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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第3章
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第42話 首謀者

「許さん」


 ボソッとバイオレットが呟くと、真っ正面から駆け出し、ロックに向け剣を振るう。


「なんのつもりだい、バイオレット。僕に斬りかかるなんて」


 しかし、ロックはすぐに反応してその剣を受けた。受けたものの、予想外の行動だったのだろう。穏やかなロックの顔が珍しく、面食らった顔に変わる。


「見損ないましたよ、ロック隊長。私の尊敬した貴方はこんな卑劣なことしないはずです!」


 悲痛な声でバイオレットは剣を振り続けるが、ロックはそれを軽くいなし、素早くバイオレットの体を斬りつけた。体勢を崩したバイオレットはしゃがみ込むが、その隙を見逃さず、ロックはバイオレットの額に剣を突き当てる。


 嘘だろ。女神や魔族という人外相手ならまだしも、同じ人間でバイオレットをここまで圧倒する奴がいるのか。ロックの奴、策士タイプかと思ったが、剣術も相当な腕だ。


「バイオレット。君は純粋で非常に扱いやすい駒だった。でも、それだけだ。君みたいな優等生は言い様に利用されるだけだ。今回、それを思い知ったろう。大人になるんだ、バイオレット。僕はみすみす君を殺したくはない。これも全て国の為だ。わかってくれるよね」


 優しい表情でロックは剣を鞘に収めると、バイオレットに手を伸ばした。

 が、差し出した手をバイオレットは躊躇なく振り払う。


「勘違いするな。私は国の操り人形ではない! 私は私の意思に従って動いている。我が国が卑劣な国であるなら、私は国を捨てて戦う!」


 その態度に対し、ロックは冷めた目をする。まずい、冷酷非道な奴の事だ。同胞であるバイオレットも躊躇なく殺すはず。と思ったが、そうはならなかった。


 ロックはバイオレットの体に向けて手を伸ばすと「カテチオ」と詠唱する。途端、バイオレットの体は黄色い光の輪っかに包まれ縛られた。バイオレットは必死に暴れているようだが、その拘束魔法に成す術がない状況。


「くそ。なんのつもりだ。いっそのこと、ひと思いに殺せ!」


 バイオレットは悪態をつくが、ロックは「少し頭を冷やすといい」と言い、挑発には乗らない。この時、見せたロックの表情はいつもの穏やかなものではなく、どこか影のある寂しげな顔で。初めて見る、今まで見た作り物の顔とは違い、最も人間らしい顔だった。


 なんだ、この違和感は。もしかしたら、ロックの奴。バイオレットに対して、特別な感情を抱いているんじゃないだろうか。

 恋心という簡単に崩れるものとは違う。もっと違う、大きいなにかだ。


「バイオレットが危ない。私が助けに行く」


 考え事をしていると、サラが飛び出していこうとしていたので、慌ててその腕を掴んだ。


「バカ。死にたいのか」

「だって、このままだとバイオレットが」


 小声で俺達は言い合いになる。サラはバイオレットの安否を心配しているようだが、実際、サラが出て行ったところで状況は変わるとは思えない。しかもバイオレットの時と違って、ロックもエルフであるサラは躊躇なく殺すはずだ。


 クレアやソフィア、その他の魔族も身動き出来ない。今の戦力は俺とニナだけ。俺達に勝ち目はない状況だ。


 ……待てよ。戦いに勝つ? そうか、俺達は戦い勝つ必要はないのか。

 途端、俺の脳裏にはこの異世界に転移してからの記録が走馬灯のように流れてくる。

そして、パズルのピースが揃った時、この事態を収める最善の方法を思いついた。でも、同時に酷い嫌悪感を覚えた。


 そうか。アテナも、そしてクレアもこの展開を望んでいたのか。アテナがこの場に出てこないのも国の命運に関わる事に手出しが出来ないから、というのが建前上の答えで、あえてここは手出ししないのだ。きっと、それがクレアの為だと考えている。


 結局、俺はまた彼女を救えなかったのだ。内心、絶望に顔は俯き加減になるが、ここで落ち込んでいても仕方ない。せめて、ここは彼女が望む結末を迎えてあげよう。


「ロック隊長。話しがある」


 俺は顔を上げ、刀を構えるわけでもなく、ゆっくりとロックに歩み寄る。


 奇妙な行動に対し、人間国の騎士達は警戒して、ロックの前に立とうとするが、それを拒否するようにロックが手を前に出す。


「話しってなんだい?」


 ロックはいつもの穏やかな表情に戻る。


「悪いがここは一旦、引いてくれないか?」


 想定外の言葉だったのだろう。俺の提案に対し、周りにいる人間がどよめいた。


「凪さん。面白いことを言うね。なんで、ここで僕達が引かなくちゃいけないんだ? そんなことして、こちらになんのメリットがある?」

「メリットはないが、このままだとデメリットの方がでかいぞ」

「どういう意味だい?」

「この任務。関わっているのは第一部隊だけだろ」


 俺の問いに対し、ロックは顔を顰める。どうやら図星のようだ。


「そうだよ。それがどうしたんたい?」

「この任務。本当に王様の命令なのか」

「……」

「王様が魔族に潜入し、奇襲をかけろと言ったのか?」

「なに言っているんだ、お前。王様の命令に決まっているだろ」


 表情を読む為、俺はロックの目の奥を覗き込んだ。途端、横にいる騎士が口を挟む。


「じゃあ、お前は王直々に言われたのか」

「それは……」


 尋ねるとその騎士は別の騎士と顔を合わせる。別の騎士も首を振っており、周りの騎士達から動揺が伺える。まさかとは思ったが、やはりそういうことだったか。


「俺は王様と話しをしたが、奇襲をかけろという人物にはどうしても思えない。王様は自国の未来を考えると、同盟を組むのが最善と考えている人だった」


 自惚れるわけではないが、自分は観察眼に長けている。だから、あの時、言った王様の言葉は嘘偽りないと思っている。


 頭が相当キレる男だ。一体、ここでどんな論破をされるかと、構えていたが。


「いや、参ったね。さすがよ、凪さん。君の言う通りだ」


 と、両手を広げ、ロックはいとも簡単に白状した。


 その告白の瞬間、周りにいた騎士達のざわめきはピークに達した。


 無理もないだろう。まさか自分達やっていた行動が国の命令ではなければ、自分達の立場も危うくなる。


「こんなことしたんだ。もう、同盟なんて組める状況じゃない。むしろ、このままでは戦争になり兼ねないだろ。その元凶が第一部隊の独断行動となれば、それこそ軍法会議ものだ。王様は魔族との同盟を望んでいた。それを自ら壊したんだ。良くて部隊の解散。状況によっては隊員全員の実刑もありうる」


 俺は人間国の騎士達に聞こえるように、わざと声を上げ大袈裟に煽ってみせた。

 効果は絶大。青ざめる者や慌てる者が出始め、中には「隊長。どういうことですか!」と、ロックを責め立てる者まで出て来た。

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