アリスの秘密
迷宮から戻ったルークとアリスは、静かな村の中を歩いていた。
薄橙色に染まる空の下、家々の窓からは暖かな光が漏れ、子供たちの笑い声が聞こえる。
それは、昨日までのルークには少し遠い風景だった。
「ここに住むの、初めてなんだ」
アリスがぽつりと言う。
ルークはその言葉に視線を向ける。
「ずっと、外の村にいたんだけど……。ある日、魔物に襲われてね」
小さく笑うアリスの目は、どこか遠くを見ていた。
「それで、一人になった。薬師だったおばあちゃんも、村の人たちも、いなくなっちゃった」
ルークは言葉に詰まる。
何と言えばいいのか、わからなかった。
「でも、この村なら……何かが変わる気がしたの」
その言葉は、まるでルーク自身にも重なって聞こえた。
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翌日、ルークはガルドに頼まれ、鍛冶場で素材を運ぶ手伝いをしていた。
「お前、迷宮に行くたび強くなってるな」
そう言いながらガルドは笑う。
「迷宮は、ただの試練じゃねえ。村に生きる者の誇りだ」
重い鉄を持ち上げながらルークは頷く。
「わかってる。だから、俺は――」
そのときだった。
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「ルーク様はいらっしゃいますか!」
甲高い声とともに、村の門から馬車が入ってきた。
それは、豪奢な装飾が施された馬車で、明らかにこの村には不釣り合いなものだった。
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馬車から降りてきたのは、騎士と、それに続く一人の少女だった。
淡い金髪を風に揺らし、青いドレスを纏ったその少女は、ルークを見るなり駆け寄ってきた。
「あなたが、ルークですね!」
「え……あ、はい?」
ルークは困惑する。
少女は両手を胸の前で組み、瞳を潤ませながら告げた。
「やっぱり……間違いありません! あなたこそ、私の運命の人!」
「……はい?」
村の皆が沈黙し、空気が固まる。
アリスは、隣でじっとルークを見つめていた。
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その少女は、王国の第二王女・セレスティアだった。
彼女はルークが「運命の力」を持つと、ある占い師に告げられ、探しに来たという。
「ルーク様、どうか……私と結婚してください!」
「いや、ちょっと待って!? 俺、そんなつもりじゃ!」
ルークは必死に否定するが、その姿がさらにセレスティアの好感度を上げることになる。
「控えめなところも素敵……!」
「違う違う違う!」
村人たちは、ぽかんと口を開け、誰もが状況についていけなかった。
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【ステータス更新】
■ルーク
・称号獲得:「王女に選ばれし者」
・効果:王国関係者の親密度が上がりやすくなる。
・隠し効果:???
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その夜、アリスは焚き火の前でルークに話しかける。
「……あなた、本当に結婚するの?」
「いや、無理だよ! 俺なんて村人だし、王女となんて!」
だがアリスは、じっとルークを見つめる。
「でも、あの王女は本気だった」
その言葉は、どこか不安と嫉妬の混じったものだった。
ルークは、そんなアリスの感情に気づきながら、答えを探していた。
「俺は……まず、自分のことをなんとかしないと」
その言葉に、アリスは小さく微笑んだ。