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混沌なき箱庭  作者: 天原ちづる
第5章 切り裂きし者
56/86

5.切り裂きし者 11-2

 葉月は確信を持って問いかけた。

「……<ゼルダの使徒>の詳細は誰に聞いた?」

オズワルドが逆に問うたのが、その確信を肯定する証拠だった。

<ゼルダの使徒>は、確かに子供が知っているような類の集団ではない。

オズワルドがいぶかしむのも当然だ。

別に情報源についてやましい所はないので、葉月は素直に答えた。

「学問所のジャニス先生です。馬鹿正直にケヴィン隊長からお聞きしたとは言いませんでしたのでご安心ください。通りで耳に残った言葉ということで質問しましたから」

ジャニスの名を聞いた途端、オズワルドは妙に納得してうなづいた。

「ジャニス女史か……。あの女史なら知っていても不思議はないか」

その反応を意外に思った葉月だったが、続いてケヴィンに尋ねられて思考を伸ばすことはなかった。

「だろーな。で? どこまで聴いたんだ?」

「ジャニス先生も子供に聴かせる内容ではないと細部は濁されましたので、概要だけです。主に発祥の経緯と目的ですね」

あとは元の世界のカルト的集団のあれやこれやからの推測だ。

人は生きている限り他者を犠牲にするものだが、宗教はそれを脳みそも良心の呵責も使わずに正当化してしまう。

多寡たかの違いはあれど、それはどの世界も同じなのだろう。

しかし、今の葉月には文化の考察などしている暇はない。

最優先は“犯人の捕縛”なのだから。

「それらを踏まえて、より効果的に犯人を誘き出す餌があるのですが、聴いて頂けますか?」

葉月はよいお茶の入れ方があるのだとでも言うように、微かな上目遣いとおっとりとした笑みで、自らの案を語りだした。



<ゼルダの使徒>。

それは<ゼルディア国>の主神であるゼルダを崇める宗教集団である。

ただし、狂信的で偏狭的な、という但し書きがつく。

<ゼルディア国>の人間は、基本的にはそこまで信心深い方ではない。

文化的に溶け込んでいる宗教行事は多いが、週一で礼拝堂に行く者は少数派だ。

新年の挨拶やら結婚式やら願い事がある時など、節目や困った時の神頼みが主で、年に三、四度という頻度だろう。

神の存在を確信していること以外の宗教観は、日本と少し似ているかも知れない。

この世界や国、都市、街、村、そうした枠組みを創り給うた神ではあるが、そこに生きるは人の責と過度の干渉はしていないという。

もちろん、例外は存在する。

葉月やジークはその最たるものだ。

この世界は他の世界に比べて不安定で未熟であるとは、<ゼルディア国>の副神であり、葉月たちをこの<混沌なき箱庭>に落とした張本人であるエルフィムの弁である。

つまりエルフィムはこの世界を正常な世界にしたいと願っているのだ。

だが、<ゼルダの使徒>の主張は異なる。

『失敗作である世界を一度滅ぼし、完全なる世界を創り直す』

それが主神ゼルダの真の願いだという。

この過激な思想は一般には受け入れられていない。

人々は、まだこの世界に絶望などしていないのだ。

余所は分からないが、少なくとも<ウクジェナ>の大多数の人々は、この世界が滅ぶことなど望んでいない。

それを不信心者として弾劾するのが、<ゼルダの使徒>である。

狂信者は<ゼルディア国>全土で地下活動を行っているという。

その活動の内容をジャニスは“おぞましい”という一言で表現した。

子供に聴かせられる内容ではない。普通に生きていれば関係ない話だから、と。

しかし、葉月やジークは“普通”ではない。

この世界の安定の為、異世界から連れてこられた<世界の落とし子>である。

ジャニスに話を聴いた時は、その集団とは絶対的に相容れないようだから用心しようということと、ケヴィンがその言葉を葉月とジークに問いかけてきたのは、自分たちのことを疑っているからであろうという推測から言動には注意しなければならないということを二人で確認したのみだった。

しかし、一連の事件が続き、遺体発見現場の位置を地図上で確認した葉月は、悟ってしまった。

犯人が<ゼルダの使徒>であること。

そして、今までの被害者は、自分たちの身代わりであることを。

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