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王女セレスティア・エルディア

通路を抜けた先は、迷宮とは思えないほど“現実的”な空間だった。


高い天井、整然と並ぶ白い柱、赤い絨毯。

その光景を見た瞬間、セレスティアの足が、わずかに止まる。


「……ここは」


「王城の、謁見の間に似てるな」

ルークが静かに言う。


だが、完全に同じではない。

玉座の周囲には誰もおらず、兵も、貴族も、臣下もいない。

あるのは――玉座だけ。


そして。


『前へ』


声が響くと同時に、床に光の線が走り、

セレスティア一人分だけの道が浮かび上がった。


「どうやら……私の番みたいね」


セレスティアは一度、深く息を吸う。

そして振り返り、ルークとアリスを見る。


「心配しないで。

 逃げないって、もう決めてるから」


その言葉には、以前のような迷いはなかった。


彼女が光の道を進むと、空間が静かに変化する。

玉座の奥に、新たな影が現れた。


それは――

王冠を戴いた、もう一人のセレスティア。


だが、その表情は冷たく、感情が削ぎ落とされている。


「……やはり来たのね」


影のセレスティアは玉座に腰掛け、淡々と告げる。


「王女としての責務を放棄し、剣を取った私」


「違うわ」

セレスティアははっきりと言い返す。


「私は放棄したんじゃない。

 “先延ばし”にしていただけ」


影のセレスティアの目が、わずかに細まる。


「では問おう」


玉座の影が、ゆっくりと立ち上がる。


「もし、王が倒れ、王位継承を迫られた時――

 貴女は、仲間を捨てて王座に座れる?」


「……」


「あるいは、王座を拒み、国を混乱に陥れる?」


セレスティアの胸が、強く締め付けられる。

それは、ずっと避けてきた問いだった。


「剣を取る覚悟は示した。

 だが――“統べる覚悟”はあるの?」


沈黙。


その間、ルークとアリスは干渉できない。

これは、セレスティア自身の試練。


やがて、セレスティアは静かに口を開いた。


「私は……」


一歩、前へ。


「王女であることから逃げたことはある。

 でも、国を想わなかった日は一日もない」


影のセレスティアが、無言で見つめる。


「もし、私が王位に立つ必要があるなら――

 その時は、剣を置く」


「……ほう」


「でも、それは“仲間を捨てる”こととは違う」


セレスティアの瞳が、強く光る。


「彼らと歩んだからこそ、

 私は“人を切り捨てない王”で在れる」


一瞬、空間が震えた。


影のセレスティアの表情が、初めて揺らぐ。


「理想論だ」


「ええ。でも――」


セレスティアは、雷を纏う剣を静かに構えた。


「理想を語れない王に、未来は導けない」


雷光が走る。


これは殲滅の戦いではない。

王としての在り方を示す“象徴戦”。


『――試練開始』


静かに、だが確かに宣告が下された。


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