1日目
素人投稿です。つれづれなるままに書きました。
不定期投稿です。ご容赦ください。
・・・・剣戟・・
剣戟・・・・の・・音?
剣戟の・・・・音!!
ウッ!・・・・背中に激痛が。
いつの間にか地面にうつ伏せで倒れている。
土の匂い。鉄のにおい。血の臭い。
両手足は動かせる。 大丈夫、まだある・・・。 息も吸える。
しかし、背中が痛む。 力が入らない。
ぼやけた焦点の中に、誰かと誰かが切り結んでいる。
「ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン、」
― 撤退の合図だ。 どうやら、この隊は見捨てられたようだ。 やはり、というべきか。
ぼやけた視界の片方が距離をとり、踵を返し走り去った。
一瞬こちらをみて「すまない」と声をかけながら。
身を起こしたいが、力が入らない。 顔だけでも上げて周りを把握しyo
― ズドッ!
目の前に剣が突き立てられた。 さっき切り結んでいた片方だ。
「動くな。死んでないのなら、お前は捕虜だ。じっとしてな。」
よく見えないが、声を聞く限り女性のようだ。―しゃがれた声だ。
「どう・・・・な・・っ・・・た」
うまく声がでない。息は吸えるが、苦しい。
「喋るな。動くな。じっとしていろ。 死にたくなければね。」
そう言って視界から消えた。
同時に意識が遠のいた。
― どれほど時間がたったのだろう。まだ、背中が痛む。
体に伝わる振動から察するに、荷馬車に乗っているらしい。
それに、どうやら目隠しをされているのか真っ暗だ。ただ、妙なことに拘束は手だけようだ。
「だレか・・・ぃひる・・・のか・・」
やはり声が出ない。かなり喉が渇いている。
「あぁ? 気がついたのかい。 いきなり声をだすンじゃないよ。」
戦場の声の主だ。
「水だ。飲みな」
革袋らしい物を俺の手に乗せた。
一気に飲むと、ようやく人心地がついた。
「あの・・・ここは?」
自分の声じゃないような、か細い声だ。
「ご存じのとおり、幌馬車の上さ」
記憶の声よりも、若い感じの声だ。しゃがれた声というより、ハスキーボイスだな。
落ち着くと、なんだか薬品の匂いが鼻に付きだしてきた。それに、雨が降っているらしい。
行軍するのに、捕虜に屋根付きを提供するなんて・・・
「どのくらい眠っていた・・・・・のですか?」
戦場に立って幌馬車に乗れるということは、女性であっても位の高い人なのかも。
しゃべり方は置いといて。
「3日だねぇ」
「3日?」
「お前さん、名は? 装備からして50人長か100人長クラスだろ?」
「・・・・・」
「・・・まぁ、いいさ。背中はまだ痛むかい?」
「はい」
捕虜といえども、安易に情報を敵に渡してはならない。帰った時が怖いし、郷の一族がどうなるかわかったものではない。
「失礼します。伝令がきました。」
― 別の男性の声だ。側近か護衛か・・
「今行く。」
程なく、幌馬車が止った。
しばらく外で会話している声が聞こえたが、内容まではわからない。
会話が終わると、
「今日はここで野営だ。お前さんはそこにいな。 メシは喰えるかい?」
俺は首を振り、
「あの・・目隠し・・・取ってもらっても?」
「・・・・・・・・そいつぁ出来ないねェ。」
そりゃそうだ。 俺は捕虜なのだから。
「目隠しなんてしちゃいないからね。 お前さん、目が見えてないんだね。」
―え? いまなんtー
「多分、背中に当たった矢のせいだろ。毒矢だったからねぇ。」
―え? 矢? 毒矢?
「ま、しっかり養生しな。どうやら国には帰れないみたいだからね。あと1、2日で領都だ。それまで辛抱しな。」
足音は遠ざかっていった・・・
え?目が見えていない?なぜ? 毒矢?なぜ?
ぐるぐる考えが巡るにつれ、だんだん記憶が鮮明になってきた。
―
あの日、国境警備の任に着いていた50人隊の長として、早朝に500人隊の隊長の執務部屋に呼び出され、威力偵察という名の越境攻撃を命ぜられた。目標は国境近くの砦とその道中の村2つ。
隣国とは戦争状態にはあるものの、ここ2,3年は小競り合いもなく、あえて刺激をする必要はないうえに、俺の隊だけで作戦行動することに違和感があったが、後から本隊が進軍するとのことらしいので、とにかく行動に移った。
同日、昼過ぎに最初の村が見えてきたところで敵守備隊と遭遇し、戦端を開いた途端・・・・・・
背中に激痛が走り、記憶が途切れた。
―
なんだか腑に落ちない任務だなとは思っていたが・・・・どうやらハメられたらしい。
敵にか、味方にかは判らないが。
身分も高くない50人長にどんな利用価値を見い出したのやら。
記憶が鮮明になってくると、少し落ち着いてきた。
しかし、目が見えないとは。一時的なものか、それともずっと・・・?
考えても仕方ない。 と思う事にした。 実際、今できることは少ない。
俺の隊が警備していた国境付近の隣国側で“領都”といえば、確かロナドマ辺境伯領の領都ナジナだ。国境から約5日の距離だったか。国境から近いので道中に砦がいくつもあるらしい。なかなか堅牢だとか。
俺は、そこまで護送されているのか・・・。
最後に“すまない”と言った声は、確かクトリだった。副長の。
何に対しての“すまない”だったのだろう。
倒れた戦友を見殺しにすることか、それとも・・・・・・
どうやらそのまま眠っていたようだ。気がつくと、幌馬車は再び動いていた。
・・・何か体がおかしい。寒い。熱があるようだ。
次第にガタガタ震えが止まらなくなり、
「あ! 震え出したよ! 薬師を呼んで・・・・・・・・・」
そこでまた、記憶が途切れた。