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雷は、跪かせるための力

雷鳴が止まない。


迷宮の天井は暗雲に覆われ、無数の雷光が走り続けていた。

それは自然現象ではない。

二人のセレスティアが放つ力そのものだった。


影のセレスティアは一歩踏み出す。

その瞬間、床に走った雷が王都の街並みへと変質した。


「……これは」


ルークが息を呑む。


迷宮の空間が歪み、再構成されていく。

現れたのは――王都エルディア、王宮の大広間。


玉座。

列をなす貴族たち。

頭を垂れる臣下。


そして中央に立つ、幼い頃のセレスティア。


「幻影……過去の記憶か」


アリスが小さく呟く。


影のセレスティアは、幻影の中の自分を見下ろしながら言った。


「王女はね、優しさを見せてはいけないの」


雷が落ちる。

幻影の貴族の一人が、膝を折った。


「恐怖こそが秩序を生む。

雷は――人を従わせるための力よ」


幼いセレスティアの手が震えている。

その様子に、現実のセレスティアは歯を食いしばった。


「違う……」


彼女は一歩、前に出る。


「それは“支配”よ。

王が為すべきは、支配じゃない」


影が振り返る。


「甘いわ」


次の瞬間、影のセレスティアが腕を振り下ろした。

雷が玉座に直撃し、幻影の王が消し飛ぶ。


「見なさい。

王が消えれば、国は恐怖で縛られる。

それでも、秩序は保たれる」


雷に打たれ、膝をつく幻影の人々。

誰一人、声を上げない。


「これが現実よ。

王女は、感情を捨ててこそ立てる場所にいる」


セレスティアの雷が、激しく揺らいだ。


彼女の脳裏に浮かぶのは、

王と初めて謁見した日のこと。

厳しい視線。

逃げ場のない期待。


――“お前は、国を背負う覚悟があるか”。


「……あるわ」


セレスティアは、ゆっくりと雷を収束させた。


「でも、恐怖で縛る覚悟なんて、ない」


彼女が踏み込む。

雷が爆ぜ、幻影の王都が崩れ始める。


「雷はね」


セレスティアの声は、揺れない。


「人を跪かせるためだけの力じゃない」


二人の雷が激突する。

轟音が響き、王宮の幻影が砕け散った。


影のセレスティアは、初めてわずかに眉をひそめた。


「……ほう」


雷光の中で、彼女は静かに告げる。


「なら見せて。

あなたの雷が、どこまで“甘さ”を捨てられるのか」


雷が、さらに激しさを増す。


支配か、選択か。

王女としての在り方を問う戦いは、

ここから本格的に牙を剥く。

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