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逃げなかった者の重さ

雷鳴が、途切れた。


一瞬の静寂。

その中心で、二人のセレスティアが向かい合う。


影のセレスティアが、ゆっくりと両腕を広げた。


「見せてあげる」


その声は穏やかだったが、

次の瞬間、迷宮全体に張り詰めた雷が一斉に収束する。


「――逃げなかった者の、重さを」


雷が、落ちる。


天からではない。

影のセレスティアの背後に出現した、無数の雷槍。

それらが同時に、一直線に突き出された。


セレスティアは避けなかった。


「……!」


彼女の雷が前面に展開され、

雷と雷が正面から衝突する。


衝撃波が走り、床が砕け、空間が軋む。


「受け止めるのね」


影の声が響く。


「それが出来るのは、

あなたがまだ“誰かに守られている”から」


雷槍が、さらに押し込まれる。

セレスティアの膝が、わずかに沈んだ。


脳裏に蘇る光景。


――王都。

――反乱の噂。

――沈黙する貴族たち。


“王女である限り、弱さは許されない”。


その言葉が、雷の重圧となって押し潰してくる。


「私は――」


セレスティアの唇から、かすれた声が漏れた。


「一度も、逃げなかった」


雷が爆ぜる。

影のセレスティアが一歩、前に出る。


「そうよ。

だからあなたは、ここに立っている」


彼女の雷は、鋭く、冷たい。

感情を切り捨てた刃のようだ。


「私は選ばれた。

誰にも頼らず、誰にも弱さを見せず、

ただ王女であることを受け入れた」


雷が、セレスティアの身体を貫く。


痛み。

焼ける感覚。


だが、倒れない。


「……でも」


セレスティアは、歯を食いしばりながら、

雷を握り締めた。


「それは、誇りじゃない」


影が、初めて動きを止めた。


「それは――孤独よ」


セレスティアの雷が、質を変える。

荒々しさの中に、確かな意志が宿る。


「逃げなかったのは、立派。

でも、それを誰にも預けなかったのは……間違い」


雷と雷が、再び激突する。


今度は、影のセレスティアが押し返された。


「なっ……」


「私は王女だけど」


セレスティアは、はっきりと言った。


「一人で立つことを、選ばなかった」


背後で、雷が円を描く。

守るように、包み込むように。


ルークとアリスは、

その雷が攻撃ではないことを感じ取った。


影のセレスティアは、静かに笑った。


「……いいわ」


雷を構え直し、告げる。


「なら次は、

その“選択”がどれほど脆いか――証明してあげる」


雷鳴が、再び世界を覆う。

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