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第四話 新たな出会いと恋 (中)松平家吸収

長いです。本当はこの話で三河編を終わらせる予定でしたがいいところで切れます。

今回の主役は後の松平広忠メインとなっています。

天文五年(1536)年五月十七日  三河国  岡崎城下  吉法師


馬で二日かけてようやく岡崎に着いた。乗せてもらってるだけとはいえ、車の椅子とは当然違うので腰が痛くなる。爺や権六は慣れているのか全然そんなことはなさそうだが。


さて、早速岡崎城に入ろうとしたのだが、どうやら手続きみたいなのが必要らしい。俺はルールがわからなかったので爺と確認しながら進めていったがこれがめんどくさい。目的とか何人で来たかとかを聞かれるのはまだわかる。服の中に危険物がないかもわかる(むしろこの時代でここまでやるのかという疑問はあるが)。問題はその後だ。何かしらのサイン(署名)をさせられたんだが、これが字が特殊すぎて全く読めなかった。署名しないと入城出来ないらしく、今回は爺に読んでもらって何とかなったが、将来的にはこういう文字も読めるようにならないと困るな。


さて、松平竹千代……徳川家康の父親はどんな人だろうか。



天文五年(1536)年五月十七日  三河国  岡崎城  松平竹千代


今日も今日とて桜井の大叔父……松平与一信定の話を長々と聞かされている。


「若君、そろそろ決断されては如何か。若君が大きくなられるまで城を……三河を任せてくれぬか?」

「断る。曽御爺様に頼まれるならともかく、桜井の大叔父上に任せるわけにはいかんのだ」

「父上は儂に任せるよう願っておる……はずじゃ!」

「その根拠は?」

「うっ…」

「碌に聞いておらぬのであろう?安祥城の曾御爺様が岡崎に来て、実際に聞くまで私は其方の言い分は聞かぬぞ」


こんなやりとりを毎日繰り返している。その度に大叔父は諦めたかのように帰っていくのだが翌朝にはまた登城してきてこの言い合いになる。

父上……私を置いてもう五か月ですか。最初は、父上が愛した三河を守るために政を頑張ろうとした。と思った矢先に桜井の大叔父がここぞとばかりに思ったのか、毎日自分が当主になりたいことを包み隠さず訴えてくる。こんな状態で政なんて到底出来るはずがなく、家臣たちも日に日に不満が溜まっている。


「お話中失礼します。尾張の織田から使者が」


先日、父親を亡くし家督を継いだ酒井忠次がそう言う。私は彼のことを小五郎と呼んでいる。私にとっては数少ない、信用できる者の一人だ。


「織田が?……何用だ?」

「それが、我らと手を組みたいと」


……どういうことだ?織田にとって、事実上国を一つにまとめられていない三河を攻めることなく、手を組みたいだと?


「とりあえず、使者の方をこの部屋に通そう。大叔父上、続きは後ほど」

「あ、ああ。……ただ、様子は見させてもらうぞ?」

「……お好きにどうぞ」



やって来た使者の姿を見て少し驚いた。大叔父に至っては唖然としている。見た感じ、私より子供なのだ。


「この度は話し合いの機会を設けていただきありがとうございます。織田信秀が嫡男、吉法師と申します」

「松平家()()、松平竹千代と申します。そこに座っているのは大叔父の与一信定。今、色々あって同席して貰っています」


そうとでも言わないとこの状況は明らかにおかしいと思われる……というか大叔父はさっきから明らかに何か言いたそうだったが恐らく、吉法師殿が普通に喋っているのを見て何を言いたいのか余計わからなくなったのだろう。


「失礼なことかもしれませぬが、吉法師殿はおいくつで?」

「三つです。……こんな奴を使者に連れてくるなんて、織田に舐められてるとか思っていますか?」

「いや……この乱世は力のある者が天下に近付いていく。きっと信秀殿もそれを理解して、貴方を使者として送ったのだと」

「ほう、少なくとも竹千代殿とは話が通じそうでよかった。……ちなみに竹千代殿は?」

「十一でございます。……これでもお互い相当歳が離れていますね」

「後ろに座っている権六の方が貴殿と歳が近くて話が弾みそうですが……っと、世間話をしに来たわけではありませんでした」


そう言って吉法師殿は顔から笑みが一瞬消えた。だが、すぐに顔を戻し私に問いかける。


「松平竹千代殿、我らとともに天下を目指しませんか?勿論、対等な同盟を結んで」


天下……?三河すら統一できてない私が……松平が天下を?いやいや、話がぶっ飛びすぎではないか?


