運命に見放された男
小林遼は、生まれながらに運が悪かった。
財布を拾えば、中身を抜かれたものばかり。
バイトに受かれば、職場が次々潰れる。
風邪をひいた日は決まって大事な試験があり、電車が遅延し、乗り換えに失敗し、人生を棒に振った。
気づけば彼は、孤独だった。家族も、友人も、遠ざかっていった。
まるで世界に拒絶されているような、生き辛さに満ちた人生だった。
「はは……ま、こんなもんか」
彼は、小さなアパートの一室で、コンビニ弁当を食べる。
味は薄いし、レンジの加減もミスってる。だが、それすらどうでもよかった。
そんなある日だった。
彼が道を歩いていると、車のクラクションが鳴った。
避けようとした瞬間、足元のアスファルトがひび割れた。
「え?」
次の瞬間、視界が白く染まった。
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気がつけば、彼は草の上に寝ていた。
目の前に広がるのは、どこまでも澄んだ青空。そして、森の香りが漂う。
「……あれ?」
立ち上がり、周囲を見渡す。
だが、見慣れた建物も、アスファルトの道もない。
そこにあったのは、木造の家々が並ぶ、小さな村だった。
「ど、どういうことだ……」
そのときだった。
目の前に、透明な文字が浮かび上がる。
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転生完了
•名前:ルーク
•職業:村人(最弱)
•レベル:1
•HP:50/50
•MP:10/10
•力:5
•魔力:3
•防御力:4
•素早さ:6
•耐性:なし
•スキル:なし
•所持アイテム:木剣(攻撃力+1)、布の服(防御力+1)
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「な、なんだこれ……ステータス画面? ゲームか?」
理解が追いつかない。
だが、次の瞬間、村人たちが彼の前に集まってきた。
「おお、目を覚ましたか」
「よかった……ルーク」
年老いた村長らしき人物が、彼を覗き込む。
その目には、どこか安堵の色があった。
「おまえは、我らが村の希望だ……この最果ての村に、奇跡をもたらす者なのだ」
「……は? 俺、そんな……」
困惑する遼。
だが、その瞳には、どこか諦めに似た光が宿っていた。
――また、運命に振り回されている。
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数日が経ち、遼は「ルーク」としてこの村での生活を始めた。
村の名前は「アルトゥリア」。
王国の地図にも載っていない、辺境のさらに最果てにある村だった。
人口は五十人に満たず、ほとんどが老人か子供。
狩りに出る者はわずかしかおらず、村の戦士と呼ばれる存在も三人程度。
食糧も物資も不足しており、毎日を生きることがやっとの状態だった。
それでも村人たちは笑い合い、助け合って暮らしている。
遼はそんな光景に、どこか懐かしさを感じていた。
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「ルーク、おまえのスキルは何だ?」
ある日、少年タムが興味津々な目で聞いてきた。
遼は戸惑った。
――スキル、だよな。だが、自分は「なし」と表示されていた。
「……俺、スキルは持ってないんだ」
「え……そうなの? でも、迷宮に行くんだろ?」
「迷宮?」
タムは首をかしげた。
「知らないのか? この村の大人はみんな、無限迷宮に挑むんだ。そうしなきゃ、生き残れないんだよ」
無限迷宮――それは、この村に課せられた「運命」だった。
外の世界へ出る道は閉ざされ、この迷宮を踏破することでしか、未来は切り開けない。
そして、迷宮で得た資源こそが、村の命綱だった。
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初めての迷宮への挑戦。
ルークは、村の戦士ガルドと共に、迷宮の入口に立った。