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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第3章
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第39話 奇襲

 一日目は顔合わせ。二日目は城や村の案内。三日目にしてやっと同盟を組む会議が開始された。ただ、会議ではあるが少人数。人間国はバイオレット一人。魔族国はクレアとの侯爵の二人。当然、同盟時に互いが不利にならないよう話し合わなければならない重要な会議だ。ただ、バイオレットには決定権がない為、議題であがった内容の回答は全て持ち帰りとなる。


 しかし、相手国が最高権力者の王女に対し、こちらは政治的権限がほぼない騎士一人とはあまりにもずぼら過ぎる。せめて人間国も一人、国王ではなくても、侯爵かそれ以下の権威者が同行するべきじゃないだろうか。会議が始まる前にバイオレットが「本当に私でいいのだろうか」と困惑していたのが不憫だった。


 当然、その会議に俺やアテナ、ニナは参加していない。一つ意外だったのが、その大事な会議にソフィアも出席していない事だ。


「ソフィアは会議に出ないのか? 側近なのに」


 一人城内を歩いていると、ソフィアが庭園の噴水に座り、ぼんやりと空を見上げていたので声をかけた。


「私はクレア王女に会議の参加はしなくて良いと許可を得てますので」

「そうなのか」


 ソフィアは一言答えると、また空を見上げていた。俺が「隣りいいか?」と聞くと、ソフィアは空を見上げたまま「どうぞ」と愛想なく頷いた。


「凪さん。あなた、クレア王女とはどういったご関係ですか?」


 座った途端、開口一番にクレアは尋ねてくる。が、それは問い詰める感じではなく、どちらかというと世間話をするような柔らかい口調だった。


「どういう関係と言われてもな」


 精神科医と患者の関係性、としか言いようがないんだよな。


「クレア王女のあんな嬉しそう顔、久々に見ました」

「そうなのか。普段から明るい感じに見えるが」

「一見、そう見えますが、全然違いますよ。普段は王女として笑顔を絶やさないよう気を張ってますが、凪さんの前だとその気も使っていないように見えます」


 確かに。言われてみれば、くるみは前世でもそういう一面があった気がする。周りを心配させまいと気丈に振る舞い、それが結果として悪い結末を招いたのだが。


「しかし、よくクレアのこと見ているんだな」

「当たり前です。私はクレア王女の側近なのですから」

「そりゃそうだけど。そういうのとは違ってさ。なんか仲の良い姉妹みたいに見えるよ」

「姉妹だなんて、失礼ですよ。凪さん」

「ああ、ごめん。悪気はない」


 ただ、失礼ですよ、と言いながらも、ソフィアの顔は少し嬉しそうだった。


「でも、そうですね。こんなこと言ったら、問題になってしまいますが、クレア王女の事は可愛い妹みたいに思ってます。だから、凪さんには嫉妬しているんですよ。私以外にあんな笑顔見せるなんて」


 と、ソフィアは言葉通り、少し嫉妬したような目を俺に向ける。その顔を見ると、ソフィアがクレアのことを本当に大事にしていることが伝わる。王と側近という建前だけの関係だけではない、深い繋がりがあることも。このタイミングで俺は先程、ソフィアがクレアに怒った理由。禁忌魔法とはどんなものかを聞こうとした。


 俺が口を開こうとした途端、ソフィアが突然その場に立ち上がる。遠くを見ている。何処を見ているかわからないが、その表情は険しい。


「どうした、急に?」


 尋ねるとソフィアは眉間に皺を寄せ「村の方が騒がしいです」と言った。村の方が騒がしいだと? 全然、聞こえないのだが。そもそも、ここから村まで5キロは離れてるよな。


「ソフィアちゃん!」


 すると、庭園にクレアが駆け込んできた。見ると、バイオレットも一緒だ。


「村の方、騒がしくない?」

「ええ。私も聞こえました。なにがあったかはわかりませんが、只事ではないです」


 緊迫した表情のアテナとソフィア。一方、俺やバイオレットはその状況が全く伝わず、互いに顔を合わせていた。


 一体なんだ? と思いながらも、駆けていくクレアとソフィアの後ろを追う。城の門を出て、しばらく走ると村が見えてくる。そこで俺も事態の深刻さを知った。


 最初に見えたのは煙。空に舞い上がっており、その出先を見ると燃え盛る炎。

 一見、見回しただけでも村の半分以上が燃やされていた。村の中を逃げ回る村人達。それを背後から切り付ける者、子供や女性を取り押さえる者。まるで、戦争の映画でも見ているような非現実的な光景だ。


「何故だ? 何故、彼らがここにいる」


 バイオレットは雷に打たれたような表情を浮かべている。それもそうだろう。村人達を襲っていた者は紛れもない騎士。正しくは人間国。デストリュク王国の騎士だった。


「やってくれますね。最初から同盟を組む気なんてなかったんですか」


 ソフィアはバイオレットの顔を睨み付け、悪態を付く。


「ち、違う! こんなの知らない」


 バイオレットは動揺しながら否定する。嘘を言っている顔じゃない。というか、バイオレットは絶対にそんなことはしない。バイオレットが騙されているのだ。


「でも、おかしいよ。国境を超えた付近に人が入ると、侵入者が感知出来るようになっているはず。なにより、どうやってここを特定出来たの」


 クレアも混乱していたが、すぐに手を前に出して「とにかく、皆を助けないと」と言って、魔法を詠唱する。

 しかし、クレアの手からは何も出ず。


「嘘ッ。魔法が使えない」


 クレアは手を見つめ、唖然としている。そんな時、ある人物がこちらに歩み寄って来た。


「ロック隊長」


 バイオレットはその姿を目にして愕然とする。


 こちらに騎士が十人ほど歩み寄って来た――その中にロックがいた。この緊迫した空気感の中、ロックはいつもと変わらない穏やかな顔をしている。

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