「まあ、理由は表向きなものですが……竹千代殿はまさか三河だけを見ているわけではありませんよね?」


三河だけ…?西は織田で北は土岐、そして東は……なるほど、織田家の狙いがわかった。


「要は対今川のための同盟というわけですか」

「それもあります。が、それも表向き。第一、松平家が今川家に臣従しますとでも言えば今川は喜んで受け入れるでしょうし」

「……一体何を仰りたいのです?松平は織田と今川に挟まれていてこのままではどちらに付いても滅びる―」

「そう、そこなのです。はっきり言わせてもらいます。先ほどのやり取りからして松平家は一つになれていない状況だと察しました。今は今川も色々あるみたいなのですぐには攻めてきたりはしないでしょうが、その気になればすぐにでも滅ぼしにかかるなんてことも―」

「有り得ぬ!三河武士は絶対に負けぬ!」


大叔父が声を荒げた。その瞬間、吉法師殿の目が明らかに冷たくなった。


「情勢が読めない人は黙ってもらっていいですか。だから貴方は安祥の御父上に見捨てられたのです」

「…!!!」


どういうことだ?……そういうことか。


「事前に曽祖父に会っていたのですね」

「途中で安祥を通ったのでね。長親殿は『毎日迷惑をかけてすまぬ。だが、愛息子には強く言えなくてな』と言っていた。悪く言ってしまえば親馬鹿ってところかな」


話し方が変わった。……この時点で察してしまった。私たち松平ではこの()()には敵わない。


「……頼む、松平殿。今、我ら織田と手を組んでくれれば三河に何かあったら必ず助けに行くと約束する。三河は松平にしか治められない。きっと今川が仮に取ったとしても三河の民は皆、不本意ながら従うだけだろう。だから―」

「それでしたら、同盟という形では納得しませぬな」


吉法師殿が驚いている。まさか松平が話に乗らないと思っているのか、はたまた……。

ただ、そんなことを言おうとは思っていない。


「松平は、織田家に臣従します」

「…!え……何でそこまで―」

「吉法師殿の考えていることは、三河で精一杯の私には到底目指すことが出来ない……というより考えたことのないことだからでございます。織田家は西へ、松平が東へという考えはわかります。ただ、同盟を結んだとてそれは果たして対等な同盟なのかと考えたら……臣従の方がお互い便宜上はよろしくありませんか?」

「……それは、そうかもしれませぬが―」

「それに、私は見てみたいのです。貴方と共に天下統一というものを」

「……!」

「その代わり、約束通り三河に何かあったら駆け付けること。……これからお世話になる()()にかける言葉ではないですけど」


吉法師殿、いや、()()()()がきょとんとした。だが、すぐに納得したかのように顔に笑みを浮かべる。


「松平殿、其方の方が一枚上手だ。少し恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ない」

「吉法師様もまだまだ幼子ということがよくわかりましたよ。ただ、貴方の考えに勝てる者もおそらくいない。何なら理解する人もかな。この戦国の世で戦をしないで天下を取ろうと考えているのは貴方だけだと思いますから」

「誠に。流石は清康公の御子息。話が通じる人で良かった」


久しぶりだ。こんなに話すのが楽しい日がまた来るなんて。大叔父はすっかり何が起きているのかわからないのか魂が抜けたような表情をしている。これが普通の反応だよな。無理もない。

