3.獅子と狼 3-2
沈黙は一瞬だった。
「ふぅん。面白いのは弟だけじゃねぇってか。というか、性格的にはお前の方が数段面白いな、葉月」
にやっと笑って、カーサが剣を引く。
腕を組んだまま成り行きを見守っていたブノワが、可笑しそうに笑った。
「なるほど。やはりカーサはたとえが上手いな。蛇とはよく言ったものだ」
「蛇……ですか?」
微かに眉間にしわを寄せる葉月。
蛇にたとえられて気分の良い女性などいないだろう。
だがカーサは意に介することなく、さらりと肯定する。
「なんかしつこそうだし、ずる賢いし、ぴったりだろ?」
「ひどい言われようですね。ではジークは何にたとえられますか?」
葉月が何気なく尋ねると、カーサは間髪を入れず答えた。
「黒豹」
「え?」
ジークの正体を知っている葉月は、驚いて目を丸くする。
その反応にカーサが首をかしげ、寝台のジークを見下ろした。
「何かおかしいか? なんかそんな感じがしねぇ? こいつ」
カーサがまったくの勘で言っていることに気付き、葉月は胸をなで下ろすと共にカーサの勘の鋭さに感心した。
苦笑を浮かべながら、首を横に振る。
「いえ。私もそう思っていたので驚いただけです」
女離れした膂力といい、この勘の鋭さといい、この女親分は相当に侮れない存在だと確信する。
副長の方はまだよく分からないが、こちらも一筋縄でいく相手ではなさそうだ。
「ちなみに、こいつは赤獅子っていうこっぱずかしいあだ名がついてる」
ブノワがにやにや笑いながら、カーサを指さす。
指さされたカーサは、むっとした顔で指さし返した。
「お前だって青狼とか呼ばれてるそうじゃねぇか」
「は? 何だそれ? 初耳だぞ? どこで呼ばれてるんだ?」
驚いた顔をしたブノワに、カーサが追い打ちをかける。
「お前の部下が吹聴してたぜ? 部下の教育と情報収集がなっちゃいねぇなぁ」
「本当かよ。最悪だ……」
本気で嫌なようで、ブノワは頭を抱えてしまった。
葉月がそれを見て小首をかしげる。
「青狼なんてかっこいいと思いますけど、そんなにお嫌ですか?」
「じゃあ、君は白蛇の葉月とか呼ばれたいと思うのか?」
「死んでもごめんですね」
恨めしげな声で尋ねるブノワに、葉月は即行で否定の言葉を返した。
「だろう」
ブノワが葉月の言葉に深くうなづいていると、カーサが唐突に口を挟んだ。
「そうだ、ブノワ。葉月はお前の娘ってことにしろよ」
「は?」
「ちょっと待て、カーサ。今の話の流れからどうしてそうなる?」
カーサの爆弾発言に、ブノワと葉月は同時に戸惑いの声をあげた。