再び、無限迷宮へ
翌朝、村の空はどこまでも澄んでいた。
太陽の光が、まだ眠りから覚めたばかりの村に差し込み、薄暗かった家々に温かな色を添える。
ルークは、いつもよりも早く目覚め、迷宮へ向かう準備を整えていた。
昨日の戦いを思い返すと、体の奥底がじんわりと熱くなる。
恐怖ではなく、何かもっと前向きな気持ちがそこにあった。
(俺は変わりたい。もっと……強く)
拳を握りしめた。
村を守るため、そして、自分の運命を自分の手で切り拓くために。
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「おう、行くのか?」
ガルドが、鍛冶場で剣を叩く手を止めて声をかける。
「うん。今日も迷宮へ」
「これを持っていけ」
差し出されたのは、昨日よりも少しだけ重たい剣。
「鉄鉱石が手に入ったんでな。鍛え直した」
ルークは受け取り、手に馴染む重みを感じる。
「ありがとう」
「礼なんかいらん。死ぬなよ」
無骨な言葉に、ルークは小さく頷いた。
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迷宮の入り口に到着したとき、誰かが先に立っていた。
小柄な体にマントを羽織り、フードを深く被っている。
その者が、ルークに気づき、振り返った。
「……あなたがルーク?」
声は少女のものだった。
年は、ルークよりも少し下かもしれない。
しかし、その目は驚くほどに鋭く、どこか影を宿している。
「俺はルークだけど、君は……?」
「アリス。薬師よ」
「薬師……?」
ルークは目を見張った。
この村に、そんな職業があったとは聞いたことがない。
アリスは淡々と告げた。
「私、あなたと一緒に迷宮へ行く」
「え、でも――」
「見てたわ。昨日の戦い。……あなたなら、行ける。だから、私も力になる」
その瞳に宿る決意は本物だった。
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迷宮の中は、昨日よりも一段と緊張感があった。
アリスが手にする杖は、簡素だが魔力の光を帯びている。
ルークは剣を構え、アリスの後ろを守るように進んだ。
「敵、来る」
アリスが呟いた瞬間、スライムよりも一回り大きな生物――『ゴブリン』が現れた。
緑の肌に黄色い目を光らせ、鉄片のような短剣を振りかざしてくる。
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【モンスター情報】
■名前:ゴブリン
■レベル:4
■HP:60/60
■弱点:火属性
■ドロップアイテム
・ゴブリンの牙
・錆びた短剣
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(初めて見る……! でも、情報が見える!)
ルークはすぐに前へ踏み出した。
「来い!」
剣を振り下ろし、ゴブリンの短剣を弾き飛ばす。
しかし、相手は素早く、横に跳ねるように動く。
「アリス!」
「ファイアボルト!」
アリスの杖から小さな火球が放たれ、ゴブリンの胴に命中する。
瞬間、ゴブリンは悲鳴を上げ、その動きが鈍くなった。
ルークはその隙を逃さず、剣を突き刺した。
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【ゴブリンを倒した!】
■経験値を獲得!
■ドロップ:ゴブリンの牙×1、錆びた短剣×1
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「やった……!」
アリスがほっと息をつく。
ルークは剣を引き抜き、振り返った。
「ありがとう、アリス。魔法、すごいな」
「ふふ……当然よ。薬師だけど、魔法も使えるもの」
その笑みは、ほんの少し柔らかくなっていた。
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その後も、二人は迷宮を進んでいく。
スライムもゴブリンも、二人の連携の前ではさほどの脅威ではなかった。
ルークは改めて実感する。
一人で戦うより、誰かと共に戦う方が、こんなにも心強いということを。
(これが、「パーティ」か……)
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【ステータス更新】
■ルーク
・レベル:5
・HP:150/150
・MP:40/40
・力:20
・防御:18
・素早さ:25
【新スキル獲得】
・連携行動(D):パーティメンバーと連携時、命中率と回避率が上昇。
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「そろそろ戻ろう」
アリスが言い、ルークは頷いた。
今日得た素材は、村にとっても重要だ。
そして何より、無理をしないこともまた、大事な経験だと感じていた。