だからこそ貴方に任せるわけにはいかなかったのですよ、大叔父上。



その後もしばらく二人で話していたら気づけば夕刻になっていた。大叔父はまた明日来るとだけ言って気づいたら帰っていた。


「おっと、そろそろ帰らねばならぬ時間だ」

「今から帰るのですか?今日は遅いし我が城に泊まられては?」

「有難い話だが……大丈夫かな。親父に怒られなければよいのだが……」

「話が長引いたとでも言えばよいのではないですか?……それに、明日やってもらいたいこともございますし」

「……では、ご厚意に甘えさせて頂こう」

「小五郎、二の丸が確か空いていたはずだ。部屋の状況を確認次第、きちほ……若様方を案内してくれるか?」

「若様?……なるほど、明日皆に()()を発表するのですね。すぐに確認してまいります」

「若様なんて……竹千代殿は織田の家臣というわけではないぞ?」

「ほぼ似たようなものでしょう?」

「そう……なのか?まあ、竹千代殿が気にしないのであればそれでいいか。……あの小五郎という者も聡いな」

「彼は酒井忠次と言って、私が一番信頼している家臣の一人です」

「酒井…忠次…!」


若様が驚いた。何か知っていることがあるのだろうか。


「如何なされました?」

「あ、いや少し聞いたことがある名前だったのでな。……そうか、もうこの時代には忠次いるんだ」


この時代には?何を言っているんだろうか、この方は。


「確認終わりました。埃一つない状態でしたよ」

「では、そのまま案内を頼む」

「畏まりました。では、二の丸へご案内いたします」

「では吉法師様、また後ほど」

「うむ。また後でな」


一行が見えなくなるのを確認して、とある男を呼ぶ。


「……半蔵はおるか?」

「……お呼びでしょうか」

「一人、織田の若様の護衛に回してほしい。おそらくあの方は忍を雇っていない。一人いるかいないかでだいぶ変わるだろうから……お願いしてもよいか?」

「畏まりました」


そう言って、すぐに消えていった。彼の名は服部半蔵保長。父上が雇った忍だ。父の死後も陰ながら私を助けてくれる頼もしい存在だ。ここまでやるのも過保護な気がするが、何かあってからでは遅いからな。


あの方は松平を…いや、私の何かを見込んでいる。その期待に少しでも応えたい。まずは、陰ながら支えることからかな。



天文五年(1536)年五月十七日  三河国  岡崎城二の丸  吉法師


いい収穫だったな。家康のお父さん、表舞台にあまり出れなかっただけで実は理解力は結構あった可能性が出てきたな。親父にとっても一番いい形で三河を取ることが出来たんじゃないかな。


「しかし若様、某も権六殿も何も言わないよう言われていたので口を出しませんでしたが見ていて終始落ち着けませんでしたぞ」

「あそこで乱入されても桜井殿みたいになるだけ。だったら口を開かずにただ俺を守ってくれた方が竹千代殿にとっても俺にとっても話しやすい。そう思ったのだが…すまなかったな。俺は竹千代殿みたいに家臣を大切にできていない。また一つ課題が出来てしまったな」

「あ、いや……」

「もしかして、それも気まずくさせてしまう―」

「やめましょう、二人とも。……全く、仲良しなんだか気まずい関係なのかはどうでもいいですがね。上に何か見えるのは俺ですかね」


権六の言葉を聞いてはっとする。上…上…忍か?まさかお命頂戴される流れか?歴史を変えた罰か、はたまた…


「其方、名は?」

「……儂は竹千代様に雇って頂いた服部半蔵と申す」


有名な忍だ。確か徳川家康の忍になる人だったはず。その彼が俺に何の用だ?


「若様を如何する―」

「落ち着け、爺。この()は決して俺を討とうとしているわけではあるまい。……何用だ?」

「殿から、護衛の忍を一人、織田の若様に付けよと命じられたのでその者の紹介をしようかと」

「ほう、竹千代殿が信用している忍が俺の護衛に付いてくれるのか。それは心強い」

「……全く警戒しないのですな」

「それはあの竹千代殿…いや、清康公か。が、認めたということはそれほど固い絆で結ばれているんだろうなと」

「……愚問でしたな。ご無礼お許しいただきたい」

「いや、面白いやり取りだったから気にしていないぞ」

「これは我が主も認めるわけだ……」


一応形的には、主君の主君なんだけどな。まあ、悪い気はしないのでそのままでいいか。


「……来い」


半蔵がそう呼ぶと、若い男がどこからか俺の横に上から降ってきた。ただ、足音はならない。流石は忍だと思った。


「其方、名は?」

「名ですか……」

「もしや、ないのか?」

「……(しち)と申します」


ああ、渋った理由が分かった。棟梁以外は番号で呼び合う習慣が服部忍団の中では決まっているのだろう。まあ、その方が誰が誰か味方内では覚えやすく、敵忍団からはわかりづらいからな。


