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混沌なき箱庭  作者: 天原ちづる
第3章 獅子と狼
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3.獅子と狼 2-2

 自責の念にさいなまれていると、ゴンッガンッという乱暴なノックが響いた。

あまり丈夫ではなさそうな扉が壊れるのではないかと思いながら、葉月は寝台の側に置いた椅子から立ち上がる。

「はい」

「よう、邪魔するよ」

陽気な声をかけながら入ってきたのは、くだんのカーサだった。

その後ろから、甘い顔立ちをした三十代半ばと見える男が続いて入ってくる。

「腕の調子はどうだ?」

「はい。おかげさまで調子は良いです。痛み止めと化膿止めも頂きましたし、今朝も傷口を洗いましたので」

葉月はそう言って包帯の巻かれた腕を軽く上下させてみせた。

するとカーサはにやっと笑って後ろを振り返った。

「それは良かった。あぁ、紹介しよう。葉月、こいつはウチの副長のブノワだ。無類の女好きだから気をつけろよ」

「ブノワだ。よろしく。カーサがひどい紹介の仕方をしてくれたが、安心してくれ。葉月は俺にとっては若過ぎる。あと五年経ったらぜひお相手願いたいけどね」

笑顔で片目をつむってみせる仕草は気障過ぎるが、不思議と似合ってしまっている。

葉月は気圧されながらも、おっとりとした笑みを浮かべてみせた。

「葉月と申します。副長さんはおモテになるようですから、五年経っても私などでは不釣合いでしょう」

「いやいや、そんなことはないよ。君は今でもとても可愛いから、五年後にはもっと可愛くなっているよ。それに可愛いだけじゃなくて、とても聡明な目をしている。その目で見つめられたら、どんな男だってひざまずかずにはいられないだろう」

と、実際に葉月の手をとって跪いてみせたブノワを、カーサが笑いながらからかう。

「お前、七十過ぎのババァにも似たようなこと言うだろ」

「無論、どの年代の女性にもその人の良さがある。女性というのは愛という水を吸って美しく咲く花だよ。男には女性を褒め、口説く義務がある。ま、そうは言っても実際にお相手したい年頃はあるがね」

カーサにしれっと答えた後、葉月ににっこりと笑いかけて、ブノワが立ち上がる。

葉月は向こうでここまで熱烈に褒められたことはないなぁ、と内心苦笑する。

立ち話も何なので椅子を勧めたい所だが、あいにくこの部屋には丸椅子が一脚しかない。

そう広い部屋でもないのだ。何脚もあったら邪魔だろう。

葉月の迷いに気づいたのはカーサだった。

「俺たちは立ってるから、お前が座んな。調子は良くても怪我人だろ」

「しかし親分さんも副長さんも立ってらっしゃるのに私が座るわけにも……」

「カーサの言う通りだ。俺たちは大丈夫だから座るといい」

二人にそう言われては、座らない方が失礼だ。

「ではお言葉に甘えまして」

座ってしまうとカーサもブノワも長身なので、嫌でも威圧感を感じる。

それが狙いなのだろうと思いつつ、顔には出さない。

カーサやブノワもそんなことはおくびにも出さず、寝台のジークを覗きこんでいる。

「ジークの熱は下がらねぇのか?」

「はい。まだ高くて……」

ジークはカーサたちの来訪にも気付かずに眠り続けている。

「こうして見ると、とてもじゃないけど盗賊を五人もやっつけたようには見えないな。どこからどう見てもまだ子供だ」

ブノワが腕組みしながらつぶやく。

来た、と思いながら葉月は小さく息を吸った。

「葉月も二人の盗賊を倒せるようには見えねぇしな。お前たち何者だ?」

カーサの目がすっと細められる。

その目で見下ろされて、葉月の背中にぞくっとしたものが這い上がった。

膝の上に置いた手を思わずぎゅっと握りしめる。

正念場だ。

毅然きぜんと顔を上げて、受け答えしないといけない。

真剣な顔で二人の顔を順に見つめて、口を開いた。

「信じて頂けないかも知れませんが、聞いて下さいますか?」

「あぁ」

「聞こう」

二人の返事に、葉月は小さく息を吐いて話し始めた。

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