04話 憂鬱な朝
薄暗い部屋に差し込んでくる僅かな陽の光と、身震いするような冷たい空気でカインは目を覚ました。
昨晩から降り続いていた雪も今は止んでいるが、分厚い雪雲が空を覆いつくしており差し込む光もうっすらとしている。
まだ意識もぼんやりとする中、カインは疲労と節々の痛みを訴える体を叱咤して寝台から起き上がる。
機巧兵を駆って戦った後は決まって強い疲労と倦怠感が後から襲い掛かる。これは機巧兵が単なる機械ではなく人の気力を根源として制御していることに起因しているからである。
だがそれだけではなく、昨日は色々なことがありすぎて些か考えることも億劫な気分になっており、帰宅するなり寝台に潜り込んでしまっていたのだ。だが妙に目が冴えてしまって寝つきが悪く、ようやく微睡みの中に落ちたのは明け方近くなってからであった。
「朝…というには少し陽が高いか」
誰に言うのでもなくそう呟くと、カインは簡単に身支度を済ませつつ傍らにあった自分の太刀を手に取る。
普段であればアリシアが朝餉の支度に来たついでにカインを起こしてくれるのだが、昨日の出来事もあってか今朝は来ていない。また、ログナーの方も昨晩から砦に詰めているらしく自宅に戻って来た様子も無いようで、がらんとした物寂しい空気がいっそう寒さを感じさせているのかも知れなかった。
カインはそのまま扉の先の台所に向かうと水桶の柄杓からひとすくいの水を飲む。
「痛っ」
ログナーに殴られた傷跡に沁みてカインは顔をしかめが、それでようやく意識もはっきりしてくるとは皮肉なものである。
傷の痛みというよりは自分が見せまいと隠してきた弱さをログナーには見抜かれていたことが情けなくもあり、自分の未熟さを思い知らされただけで悔しくもあった。
だが暗澹たる気持ちにさせているのはそれでけではないことも理解していた。
何よりカインを憂鬱にさせているのは、アリシアのことだった。
(泣いていたよな…)
アリシアは言葉が不自由なせいもあり、感情を表現することが些か苦手なところがある。
それでも懸命に自分の気持ちを伝えようとしてくれていたのは分かっていたのだが、カインも機巧兵を限界まで駆使した戦闘で気力が消耗していたし、何よりログナーの指摘された自分の弱さに対して苛立ってもいたのだ。そんなことも相まって、自分の身を案じて駆けつけたアリシアの気持ちを受け止め切れず冷たくあたってしまった自覚があった。
いまさら後悔した所で遅いが、昨晩に喧嘩別れしてしまったアリシアの顔が頭から離れなかった。
(傷つけたよな…たぶん)
それが分かっているのに慰め方ひとつ思いつかない自分の不器用さに情けなくなるし、昔からこうして喧嘩をしても数日もすれば元通りになるだろうと甘えている部分があることも些か不甲斐なく思う。
ただ、今はどんな顔で何を話せばいいのか正直分からない。少しだけ時間を置いた方がお互いに気持ちの整理もつくだろうから、今はそっとしておくしかないと思っていた。
どのみちカインは砦の駐機場へ向かうつもりだった。
この時間ならケーラが砦の食堂で傭兵や機巧師たちに向けて昼食の賄いを準備している頃である。アリシアの養母である彼女ならアリシアの様子をそれとなく聞いてみることはできるはずだ。その代わり、ケーラに色々と小言をぶつけられるのは覚悟する必要はありそうだったが。




