと、『強さこそ美しさ』ということで熊を素手で倒す女性が絶世の美女認識です。それから東の遠方の島国に行けば、『床まで伸びる長く真っ直ぐな黒髪、しもぶくれの真っ白な肌、細い垂れ目』が美人の条件ですし、西の国々は『低身長で愛らしい』こと……まあ明け透けに言ってしまえば『ロリ(12歳以下低身長)』こそ至高、ということになっていますので……」


「…………えぇ、そ、そう。そうなら仕方ないわね!ならこの国周辺で一番美しいのは誰かしら!」



ぶっちゃけすぎただろうか。しかしお妃様も納得してくれたので、気にしない。私は空気を読める魔法の鏡なのだ。



「はい、範囲はこの国周辺、及び美的感覚が類似している国々、と設定いたします。この中で一番美しいのは……あの、その……」



言いよどむ私にギラ、とお妃様の眼がぎらついた。



「言えないの?言って御覧なさいな」



むぅ、仕方ないご主人様のご命令である。素直にゲロってしまうことにしよう。



「……この国から西に二つ隣の国の、アドニス王子です」

「は?」

「設定された範囲で、この世で一番美しいのはアドニス王子です」

「…………王子?」

「はい。こちらがアドニス王子です」



ぐにょり、と水のように鏡面に波紋が浮かび上がり、鏡には赤毛の美しい男子が映っていた。



「これは……確かに美しい、けれど……」



そう。アドニス王子は非の打ちどころがない程に美しい。

芸術と称せる肉体美と、これまた彫刻がそのまま動いているのではないかと思ってしまうような端正な顔立ち。

男性として、とても美しい人であった。



「……再検索なさい鏡。今度は性別を女に絞りなさい!!いいわね!!!」


「了解いたしました」



うん、正直スマンカッタ。でも私指定通り検索しただけですもの……。



「……完了いたしました。この世(限定的)で一番美しい女性は……お妃様」


「!! オーッホッホッホホホ!やあっと出ましたのね!全く手際の悪い鏡ですこと!でもわたくしは寛大ですので、許してさしあげますわっ」


「と、この国一番の宿屋の看板娘・リリーナ、御息女のスノウ姫、国境近くの薬屋・テレーゼ婦人です」


「………………………………はぁ?」


「年代別で一番が違いまして。0~12歳枠ではスノウ姫が、13~25歳枠ではリリーナ嬢が、25~59歳まではお妃様が、60~80歳まではテレーゼ婦人が一番お美しいのです」


「あぁ、そう……そうなの…………」



……心なしかお妃様がお疲れのようです。しかし疲れている風情でもお美しいのは流石です。



「詳細な内訳をご覧になりますか?」


「もういいわ!寝る!!」


「そうですか。美容には快眠快便が一番と申しますし、ぐっすりとお眠りくださいませ」


「一言多い!!」


「申し訳ありません、おやすみなさいませ」



ぷりぷり怒りながら天蓋を閉じてしまわれた。

お疲れのようでしたがあれだけお元気でしたので大丈夫でしょう。


さあ、明日もお妃様のご期待に応えられるよう頑張りますか!




――むかしむかしあるところに、とても美しいお妃様がいました。


けれどその美しいお妃様は、実は魔女だったのです!

お妃様は毎日魔法の鏡に向かって問いかけます。



「この世で一番美しいのは誰?」



鏡は答えます。



「三軒先の厩舎にいる、白馬のシディオンです」


「美しいけれど!そうでなくて!!!」



不屈の精神でお妃様は毎日鏡に問いかけますが、鏡はどこか頓珍漢な答えを返すばかり。

しかもそれは至って真面目にやっているが故ですし、事実鏡の言うことには嘘はひとかけらもないのです。


―――こうして、義娘であるスノウ姫……またの名を白雪姫というのですが、彼女が娘の年頃になってもお妃様と鏡はそんな様子でしたので、スノウ姫がそれはそれは美しい娘になってもお妃様は嫉妬などしている余裕もなく鏡と漫才さながらのやりとりをしていました。

いつの間にか出会った隣国の王子と電撃的な恋愛、そして結婚という事態になってようやくお妃様は姫の美しさに気付きました。


不安のまま、お妃様は鏡に問いかけます。



「――鏡よ鏡、スノウ姫とわたくし、どちらが美しいかしら……?」



この鏡は魔法の鏡。

何でも正直に、ウソ偽りなく答えます。

範囲をきっちり指定してしまえば、それこそ正確無比に。



「美しいのは―――」



お妃様は自分から問いかけたのにも関わらず、今すぐ鏡をカチ割って答えられなくしてしまいたくなりました。

が、振り上げた王杖は鏡のひとことでぴたりと止まります。



「――若さと恋愛の歓びに満ち溢れたスノウ姫、ですが。

 酸いも甘いも噛み分け、歳を重ねてもそれ以上の努力で美しさを磨き上げ、積み上げてきたお妃様。あなたの方が、美しい」




鏡は正直です、が何分中身は前世人間でした。

長年会話を重ねていく内に情も湧きます。それにほぼ四六時中お妃様と過ごしてきた鏡ですから、お妃様のそれはもう筆舌に尽くしがたい美への努力を十二分に知っています。

それもすべてひっくるめてウソ偽りなく答えると鏡の答えはひとつしかないのでした。



「……ふ、ふん!当たり前の答えね!一応ほ、褒めてさしあげるわ!!一応ね!!!」



鏡はお妃様の声が震えていることに勿論気付いていましたが、そんなところも美しさ……この場合は可愛らしさとも言えますが、まあお妃様の魅力のひとつでしたので一言「恐縮です」と答えるに留めておくのでした。



そうして、お妃様と魔法の鏡は末永く、面白おかしく暮らしたそうです。


おしまい。


タグ候補:出来損ないなグーグル先生 でしたが自重してみました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鏡1つで、意地悪お妃様が高飛車なツンデレキャラになってて可愛い!!ヽ(・∀・)ノ こんな白雪姫なら皆幸せでいいですね。 [一言] 王様とかスノウ姫とかも、出てくる話が読みたいです。続編とか…
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