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王女である前に

影のルークが完全に消滅した後、

迷宮の空間は一瞬、奇妙な静寂に包まれた。


先ほどまで存在していたはずの重圧が消え去り、

代わりに、張り詰めた空気だけが残っている。


ルークは剣を下ろし、深く息を吐いた。

自分自身と向き合う試練――それは、確かに終わった。


だが。


「……まだ、終わりではなさそうね」


セレスティアが、静かにそう告げた。


彼女の視線の先。

迷宮の奥、闇が濃く淀む空間に、微かな光が走る。


――雷。


それは稲妻のように一瞬きらめき、

次の瞬間、はっきりとした“形”を成した。


「……あれは」


アリスが息を呑む。


現れたのは、セレスティアと瓜二つの姿。

同じ金色の髪、同じ冷静な眼差し。

だが、その瞳に宿る光は、どこか冷たく、鋭い。


影のセレスティアは、ゆっくりと歩み出た。

足元に雷光が走るたび、迷宮の床が低く鳴動する。


「久しぶりね」


その声は、セレスティア自身のものだった。

しかし、感情が削ぎ落とされたような、無機質な響き。


「……あなたが、私の“影”」


セレスティアは一歩前に出た。

その表情に動揺はない。

だが、拳はわずかに強く握り締められている。


影は小さく首を傾げた。


「影? 違うわ。

私は――“選ばなかったあなた”よ」


その言葉に、空気が凍りつく。


「王女として生きることを選び、

重荷を背負うことを選び、

それでも誰かに頼る道を残したあなた」


影のセレスティアの周囲に、雷が集束し始める。

それは攻撃ではない。

威圧だ。


「私は違う。

誰にも甘えず、逃げず、

ただ“王女であること”を全うした」


雷鳴が轟く。

空間そのものが、雷の気配に満たされていく。


「その結果、何を得たの?」


セレスティアは、静かに問い返した。


影は即答しなかった。

一瞬の沈黙の後、淡々と答える。


「孤独よ。

だが、それこそが王女に相応しい代償」


次の瞬間――

影のセレスティアの背後で、巨大な雷柱が立ち上った。


「雷は、跪かせるための力。

恐怖を与え、従わせるための象徴」


セレスティアの足元にも、雷が走る。

同じ属性、同じ力。


だが、その在り方は、明確に違っていた。


「……なるほど」


セレスティアは小さく息を吐き、

ゆっくりと構えを取る。


「なら、私は示すわ」


彼女の雷は、鋭さを保ちながらも、

どこか“制御された光”として形を成す。


「王女である前に、

私は――一人の人間よ」


雷と雷が、正面から激突する。


轟音と閃光が迷宮を満たし、

影のセレスティアは、わずかに口角を上げた。


「いいでしょう。

その覚悟が本物か――試してあげる」


こうして、

影のセレスティアとの戦いが始まった。


――雷と雷。

支配と選択。

王女としての宿命を賭けた、試練の幕が上がる。


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