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混沌なき箱庭  作者: 天原ちづる
第5章 切り裂きし者
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5.切り裂きし者 13-2

 女が体現するのは、まさに“狂気”。

正面から対峙するフィーリアが、その毒気に当てられて息をのむ。

しかし、女はそんなことは露程も気にかけず、クックックックッと嗤って続けた。

「わたしたちが何か? 決まってるわ。神の使徒よ。忌むべき子たち」

「い、忌むべき子? なんですか、それ。私たちはそんなものじゃありません!」

フィーリアが精一杯の気を張って言い返す。

その後ろでエゼルもこくこくとうなづいている。

娘たちの言葉に、女はにぃっと口角をつりあげた。

「ふぅん。でも、それこそわたしたちには関係がない。疑わしければちゅうす。その中に本当に忌むべき子たちがいれば、それで良いのだもの。どうせわたしたち以外は愚かで怠惰で救いようがないのだから、無駄ではないわ。新たなる世界の為のいしずえとなるのだから、むしろ感謝してもらいたいくらい。えぇ、それに他の者たちに自分たちの愚かさに気付かせるきっかけにもなるでしょう? ほら、無駄どころか一石三鳥くらいにはなるじゃない」

滔々(とうとう)と女は語り、自身の言葉に酔っているかのように恍惚こうこつとした表情を浮かべる。

「さぁ、感謝にむせび泣きなさい。忌むべき子たち。小指の先ほども役に立たぬ小物どころか害悪でしかないお前たちを有効活用してあげるのだから」

女はクックックと笑いながら、剣を持たない右手を差し出した。

さぁ、ひざまずいて命乞いをしなさいとでも言うように。

フィーリアたちにとって、実質的な驚異は屈強な男たちの方であるはずなのに、より恐怖をかきたてるのは目の前の女の方だった。

狂気を超えた禍々しさを放っている。

それは、絶対に相容れず理解すら出来ないモノに対する、原始的な畏怖いふだった。

「あ、あなたたちが連続殺人事件の犯人なの!?」

エゼルがフィーリアの肩ごしに問いかける。

その途端、女の恍惚とした表情は怒りへと変わり、白いはずの顔がどす黒く染まった。

「犯人!? 犯人! 犯人!! なんて無粋な言い方! 我らは<ゼルダの使徒>! 高尚なる伝道者! 選び選ばれし者! それが分からぬお前たちはやはり愚かだ! 死ね! 死ね!! 死ぬがいいぃぃぃ!!!」

女は幅広の剣をフィーリアたちに差し向けた。

それを合図に、それまで微動だにしなかった後ろと横の男たちが剣を構えた。

そこに居ることすら忘れてしまうくらいに影が薄かったのに、今は目に見える程の殺気をまき散らしている。

ただでさえ大きな体が一回りは大きく見えた。



誰がどこからどう見ても、か弱い娘たちの命は風前の灯火だろう。

しかし、先程までの怯えっぷりが嘘のように、娘たちは平然とした顔をしている。

「まぁ、時間も稼げたし、これは黒確定ってことで良いのかな?」

フィーリアと呼ばれていた娘が、先程までよりも幾分か低い声でつぶやく。

それを受けたエゼルと呼ばれていた娘が、おっとりと笑って首から下げていた笛を懐から取り出した。

「良いと思いますよ。しっかり自分たちがやったと白状していますし」

そう言って、大きく息を吸い込み、三度続けて笛を吹いた。

その途端、静まり返っていた路地に、次々とときの声が響く。

三叉路の全ての道からわらわらと現れた男たちに、黒外套の女は狼狽えた声を上げた。

「なっ、人除けに置いておいた奴らはどうした!?」

「雑魚どもなら眠ってもらった」

そう言って女の後ろの道から進み出たのは、眼光の鋭い鷲鼻の男。

オズワルドだ。

「さーて、年貢の納め時だ。なぁ、<ゼルダの使徒>」

オズワルドとは別の道から現れたケヴィンが、にやにや笑いながら抜剣する。

残る一方の道には、大剣を抜きはなったタイロンと二振りの短剣を構えるジークの姿があった。

三方の道にはそれぞれ六人は居るだろう。

纏う雰囲気や構えから、その全てが手錬てだれだと分かる。

完全に囲まれた黒外套の三人は、中央の娘たちの異変にも気が付いた。

それぞれ亜麻色のかつらを取り去っており、銀と濃い灰の地毛をさらして、羽織の下に隠し持っていた剣を抜き放っている。

明らかに鍛錬を積んでいると分かる構えだ。

素人ではあり得なかった。

「お前たち、何者だ!」

黒外套の女が口から泡を飛ばしながら、やや裏返った声で問いかける。

その答えは、頭上から降ってきた。

「俺たちが何者かだって?」

驚いた黒外套たちが見上げると、二階建ての建物の屋根に黒い影が一つ。

「オラ、退け! 危ねぇぞ!」

と言って、その身を宙に躍らせる。

慌てたのは、着地予定地点にいる娘たちだ。

巻き添えを避けて、それぞれ後ろに跳び下がる。

飛び降りてきた影は、娘たちが避けた所へ膝のバネを使って見事に着地した。

そこに立ち上がったのは、浅黒い肌をした男物の服を着ていても分かる長身の女だった。

すらりと手に持っていた長剣を抜き放ち、物騒な笑みを浮かべる。

それは、獲物を見つけた獣の笑みだった。

「泣く子も黙る天下無敵の自警集団、戦列の<テーラン>たぁ俺らのことだ。冥土の土産によぉく覚えておきやがれ!」

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