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雷は、誰のために落ちる

雷が、世界を満たしていた。


迷宮の天井から落ちる稲妻はもはや自然現象ではない。

それは意思を持った力――

影のセレスティアが蓄積し続けてきた「王女としての雷」だった。


「終わりよ」


影のセレスティアが、静かに告げる。


その背後に、巨大な雷の輪が形成される。

王宮の玉座を思わせる、威圧の象徴。


「この雷は、誰かのために落ちるものじゃない」


雷輪が回転し、圧倒的な重圧が空間を押し潰す。


「国のため。秩序のため。

個人の感情など、最初から不要」


雷が、一直線に放たれた。


セレスティアは迎撃しない。

雷を構えることすらせず、ただ――立っていた。


「……?」


影のセレスティアが、わずかに違和感を覚える。


雷が、セレスティアのすぐ手前で停止した。


いや――

止められたのではない。


雷が、落ちる理由を失っていた。


「私は」


セレスティアは静かに口を開く。


「雷を、誰かを縛るために使わない」


その足元に、淡い雷光が灯る。

鋭さはない。

威圧もない。


だが、揺るがない。


「王女として生きることは、

孤独になることじゃない」


背後で、ルークとアリスが息を呑む。


二人は動かない。

助けもしない。

ただ、信じて立っている。


「私は、選んだ」


セレスティアの雷が、ゆっくりと立ち上がる。


「この力を、

誰かを守るために使うって」


雷が、影の雷輪を包み込む。

破壊ではない。

否定でもない。


――受け止める。


影のセレスティアの表情が、初めて歪んだ。


「……そんな雷で、王になれると?」


「いいえ」


セレスティアは、はっきりと言った。


「王にはならない」


雷が、静かに収束していく。


「私は――

“王女である私”のまま、進む」


影の雷が、崩れ始める。

威圧と支配だけで形作られた雷は、

行き場を失って霧散していった。


影のセレスティアは、ゆっくりと微笑んだ。


「……そう」


その身体が、雷の粒子となって崩れていく。


「それが、あなたの答え」


最後に残ったのは、

穏やかな雷光と――

一つの感情。


「なら私は……もう、必要ない」


影は完全に消滅した。


雷鳴が止み、

迷宮に静寂が戻る。


セレスティアは、深く息を吐いた。


ルークも、アリスも、

何も言わない。


それが、何よりの答えだった。


――試練は、まだ終わらない。

だが、

王女としての在り方は、ここで確かに定まった。


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