「七か。……半蔵、この者は今日から俺が()()に使っていいのか?」

「主からはそのように伺っております」

「賃金とかはどうなっている?」

「そこはお気になさらず」


つまり、竹千代殿か半蔵からこれまで通り支払い続けるということか。


「では、七。其方は基本俺の護衛役として共についてきてもらう。なるべく目立たぬようにな。それから、たまに偵察や資源調達を依頼する。それで良いか?」

「はっ―」

「それから、松平とは別で其方を召し抱えることにする。流石にただで働かせるのは俺が許せぬ。任務に応じ、それ相応の報酬も加えるつもりだ」

「…!なぜ、そこまで」

「爺や権六とは違い、其方は俺直々の家臣とする。その方が俺の手駒が増えて丁度よいだけよ」

「……有難き幸せ」

「爺、権六。俺に忍がついたことは親父以外には絶対に言うなよ。深くは言わんが面倒くさいことになる」

「か、畏まりました」

「半蔵も、今俺が言ったことを竹千代殿に伝えてくれ。まあ、あの者が他の者に言うとは到底思えぬがな」

「承知」


そう言って、半蔵は消えた。忍術ってすごいな。実際に存在するとは半分信じていなかった。だが、目の前に現れた以上、信じざるを得ない。そして俺は今後、他国の忍に襲われる可能性も考慮しなくてはならぬのか。とはいえ、俺にも一人とはいえ忍を家臣に加えることが出来た。少しは行動範囲が増えたと考えてもいいかな。



天文五年(1536)年五月十七日  三河国  岡崎城  松平竹千代


「と、吉法師様は伝えよと」

「そうか、やはり変わり者だな」

「誠に」

「……下がってよいぞ」

「御意」


まさか、両家が知っている状態での二重に雇う……召し抱えるとは予想外だった。

とはいえ、これまでと変わらないことがほとんどだから特に気にしない方がいい…よな?


「お疲れですか、殿」

「小五郎か。今日は色々あったからな。……さっきはどうもありがとう。吉法師様は何か言っていたか?」

「常に管理していることがよくわかる清潔感とか、三河の料理が美味しかったとか、大変褒めていらっしゃいましたよ」

「そうか、それはよかった。……小五郎は私たちの考えがわかるか?」

「何となくはわかりますよ。遅かれ早かれ真っ二つ……とはいかずとも内乱が起きそうな予感がしていましたから。そうなる前に解決できそうで私はよかったと思いますよ」

「そうか。……そういえば、若様は小五郎のことも褒めていたな。聡明で私と相性が非常に良さそうだと」

「嬉しいことですね。……私は安心していますよ。今日の殿は、昨日までとは違い、笑顔が見れました。よっぽど嬉しかったんだろうなって」

「小五郎…」


本当に今日は嬉しかった。久しぶりに話す意義のある話が出来て、一生かけて守るべき御方が出来て、そして色々溜まっていたことが解決しそうで。


「今日はゆっくり休み、明日に備えませんか?殿の目標であった三河が一つになるまであと少しですし」

「そうだな…」

「殿?」


なぜか涙が止まらなかった。父上が亡くなってから一度も泣かなかったのに。理由はわかる。さっき、小五郎が言ったとおりだ。


ただ、まだ解決しているわけじゃない。全ては明日決まるのだ。


「父上のような当主にはなれなかったが、これもこれで良し…か」

「殿は殿の好きなようにやればいいのです。私たち家臣団は皆、そう思っております」

「そうか。……そうだな。私は私のやり方で三河を治めて見せよう」


織田の右腕として、松平の当主として、この国を守ろう。そう決めた。

三河でも、本多忠勝や榊原康政はまだ生まれてなく、酒井忠次もまだ元服仕立て(と思われる)のため、有名な武将は少ないかもしれません。ただ、ここで出しすぎても読者の皆様は勿論、私も「あれ?誰をどの話で出したっけ?」ってなりかねないので家康世代に入るまでは本当に重要な人物以外出さない予定です。


酒井忠次はこの年の四月に父が亡くなっているのでこの頃には家督を継いでいたと考え登場させました。彼もまた、主人公のように年々成長していくので忠次目線の回もいつか作る予定です。


広忠はまだ元服前という設定にしました。というわけで次回は彼の元服も含まれます。一体名前はどうなるでしょうね。


次回で今度こそ三河編は終わります。そのまま那古野城編に入っていく予定です。元服前の吉法師は本当にチートという理由が今回でよくわかったと思います。こんな感じで天下統一出来たら楽なんだけどな…(現実は甘くない)

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