転生したら織姫でした!?天帝の娘にチートスキル『短冊召喚』と『一年一度の奇跡』が宿って、彦星様との七夕シンデレラストーリーが始まる
七月七日の夜。雨宮ルカは、いつものように神社の笹に短冊を結んでいた。夜空にはうっすらと星がにじんでいて、どこか幻想的な雰囲気が漂っている。毎年恒例の行事だが、ルカにとってはちょっとした特別な時間だった。
「今年こそ、いい恋ができますように」
そんな軽い願いを書いたあと、笹に結んだ瞬間だった。目の前がまばゆい光に包まれ、身体が宙に浮いたような感覚に襲われる。気がつくと、夜空のような星の世界の中にいた。
その場に現れたのは、長い白髭の老紳士。金色の衣をまとい、背にはふわりと光の羽が浮かんでいた。彼は静かに微笑んで、信じられない言葉を口にした。
「お前は織姫として転生したのだ。これより天界での役目を果たしてもらう」
「え、え? 死んだんですか、私?!」
パニックになりかけたルカに、
老紳士
天帝と名乗った男はやさしく語った。これが運命であり、天の意志であり、そして彼女には大切な役割があるのだと。
訳も分からぬままルカの身体は光の繭に包まれ、気づけば天界の宮殿のような場所に立っていた。目の前に並ぶ機織り機や、風に揺れる星の衣。確かにそこは、空の上の世界だった。
やがてルカは、自分がこの世界で「織姫」として生きることを理解し始めた。そして、織姫としての彼女には、ふたつの特別な力が宿っていた。
ひとつは「短冊召喚」。願いを短冊に書いて空に放つと、その願いが現実のものとなって現れるという奇跡の力。ただし、その願いが他人のためのものでなければ発動しない。自分勝手な欲望には、星の力は応えてくれない。
もうひとつは、「一年一度の奇跡」。それは、一年に一度だけ、本当に会いたいと願った人に、どんな状況でも会うことができるという力だった。ただし、この力もまた、心からの願いがなければ発動しない。愛が試されるスキルだった。
そんなある日、天帝が織姫に語りかけた。
「お前は働きすぎだ。良き相手を紹介してやろう」
そう言って紹介されたのが、天の川の向こう岸に住む青年・彦星だった。真面目で勤勉、少し不器用な彼は、牛の世話を誠実にこなしていた。優しい瞳をした青年だった。
「君が織姫?」
はじめて顔を合わせたそのとき、
織姫ルカの胸の奥で何かが響いた。懐かしさのような、安心のような。二人の間には、言葉にできない引力のようなものが流れていた。
何度か会ううちにふたりは距離を縮め、やがて恋に落ちた。星の衣を織る手が軽くなり、彼の言葉を聞くたび心が温かくなる。そんな時間の積み重ねの先に、自然と結婚の話が出るようになった。
「織姫さん。あなたと過ごす時間が、僕にとって一番の幸せです。どうか、僕と共にいてください」
「私も、あなたと一緒にいたいと思ってる。機を織る手が、あなたのことを考えると不思議と軽くなるの」
こうしてふたりは天界で結婚した。周囲も祝福し、天帝も微笑ましく見守っていた。
しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。愛に夢中になるあまり、ふたりは徐々に仕事を怠けるようになってしまった。織姫は機を織らなくなり、彦星も牛の世話をさぼるようになっていた。
その変化に気づいた天帝は怒り、ふたりの間に天の川を引いた。強引に離れ離れにし、再び会うことを禁じた。
「これ以上、甘えは許さん。ただし、年に一度、七月七日の夜だけは会うことを許す」
絶望と悲しみに沈むふたり。しかし、だからこそ気づけた。愛は、ただ一緒にいることではなく、互いを想い合い、支え合うことだと。
織姫は再び機を織り始め、彦星も牛たちと向き合い始めた。離れている間も、心は通じていた。
そして、一年後。七月七日が巡ってきた。しかし、その日はあいにくの雨だった。天の川は増水し、会うことができないかもしれないと、ふたりは天を仰いだ。
けれど、奇跡は起きた。
空から一羽のカササギが舞い降り、星の羽で橋を作ってくれた。その橋を渡って、ふたりは再会を果たした。
「また会えたね、彦星」
「ああ、会えてよかった。君に会うために、ずっと頑張ってきたんだ」
ふたりは互いの手を取り、短い再会の時間を大切に過ごした。
そして、織姫は空を見上げてそっと願った。
「この幸せが、誰かの願いを叶える光になりますように」
ふたつのスキルを手にした転生織姫の物語は、ここからまた新たに紡がれていく。星に願いをかけながら、彼女は今日も誰かのために短冊を揺らしている。