5日目 未明
・・・・!!
突然に無理矢理上半身を引き起こされ、体を担ぎあげられた!
意識がハッキリしない。反射的に身をくねらして抵抗したら、尻に一発入れられた。
いつの間にかされていた猿ぐつわの中で呻く。
「抵抗すんな。抵抗したらここのガキどもをブッ殺すぞ。」
初めて聞く男の声が、俺を担いでいる人物とは別の方向から聞こえた。声を押し殺して喋っている。
誰かの肩にに担ぎ上げられているせいか、すえた汗の、酸っぱい匂いが鼻につく。幾分かの血の匂いと腐臭も混ざって。
これは演習後の兵士と同じ匂いだ。けがをして、時間が経つといるとこんな匂いになる。
俺は抵抗を諦めた。抵抗しても状況が悪化するように思えたからだ。ここは孤児院だ。
喋った内容と行動から、味方が救出に来た訳でもなさそうだ。
かといって、声と物音を押し殺しているということは、ラディ達の仲間でも無さそうだ。
そういえば、監視と護衛?役のラディはどうしたのだろう・・・。
彼女の声や物音がしない。あの匂いも。
まさか・・・・。
「さっさとずらかるぞ! もたもたしてると領軍が来ちまう!」
賊?の1人がそう言った瞬間、
「とまれ!!! 領軍だ! 抵抗するな! しからざれば斬る!」
アトスの声だ。いつの間に?
抜剣の音がしなかった。
予め抜いていたのか・・・警告しているのに抜剣していないハズはない・・・
ん?
・・・・待ち伏せ? 俺を囮にした?
あり得るか・・・捕虜だしな・・俺は。
でもなぜ俺がコイツらのエサになり得るんだ??
一瞬、俺を担いでいた人物の全身が硬直したが、あろうことかコイツは俺をアトスの声の方向に投げ飛ばした。
フワッとした感覚の後、反射的に手足をバタつかせた、が結局腹から床に叩き付けられ、顎を強打した。
こりゃ痛ぇ!受け身なんか取れねぇし!俺がアトスとぶつからなかったということは、アトスのやつ!避けやがったな!
瞬時に血の匂いと味がした。どうやら口の中を切ったようだ。
周囲では、木の床を踏みならすドタドタという音と、複数の野郎同士の取っ組み合いの息づかいと鎧の音、剣戟の音が何合かあったが、今の俺には痛みとやるせなさでどうでも良かった・・。
受け身を取れずに叩き付けられるという事はこうも痛いのかと、腹ばいのまましみじみ考えていた。
程なくアトスが息を切らせながら「拘束しろ!」と吠え、ドタドタと部下らしき数人の足音と鎧の音が入ってきた。
「大事ないか?」
アトスが息を切らせながら声を掛けてきた。俺の肩を抱え上げ立たせてくれた。
「おお、盛大に口の中を切ったな。口が血だらけだ。」
手でパンパンと俺の体をはたきながら、軽口の様にアトスが言う。
初対面の時と打って変わってフランクだな・・・。俺を受け止めなかった罪悪感かな?
「ああ。そフらしい。ヒ(血)の味がする。 ラフィはロうした?」
喋ったので、口の中が痛み出した。顎の痛みと相まって、ろれつが回らないのが自分でも分かる。
「職員と子供たちの退避と護衛をしているところだ。」
アトスが何かに座らせてくれた。ずっと動いてきたのだろう。すえた汗の匂いがする。
遠くの方で大人数の男と女の声が入り交じった音が聞こえる。
どうやら一騒動だったらしい。
座っている股に何か丸いものが挟まれ、手に革袋が置かれた。
「水の革袋だ。股にバケツを挟んだから、これで口をすすげ。治りが早くなる。」
言われた通り口をすすぐと、唇と前歯のあたりがすごく染みた。
猛烈に苦く、なにか青臭い薬草?の匂いがして少しえずいてしまった。
「ははは。領軍特製の薬草入り水だ。なんでもかんでも、キズをこれですすぐのが一番治りが早い!」
えずきを治すためか、俺の背中をバンバン叩きながら言った。
「朝メシを食うぞ! さぁ立て! 連れて行ってやるから」
そう言うと、アトスは俺の肩をがっしり掴んでいきなり立って歩かせた。
「あっ!! バカ・・・・」
遠のく意識の中で、ラディの声がした・・・・・・。




