勇者と魔王の撮影後
もちろんフィクションです。
ジャッキー映画のNGシーン感覚でお楽しみください。
「魔王! 覚悟っ!」
「勇者! 朽ちるのは貴様だ!」
カキィン!
両者の刃がすれ違いざまに交じり合い、両者が背中を向けたままピタリと止まった。
「……」
「……」
「……勇者」
「……」
「……私の負けだ」
ドサリ。
魔王が音を立てて倒れた。
「勝った…勝ったぞ! 俺はついに魔王を倒したぞぉ!!」
そして見事魔王を打ち倒した勇者は、伝説の勇者となり、その後も代々語り継がれていくのであった。
完。
監督 「カットー! お疲れ様ー!」
パチパチパチパチ!!
監督 「勇者くんも魔王くんも良かったよ! これでクランクアップだ! お疲れ様!」
勇者・魔王 「「おつかれーっす!」」
監督助手 「これはスタッフからです」
勇者 「うおぉ! でっけぇ花束じゃん!」
魔王 「さすが主役は違うよなぁ」
メイク 「何言ってるんですか。ちゃんと魔王さんにもありますよ」
魔王 「俺にもあんの? いやー俺なんかがもらっちゃっても良かったんですか?」
勇者 「何言ってんだよ。ずっと俺のライバルだったじゃん」
魔王 「いやいや。だって俺、もともと勇者役のオーディション受けてたんだよ? そしていざ受かったのに、初めての主役ってことで緊張してセリフ噛み噛みで、魔王役の勇者さんと交代ってことになっちゃって、迷惑かけっぱなしってゆーかなんてゆーか…」
勇者 「俺としては魔王役のオーディションで受かったけど、魔王って言ってもそこまでセリフないし、時々声だけの出演とかで退屈かもとか思ってたんだぜ? そう考えたら、この交代は大成功じゃん! ねっ! 監督さん!」
監督 「俺の采配がピッタリだったんだろうが!」
全 『『アハハハハハ』』
魔法使い 「あれ? 終わった?」
武闘家 「なんか楽しそう?」
勇者 「おー! 魔法使いさんと武闘家さんじゃん!」
勇・魔・武 「「「おつかれーい!」」」
勇者 「いやー長かったね」
魔法使い 「長かったわ」
武闘家 「なんせ大河ドラマに匹敵するものを作るっていう企画だから、そりゃ長くもなりますよ」
魔法使い 「長けりゃいいってもんじゃないと思いますけどねー」
監督 「うるさいぞ! 魔法使いくんは一番NGが多かったんだから、もうちょっと申し訳なさそうにしろ! 魔王くんを見習え!」
勇者 「NG一回毎に百円の貯金箱が、全部貯まるかと思ったよな」
武闘家 「魔法使いさんはセリフ難しいですもんね」
魔法使い 「ホントだよ。もう意味わかんない言葉ばっかり並べてさ。その呪文で敵じゃなくて脚本さんに攻撃したかったー」
脚本家 「えっ!? 私ですか!? 私は適当にキーボードを叩いておけば呪文っぽく聞こえるかなーって程度だったので…それに監督さんもOKしてくれましたし!」
監督 「いやいや。俺は何も言ってないぞ」
脚本家 「ちょっと監督さん!」
全 『『ハハハハハハ』』
魔法使い 「それに比べて格闘家さんはいいよねー。『ふんっ!』とか『ハッ!』とか言ってればなんとかなりましたもんね」
武闘家 「そんなことないですよぉ。僕なんか絶対に見た目だけで選ばれたので、そういう声を出すのが大変でしたー」
勇者 「完全におねぇ系ですもんねー」
武闘家 「あんまりじろじろ見ないでくださいー」
魔法使い 「こんなキャラの人が武闘家やってるんですから、勇者一行は結構カオスですよね」
勇者 「あれ? 剣士さんは?」
武闘家 「剣士さんは…」
魔法使い 「あれ? 勇者さん知らなかったんですか?」
勇者 「?」
魔王 「賢者さんと結婚するらしいですよ」
勇者 「マジで!? 初耳なんだけど!」
魔王 「俺も聞いたときは驚きましたよ。なんでも魔王側の賢者さんと勇者側の剣士さんって、最終決戦の時に別録りだったじゃないですか。そのあまりにも多い待ち時間の中で、意気投合しちゃったらしく、電撃婚ですって」
勇者 「マジですか。賢者さんいくつでしたっけ?」
魔王 「今年40って言ってました」
勇者 「剣士ってまだ女子大生じゃなかったっけ?」
魔法使い 「そうそう。20歳ですよ。年の差20歳!」
勇者 「マジですかー!」
魔法使い 「賢者さんまじパネェっす!」
魔王 「そういえば魔王側の人達が誰も来てないんですけど…」
監督 「魔王側はみんな有名人だからな。チョイ役ばっかりで、今も他の現場で仕事中だ」
魔王 「そうですか。皆さん忙しそうでしたもんね。四人そろったのは、最初と勇者さん達が城に着いたときだけでしたからね」
武闘家 「そうだったんですか?」
魔王 「そうですよ。三人まで揃っても、獣王さんがなかなかスケジュール合わなくて、賢者さんとかメデューサさんとかとは会わなかったですねぇ」
勇者 「メデューサさんはエロかったよな」
魔法使い 「あれはエロかった。俺なんか最後の決戦で、二人きりで撮影ですよ。もう胸に目が行っちゃって何回NG出したことやら」
武闘家 「それは役者としてどうなんですか…」
勇者 「まぁこまかいことは気にすんなよ。このあとは監督さんの奢りで焼肉行くんだしさ!」
監督 「えっ、なにそれ。俺、全然聞いてないよ?」
魔法使い 「マジっすか! ごちそうさまでーす!」
全 『ごちですー』
監督 「あーもーわかった! よっしゃ! 編集とかは全部後回しだ! さっさと機材片付けて行くぞ!」
勇者 「やったー」
魔王 「さすが勇者。主役の力は違いますね」
魔法使い 「これでこそ俺たちの勇者ですよねー」
武闘家 「勇者さんってそういう立場だったんですか?」
勇者 「よっしゃ! これから焼肉だー! 行くぞ野郎共ー!」
監督 「助手さん。これって制作費から落ちないかな?」
監督助手 「…半分ぐらいならごまかせますよ」
監督 「じゃあ上手いことお願いできるかな?」
監督助手 「どこか美味しいお酒が飲めるところ行きたいなー」
監督 「…考えとくんでお願いします」
監督助手 「任せてください」
おしまい
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
エンドロールが流ている間に、こんなことが流れていたら面白そうですよね。