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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第3章
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第40話 人質

「バイオレット。お疲れ様。よくやってくれた」

「なにを言っているのですか、ロック隊長。これは一体、どういうことですか?」


 バイオレットはわけがわからないという顔でロックに尋ねる。が、その間をソフィアが割って入った。


「あなた達、この付近に魔力を遮断する結界を張りましたね。しかも魔族だけを特定して」

「へぇ。頭のキレる子がいるようだね」


 ロックはソフィアを物珍しい目で見つめていた。ソフィアは今にも殴りかかりそうな勢いだ。


「しかし、わかりません。何故、私達の居場所を特定出来たのですか?」


 ソフィアの質問に対し、ロックはクスリと不敵な笑みを浮かべる。


「ありがとう、バイオレット。僕が渡した腕輪、離さずに付けてくれていたんだね」


 途端、バイオレットは目を見開き、左腕についていた腕輪を凝視していた。


「なるほど。あんた、バイオレットの腕輪に発信機を付けたんだな。バイオレットを魔族と接触させ、そこに攻め込んでくる算段。どんなカラクリかは知らないが、魔族のみの魔力を使えない防壁を張ったわけか」


 これはもう以前から計画していた陰謀としか思えない。しかし、ロックも非道だな。

きっと、ロックはバイオレットに好意を抱かれているのを知っている。だから、ロックがバイオレットに腕輪を渡したのだ。自分が渡せば、絶対外すことがないから。


「ご名答。純粋なバイオレットとは違って、君は勘が良さそうだから少し心配してたよ。でも、考え過ぎだったね。まんまと罠にハマってくれた」

「ちょっと待ってください! では、同盟を組むという話しは?」


 バイオレットは混乱していた。無理もない。国に裏切られただけじゃない。尊敬していた人にも裏切られたんだ。心に受けたダメージは計り知れないだろう。


「バイオレット、君は本当に同盟を組めると思ったのかい? 化物である魔族と共存なんて出来るわけがないだろう」

「化物はあんた達よ!」


 話しの途中、後ろから声がした。振り返るとそこにはニナが立っていて、鋭い形相でロックを睨み付けている。


「あなた、見覚えのない人ですね。人間……いや、気が違う。まさか、エルフですか?」


 余裕に笑っていたロックがニナを見て、面食らっていた。しかし、面食らったのはこっちも一緒だ。こいつ、相手の気で種族の識別が出来るのか。


「まさか、こんなところにエルフが紛れているとは。それは少々危険ですね。エルフは特殊な力を使う種族だと耳にしたことがあります。先に始末した方が賢明でしょう」


 ロックは険しい顔をし、剣をニナの方に向けたので、俺はとっさにニナを守る体勢に入る。


「ちょっと、色男のお兄さん。私達の魔力を抑えたくらいで勝てると思っているの?」


 話しに割って入ったクレアは不敵に笑う。そして、瞬きを一つしたその瞬間、騎士二人を殴り倒した。鎧なんて無意味。クレアの拳がいとも簡単に鎧を貫き、騎士二人は反応する隙もなく腹を殴られ、泡拭いて失神してしまう。


「人間は200年経っても学ばないのね。魔力なんかいらない。あなた達なんて、拳一つで十分。力の差というものをわからせてあげる」


 クレアは素早い動きで駆け寄るが、ロックは霧のように消える。見失ったクレアが辺りを見渡していると「動かないで下さい」というロックの声が聞こえる。


 声がした方に視線を移すと、ロックは十メートルほど離れた位置に立っており、その光景に俺達は息を呑んだ。


「ああ、訂正します。動いても構いませんよ。この子達がどうなってもいいのなら」


 そこには騎士がざっと見ても30人以上はいた。いや、問題はそこではない。魔族の子供達は腕と足を縄で縛られ、騎士達が一人一人の子供の首元に剣を当てていた。


 よく漫画とかで見る残酷なシーンだが、実際、目の当たりにすると言葉が出ない。非道だと罵りたい怒りを通り越して、頭が真っ白になった。


 それは子供達も一緒。泣き喚き助けを求める者。恐怖を通し越し、言葉すら出ない者もいた。


「……私はどうしたらいいの?」


 クレアは観念したように両手を上げ、ロックに従う意思を見せる。途端、ソフィアが「ダメです! クレア王女」と呼び止める。


「これは罠です。クレア王女が犠牲になっても、この者達は子供達を殺します!」


 その停止の声にクレアは振り返り「知ってるよ。そんなこと」と、困ったように笑った。


「それでもね、私は守らなくちゃいけない」

「なにを言うのですか! あなたは王女なのですよ。犠牲を払ってでも戦うべきです」

「王であれば、そうしなければならないんだろうけど、私にはやっぱり出来ない。私さ、王の素質ないんだよ。こんな姑息な手に対抗も出来ないんだから」

「ダメです。私はそんなの絶対に許しませんよ!」

「許して。お願い……。ソフィアちゃん、お願いだからなにもしないで」


 自尊心をかなぐり捨てて懇願するクレアに、ソフィアは「そんな」と絶望した顔を浮かべ、床に跪いてしまう。


「ありがとう。ソフィアちゃん」


 戦意喪失したソフィアを見て、クレアはホッとした顔をすると、ロックの方に歩み寄って行く。その後、騎士はクレアの手と足を縛り付けた。


 ロックはかなり慎重な性格なようで、自ら呪縛魔法をクレアかけ、動けないようにしていた。縛られた後、クレアは子供達に「大丈夫だよ」と、元気付けようと微笑んでいる。


 縛り終えた後、ロックはソフィア。そして、遅れて集まって来た魔族の騎士に目を向け、ロックは大声で出す。


「抵抗したら容赦なく、人質を殺します。クレア王女だけでない。他の者達も一緒ですよ」


 その言葉に騎士達はソフィアに目を向ける。跪いていたソフィアは立ち上がり「クレア王女の判断です。手を出してはなりません」と、騎士に指示を出していた。


「一人でも反抗する者がいれば、連帯責任です。第二の人質を殺します」


 第二の人質。なんだ、それは? と誰も問わないまでも、魔族側は疑問に思っていた。その表情を読み取り、ロックは突然、遠くにある建物を指差す。そこは教会だった。


「あの教会に村人達を百人ほど監禁させて頂きました。そして、爆薬を仕掛けております。言っている意味わかりますよね。一度目の裏切りで100人の命が死に至りますよ」


 やり方が汚いが非常にうまい。この短時間でそこまでの仕掛けが本当に出来たのか定かではないが、可能性がゼロじゃない以上、脅しとしては効果大だ。これで更に騎士達は勝手な動きが出来なくなった。

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