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エイベルギアの聖旗  作者: 狼煙
序章
16/22

16話 殺意の影

 月明りすら届かない宵闇の森の中、生い茂る枝葉に身を潜めるように黒い影が横切っていく。

 その影は己の一部を触手のように伸ばして離れた所にある枝を掴むと、次の瞬間には縮めた触手に引き寄せられるようにその枝の上に移動している。影はその動きを繰り返すことで地面に触れることすらなく木々の間を自在に移動している。

 やがてその影が太い幹の巨木の上で止まると、葉陰に身を潜めるようにして動かなくなる。いつの間にかその周囲にも同じように黒い影が集まっており、それはまるで獣の群れのようにも見えた。


「クククッ…あいつらが新しい獲物か…。たっぷりと愉しませて貰うとしよう」


 だが、ひときわ大きな黒い影は明らかに人の言葉を口にしていた。

 その姿や振舞いがまるで獣のように見えても、確かにこの影だけは人間のようであった。


「思い出すだけで歓喜に震えてしまいそうだ」


 そう独り言ちる口元は堪えきれずに歪んだ笑みを浮かべている。


 自分が潜んでいることも知らず、のこのことモンテダールを探りにきた傭兵らしき男たちを仕留めるのは造作もないものだった。


 最初の一人は若い男であった。

 そもそも戦いの経験も少ないのであろう。少しばかり手下をけしかけただけで慌てふためいて逃げ惑った挙句、自ら森深くへ逃げ込んでくれたのだから。初めは勇敢に剣を振るって戦っていたようだが、じわじわと手下を使って手傷を増やしてやるとその動きも鈍くなっていった。終いにはその場に剣すら投げ捨てて逃げ出そうとしたから、動けなくなるように足首の健を切裂いてやったのだ。

 あの時の男の悲鳴を思い出すだけで、身体が熱く火照り歓喜に震えるようだった。

 芋虫の様に雪の上を這いずりながら逃げようとする惨めな男の全身を串刺しにして、恐怖にひきつった顔を鉤爪でズタズタに引き裂いた時は脳が痺れるほどの快楽が味わえた。


 ほどなくして、次は一人目の男が野営してた辺りに壮年の男が姿を現した。

 この男は若い男の方と違って獲物としてはそれなりに歯ごたえがあった。こちらの男はモンテダールの街に潜入していたようだが、密かにそこを脱して、仲間と落ち合うためにこの野営地にやってきたのだろう。だが、そこに仲間の姿が無いことを見て取るや、すぐにその場を立ち去った。この者たちがここより北にあるオルガなる町から来ていたことはあらかじめ聞かされていた。それを手下と待伏せして罠にかけるなど造作もないことだった。

 中々に隙を見せない手練れのようであったが、若い男と同じように手下の獣をけしかけて疲弊させてやった。しぶとく手下の攻撃を防ぎながら我らの包囲を抜け出そうとしていたようだが、一刻ほど立つ頃にはとうとう血まみれになって倒れ伏した。


 だが、止めを刺そうと近づこうとした時、何者かが近づく気配を察した手下が警戒の声を上げたのだ。

 これからゆっくりと愉しみながら止めを刺そうとした所を邪魔をされたは気にくわなかったが、新たな獲物が現れたのならばそれを嬲る愉しみが増えたと思えばそう悪くない気になってくる。

 そう思って再び闇夜の森に身を潜めると、獲物をじっくり値踏みすることにした。


(剣士の若造と…。あの仮面に外套…!?)


 慎重に気配を殺して獲物を観察する。


 剣士の若造の方は間合いに入らないように遠目から嬲っていけば、先ほどの二人と同じく仕留めるのことは造作もないだろう。だが、もう一人の仮面の者には気を着けねばならない。


(間違いない…あやつは呪法師!)


 仮面を身に纏う姿もそうだが、我が主の傍らにいるあの者と同じ気配を感じるのだ。

 彼らは音もなく忽然と姿を現したと思えば、この世の理を捻じ曲げるように巨大な炎や雷を操る。思い出すだけでも怒りと屈辱でこの身が震えるが、侮って良い相手ではないことはその身をもって知っていた。何よりこの手下を操る術を己に授けたのも、彼ら呪法師であったのだから。


(だが奴とて人には代わりない。この闇夜にあって、この俺に敵うはずもない)


 そう考えると己の心に宿った僅かな恐怖より狩りを愉しむ享楽の方が勝る。自然と口元には歪んだ笑みが浮かび、興奮で身体の芯がたぎるように熱い。

 逸る気持ちを抑えて口元にある笛に息を吹き込む。吹き抜ける息とともに、ヒヒュッ!と掠れたような音だけが小さくするだけだが、その音に自分の周囲にいた手が獲物を囲い込むために散っていく。それを満足気に感じながら、主たる自分自身も慎重に木の枝を渡りながら、新たなな獲物に近づいていった。

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