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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第1章
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第7話 悩み相談①

「よし。今日はこの辺にしておこう」


 訓練も今日で十日目。バイオットの実力にはまだ到底及ばないが、何度かバイオットを本気にさせるくらいまでには成長した。


「しかし、最初はどうしようもないと匙を投げそうになったが、凄い上達だな。今までいろんな者を指導してきたが、これほど成長が早い者は初めてだ」


 まあ、経験値777倍ですからね。凄い成長期だと思ってください。


「これはもしかすると、もしかするかもしれんな……しかし、そうなると凪と一緒になるのか」


 バイオレットは俺を一瞥すると、少し恥ずかしそうに目を逸らした。


「何の話しだ?」

「ああ、闘技大会の優勝者は王国の騎士一名と共に、魔族フリーデンに行くとあるだろう。その騎士に推薦されているのが私なのだ」

「そうなのか」

「凪はなんとも思わないのか? お主が優勝したら短い期間とはいえ、私と二人で旅をすることになるんだぞ」


 顔を赤らめ、バイオレットはモジモジする。その顔を見て俺は、ああ、そういうことか。と状況を察した。


「確かに遠征中は野外での休息もありえるからな。そしたらバイオットが俺に膝枕してくれるんだろ」

「膝枕だと! 馬鹿者! そんなことするわけがないだろ! 私はまだ清い体なのだぞ」


 更に顔を紅潮させ、バイオレットは動揺していた。ちょろいな、こいつ。


「膝枕ぐらいじゃ、清い体は汚されんぞ。てか、バイオレット、お前、処女だった――」


 んだ? と言い切る前に、バイオレットの拳が俺の右肩にめり込んだ。


「ギャアアアアアアアア!」


 肩からメキメキと何かが折れる音がし、俺は悲鳴を上げた。こいつ、よりにもよって、狼に噛まれた箇所をピンボイントで狙いやがって。


「冗談だよ。そんな怒るなって」


 年頃の娘に向かって、処女なんだ? と言おうとした俺も非常識だが、バイオレットの奴、加減というものを知らな過ぎる。


「ここで怪我したら、明後日の試合に響くだろ」

「うるさい! 凪みたいな変態と一緒に旅なんか出来るか! 今の内にアバラも数本、折ってやる!」


 ああ、最初の一発は折る気満々だったのね。怖いわ、この子。一緒に旅したら、三日ほどで全身骨折になっているかもしれんな。


「安心しろ。俺が優勝した暁には、アテナもセットで付いて来る」


 攻撃を停止する為、俺は慌てて手を伸ばす。途端、バイオレットの拳が止まった。ギリギリセーフ。アバラ折られるところだったぜ。


「そうか。アテナも一緒なら安心……だよな」


 自己暗示をかけているのか、バイオレットはブツブツと一人頷いていた。


「あのさ。バイオレット、一つ聞いてもいいか?」

「なんだ。スリーサイズは教えんぞ」


 ベタな返しだな。知ったところでどうしようもないだろ。てか、知ったら悶々としてしまうわ。バイオレット、アテナに負けずとボインちゃんだからな。

 俺が腰を落とすと、バイオレットも同じようにしゃがみ込んだ。


「バイオレットはなんで騎士になったんだ?」


 想定外の質問だったのか、バイオレットの動きが一瞬、止まった。


「何故そんなことを聞く?」

「知りたいからだよ」


 別に大層な理由などない。ただ、その話しを聞いて、今バイオレットが悩んでいる問題の助言が出来ればいいと思っている。


 現世で患者を救えず、カウンセラーという仕事から逃げた人間がバカなことを抜かすな。と言われたら、返す言葉もない。調子がいいと言われれば、その通りかもしれないが、それでも俺は今、バイオレットの助けになりたいと本気で思っている。


 まだ数日しか一緒にいないが、俺はバイオレットが好きだ。あっ、好きといっても異性としてではなく、人としてだよ。そりゃ、バイオレットが突然、裸になって『凪。私を抱いてくれ』と誘惑してきたら、理性が保てる自信はないが、そういう目で見てはいない。


 バイオレットは不器用で言葉足らず。周りから誤解を受けて疎遠にされがちだが、実際は裏表なく優しい奴だ。


 道端で困っている人がいたら都度、足を止めて、その時どれだけ忙しかろうと必ず助けるし、差別を受けている者(女性や地位が低く差別を受ける者)に対し、体を張って庇う一面があるとも聞く。アテナが拾い食いして、腹を壊した時も「バカだな、全く」と言いながらも薬を飲ませ、アテナの腹痛が治まるまで、ずっと横で看病していた。


「まあ、別に構わんが」


 俺の目を凝視していたバイオレットは吐息を漏らし、夜空を見上げる。


「母さんは昔、騎士を目指していた」


 いきなりの衝撃告白。嘘、そうなの? あの優しそうで細見なサラさんが? 全く想像つかんな。


「母さんは商人の家庭で、そんなに裕福ではなかったけど、小さな剣術の道場に通って鍛錬を積んでいた。十五歳の時には道場の門下生で一番強く、次期道場の師範にもなれる逸材とも言われていたようだ」


 バイオレットは遠い目をしている。その横顔はなんとも形容しがたいものだった。


「母さんは騎士になる試験で筆記試験、実技試験ともに一位の成績だった。でも、結果は不合格。国は落ちた理由についていろんな理屈を並べていたけど、結局女は騎士にはなれない。ってことだったんだろう。母さんは絶望した。強くなりたい。そして、この国を守りたい。そんな純粋な気持ちを誰よりも強く持っていたのに、国のバカ共は女に騎士は務まらない、と一蹴し、母さんの夢を打ち砕いた」


 男女差別はいつの時代もあるからな。驚く話しでもない。


 こんな時、そんな酷いことってあるかよ! と、一緒になって感傷に浸ってやるのが正解なのだろうが、そんな気持ちにもなれなかった。


「バイオレットが騎士になった理由は、サラさんの無念を晴らす為か?」

「半分はそうだが、半分は違う。私は偉くなって、男女差別がない国にしたい。それで今、不当に扱われている女性の助けになりたい」


 成程。その思想は大層なものだ。素晴らしいと言ってやりたいのも山々だが。


「残念ながら、どう頑張っても男女差別はなくらなんぞ」

「なんだと。どういうことだ?」


 俺の冷めた口調に対し、バイオレットは唖然としている。バイオレットが今抱えている悩みは大体わかったが。さて、ここからどう話しを持っていくべきだろうか。

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