5日目③ 承前
「さて・・・、あんたの故郷がデ=トロア村だっていう確認をしたところだったねぇ。」
俺は、首肯した。
「事の発端はその故郷の村でね。あんたは、村の在り様というか子供の育て方とかに違和感を持ったり、知り合いから“変だ”、“ありえない”って言われたこはないかい?」
!!!
・・・・・確かに以前クトリに言われたことがある。
俺は首肯した。
「あんたの故郷の村には、様々な肌・目・髪の色の村人や子供がいなかったかい?」
なぜ知っているんだ? っていうか、そんなのどこの村でもそうなんじゃないのか?
そもそも、戦場でたまたま捕らえた捕虜の故郷なんかなぜ調べるんだ?
「その顔色じゃ、いたんだね。」
・・・・俺は首肯した。
「あと1つ。隣の村はデ=ドー村かデ=キャト村だったかい?」
・・・・俺はまたも首肯した。キャト村が歩いて1~2日の距離であった。兵役にいく時に通ったっけ。
はぁ~~
遅まきながら、この女は確信の上確認しているのだとようやく分かった。
そうすると、不思議と落ち着いた気分になってきた。肚をくくった、というべきか。
彼女は「そうかい・・・・」と言うと、彼女は「ふぅーーーっ」と長い一息ついて
「・・・今までの問答で確信が持てたよ。」
そう言うとガタッと音がして足音が右ななめ前から近づいてきた。
もう息づかいが肌でわかるぐらい近い。
「アタシゃナンナだよ・・・・・覚えているかい?イング?」
えらく穏やかな声だ。懐かしむような・・・
ん? んん?
不意に、頭がフワッと暖かいものに抱かれた。
額から彼女の鼓動が感じられる。
・・・急に恐怖がこみ上げてきた。
ーーなぜ? なぜ俺が特定できるんだ? 一度も名のってないぞ?
瞬間、得体の知れない恐怖で全身がビクッとこわばった。
「え? ナン姉? え? ラぜ? ここリ? っていうか生きていたのか?」
あまりの突拍子のなさに、つい考えが口をついて出てしまった。
「ああ、ああ、そりゃ怖いねぇ。悪かった。」
俺のこわばりを感じとったのか、彼女は優しい声で言って、俺の頭部を解放した。
「“あたしは死んだ。”そう聞かされたのかい?」
俺の頭部を解放したものの、両手で俺の方を持ちながら、まだ息遣いの感じられる距離で声が聞こえる。
まだ、頭の中で「なぜ?」が駆け巡っていたが、なんとか首肯した。
ーナンナ
5つか6つの頃に郷の学校でよく面倒を見てくれた先生の名だ。肩までの金髪が印象的な人だった。
ある日突然「水くみ中に死んだ」と聞かされ、それ以来15,6年ぐらい会っていない。
改めて考えてみると、いかにも取って付けたような理由だな・・。
だが、名前など調べようと思えば調べられる。なりすましの可能性は否定できない。
用心だ。慎重に。こっちは姿さえ確認できないのだから。
ふぅ~。冷静に。落ち着くんだ。
「ロこでラまえを知っラんラ?」
腫れた唇がもどかしい・・
「わっははは! 知ってるも何も本人さね!」
「まぁ見えないんだし、警戒もするかね。結構。結構。」
コツコツと足音が遠ざかると、木の引きずる音と共にまた近づき、すぐ前で「ふぃー」という声がして気の軋む音がした。どうやら椅子に座ったらしい。
「じゃぁ、イギーの小ネタでも披露するかね?」と言うと
「イギーは割り算が大の苦手でねぇ~、ほかの子はさっさと解いて遊びに行くのに、いっつも一人ぼっちになって泣いてったけねぇ。」
なんかニヤニヤしながら言っているのが分かる口調だ。
そうだ、俺は昔割り算が大の苦手だった。いつも課題ができるまで、付き合ってくれた人がいる。ナン姉だ。他の子は、さっさと課題を解いてどこか外で遊びに出かけていったっけ・・・
本当にナン姉なのだろうか? 俺の知っているナン姉は、こんな盗賊みたいなしゃべり方ではなかった・・。ハスキーボイスでもなかった。
しかし、イギーという愛称はナン姉しか使っていなかった。というより二人きりの時だけしか・・・
不意に涙が頬をつたうのが分かった。冷静さはどこかへ吹き飛びそうだ。
「ラん姉なノか?・・生きてタんラな。」
「そうだよ。さっきからそう言ってんじゃやないか!」
ケタケタ笑いながら言うその最中に、小さく「グスッ」と鼻のすする音がした。
ナン姉だ。根拠はないが雰囲気というか空気がナン姉だ。
生きて会えた事は素直にうれしい。
故郷の知り合いと会えるなんて、郷を出て以来だな。
会えるだけで、ものすごく懐かしい気分になって昔に戻った気分になる。甘えたくなる。
が、話が見えない。状況の説明もまだだ。
「ラぜ死んラこロにラっているんラ?」
少し間をおいて尋ねた。
「そいつぁ、いまアタシたちが置かれている状況とつながるんだよ。」
というとナン姉は「ちと長くなるよ」と前置きして語り出した・・・




