旅立ちと決意
三人は村を後にし、東の山岳地帯へと歩みを進めていった。
薄曇りの空はどこか不穏で、乾いた風が荒れた大地を駆け抜ける。
目指すは、王都エルディア――
だが、そこにたどり着くまでには、いくつもの難所と試練が待っていることを、彼らはまだ知らない。
数日後、三人は東の峠道へと差し掛かった。
崖沿いの狭い道を進む馬車は、慎重に操られていた。
「この道……何かある」
アリスが目を細めた瞬間だった。
「――待て、罠だ!」
セレスティアが鋭く叫ぶ。
ルークは反射的に馬車から飛び降り、馬の手綱を抑え込む。
その直後、岩陰から数人の男たちが飛び出してきた。
盗賊だ。
「やっぱり来やがったか……!」
ルークは剣を抜き放つ。
アリスがすかさず呪文を紡ぐ。
「風よ、舞え! 《ウィンド・ブレード》!」
鋭い風の刃が盗賊の足元を切り裂き、数人がバランスを崩して転倒する。
セレスティアは冷静に指揮を取る。
「アリス、後衛を頼む! ルーク、私と前に出るわ!」
「了解!」
ルークは前へ躍り出て、一閃。
その剣閃はまるで風と一体になったかのような速さだった。
⸻
盗賊たちを撃退した三人は、再び馬車を進めた。
峠を越えた先に広がるのは、王都の広大な領地だった。
「……大丈夫?アリス」
ルークはアリスを気遣う。
「はい。風が教えてくれたので、助かりました」
彼女は微笑むが、手はまだ震えていた。
「お前はすごいよ。誰も傷つかなかった。セレスティアも」
「……ええ。村で訓練していた成果は、無駄ではなかったみたい」
セレスティアの表情は穏やかだったが、その奥にある決意は揺るぎない。
「でも、本当の試練はこれからよ」
遠く、王都の城壁がようやく視界に入った。
三人を乗せた馬車は、ついに王都エルディアの城門前へとたどり着いた。
高く聳える白亜の城壁は、まるで不変の意志を持つ守護者のように佇んでいる。
「……変わらないな」
ルークがぼそりとつぶやく。
その声には、懐かしさではなく、これから始まる試練への覚悟が込められていた。
「ええ。でも、あの時と今は違うわ」
セレスティアの視線は、正面の城門をまっすぐ見据えている。
王家の血を引く王女としての自覚と、民の未来を背負う覚悟が、その瞳に宿っていた。
「懐かしいけど、気が引き締まるね」
アリスは以前よりも落ち着いた様子で、しかし目だけは鋭く周囲を警戒している。
風の流れも読んでいるのだろう。
「誰が敵で、誰が味方か……そう簡単には分からない場所だし」
ルークはゆっくり頷いた。
「だからこそ、行こう。俺たちの目的は、もっと先だ」
城門の衛兵たちは三人に目を向けると、すぐに敬礼をし、門を開いた。
「セレスティア王女殿下、お戻りを」
「父王に報告があるわ。通して」
城下町の喧騒を抜け、三人はまっすぐ王城へと馬車を進めた。
エルディア王国の中心、あの場所へ――
エルディア王城・謁見の間。
そこは前回訪れた時と変わらず、静謐で荘厳な雰囲気に包まれていた。
だが、三人の心の中はあの時とは違う。
「よく戻った、セレスティア」
玉座に座るレオンハルト四世が静かに口を開く。
その目は厳しいが、同時に娘を案じる父親の目でもあった。
「ただいま戻りました、父上」
セレスティアは王女としての礼を尽くし、膝をつく。
「ルーク、アリスと共に村の再建と侵略者撃退の成果を携え……さらに、新たな情報を得ました」
ルークは一歩前へ進み出る。
「黒き霧の正体、侵略者の真の目的。それを暴くため、我々はさらに進むつもりです」
アリスも控えめながら、鋭い目で王を見つめる。
「この国の風は、淀んでいる……でも、まだ浄化はできる」
レオンハルト四世は目を細め、やがて静かに立ち上がった。
「ならば、語る時だろう。エルディア王家の真実と、かつて封じた禁忌の神殿について――」
場の空気が一気に張り詰める。
セレスティアの眉がわずかに動いた。
「……それを話す覚悟が、父上にも?」
王は頷く。
「この国の未来のためだ。お前たちにも、その重みを背負わせよう」
玉座の奥に続く隠し扉が、静かに開かれた。




