使徒の侵攻、王国への影
ルークたちの前に立ちはだかるのは、
黒い法衣を纏った一人の男だった。
その顔には仮面――無機質な銀の仮面が嵌められている。
「……試練の神の使徒か」
ルークが剣を構えながら呟く。
セレスティアがその姿を凝視し、微かに目を細めた。
「何か……禍々しい魔力を感じるわ」
アリスも頷き、風の精霊たちがざわめくのを感じ取る。
「自然が怯えてる……こいつ、ただ者じゃない」
⸻
仮面の男は一歩踏み出すと、
鈍い声を発した。
「我が名は《ゼオルグ》。
試練の神より命を受け、貴様らの魂を測る者。」
その手が、ゆっくりと掲げられる。
次の瞬間、地面が震え、黒い瘴気が広がった。
「これより行うは、魂の審判。
貴様らの運命、その刃で切り開いてみせよ」
⸻
ルークは一瞬の隙も見せず、剣を正眼に構えた。
「行くぞ、アリス! セレスティア!」
「任せて!」
「了解!」
三人は即座に陣形を組む。
ルークが前線を張り、
アリスが後衛から風魔法で支援、
セレスティアは中衛として攻防一体の剣技を振るう。
⸻
ゼオルグが詠唱を始めると、
空間そのものが歪み、
《黒雷》がルークたちの頭上から降り注いだ。
「来るぞ!」
ルークが叫び、アリスが即座に風壁を張る。
だが、黒雷はその風壁すら焦がし、貫通しようとする。
「耐えろ!」
セレスティアが前に出て、剣を翳し《守護結界》を展開。
光の障壁が黒雷を受け止め、何とかその攻撃を凌いだ。
⸻
「一撃が重すぎる……!」
アリスが息を呑む。
ルークは目を細めながら、ゼオルグの動きを観察する。
(魔力消費が異常だ。こいつ、短期決戦に持ち込む気か?)
その瞬間、ゼオルグが手を開くと、
そこから二体の影――《ダークゴーレム》が召喚された。
「小手調べは終わりだ。
次は魂ごと、削り取ってやろう」
⸻
「アリス! ゴーレムは任せる!」
「了解!」
アリスは風の精霊たちに指示を出し、
《真空斬刃》を放つ。
鋭利な風刃がゴーレムの関節を切り裂き、
動きを封じる。
だが、ゴーレムはそのまま突進してきた。
「硬い!」
アリスが後退しながら、
さらに《烈風槍》を放つ。
風の槍が一点に収束し、
ゴーレムの胸部を貫くと、
ようやく動きが止まった。
⸻
一方、ルークはゼオルグの元へ突撃する。
《迷宮の力》を解放し、剣に蒼白い光を纏わせる。
「終わりにする!」
ルークの斬撃がゼオルグの仮面を砕く――
かに見えたその時。
「甘い」
ゼオルグの掌から、
《黒炎の刃》が出現し、
ルークの脇腹を裂いた。
「ぐっ……!」
ルークが後退し、膝をつく。
⸻
「ルーク!」
セレスティアが駆け寄ろうとした瞬間、
ゼオルグが指を鳴らした。
《闇鎖》がセレスティアの手足を絡め取る。
「無駄だ。王家の血など、無意味」
ゼオルグが冷たく呟くと、
アリスが風の矢を放ち、鎖を裂いた。
「セレスティア、立って!」
「……ええ!」
セレスティアが再び剣を構え、
ルークも膝をついたまま力を振り絞る。
「まだ……終わらせねぇ!」
彼の瞳が燃える。
⸻
その時――
ルークの中で何かが弾けた。
前世の記憶と、迷宮で積み重ねてきた力が、
一つの形となって現れる。
《運命を超える者(EX)》が再び輝き、
彼の剣が虹色の光を帯びた。
「これが……俺の、すべてだ!」
ルークが立ち上がり、
一歩、一歩、確実に前へと進む。
ゼオルグの表情は変わらない。
だが、その手にわずかな震えが走っていた。
⸻
「セレスティア、アリス! 今だ!」
「了解!」
「いっけー!!」
三人の力が、一つに重なる。
ルークの剣がゼオルグを貫き、
セレスティアの光がその傷を焼き、
アリスの風がその存在を散らした。
ゼオルグは静かに崩れ落ちた。
⸻
だが――
その瞬間、
ゼオルグの身体から黒い粒子が舞い上がり、
空間に亀裂を生じさせる。
「これは……?」
ルークが剣を構えると、
その亀裂から無数の影が現れる。
「まだだ……まだ終わらない……」
ゼオルグの声が響く。