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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第3章
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第32話 王女クレア

 眩しい光に目を閉じていると、体に感じていた風の心地がなくなり、暖かな温もりを感じる。目を開ける前に気付いた。ワープの先が室内であることが。


 目を開けると、そこはだだっ広い部屋になっていた。見る限り王室だ。しかし、周りには護衛と思われる兵隊の姿がない。


 誰もいないのかと思ったが違う。玉座と思われる場所に一人座っている者がいた。


 いや、玉座ではない。場所からして玉座が置いてある場所なのだろうが、そこには玉座ではなく、座布団が敷かれ、その者は正座をしていた。


 誰だ、こいつ。王室に入り込んだ子供か。


「只今戻りました、クレア王女」


 いや、こいつが王女なんかーい! と、涼しい顔したソフィアに突っ込みを入れそうになる。驚いていたのはバイオットもニナも一緒だった。アテナは相変わらず、無表情だけど。


「おかえり。ソフィアちゃん」


 そのクレア王女と呼ばれた者が微笑むと、ソフィアは眉間に皺を寄せ、溜息を漏らす。


「クレア王女。もう細かいことは言いませんが、せめて来客中は側近である私に、ちゃん付けするのをやめてください。後、やっぱり、玉座置きましょう。座布団に正座している王女って格好悪いですよ」

「えー。いいでしょ、別に。そんな飾った威厳見せつけてもすぐに見透かされちゃうし。それに見た目で判断するような人達なら同盟を結ぶ価値ないでしょ」


 穏やかな表情でクレア王女はゆっくりと立ち上がる。


 この時、俺の脳は完全に思考停止していた。あまりにも衝撃的な光景に。


「おい、凪。どうした?」


 惚けていると、バイオットが俺の肩に手を当てる。我に返るとクレア王女が俺の目の前に立っていた。


 ショートカットの黒髪。一見、大人しそうな雰囲気にタレ目。外見でいえば、ニナよりは年上。人間の外見で言えば十五歳程度。頭に角があるので魔族であることは間違いないが、それ以外を覗けば、この少女――。


「くるみちゃん?」


 無意識に俺が呟くと、クレア王女はポカンとする。それは周りの皆も一緒だった。


「あっ、悪い。聞き流してくれ」


 しまった、俺としたことが……つい瓜二つの顔に惑わされてしまった。

 俺の言葉に対し、クレアは特に気にした様子もなく、ぺこりと頭を下げる。


「わざわざ遠いところからお越し頂き、ありがとうございます。私は魔族フリーデン37代王女、クレア・シャインボルグと申します」

「私はデストリュク王国本部六番隊長を務めさせて頂いている、バイオレット・マグガーレンです」


 一番手に名乗ったのはバイオレット。そのまま、いつもの流れで紹介してくれると思ったが、そのまま俺達三人に視線を送る。何も言わないが、どうやら今までとは違い、王女相手には自分で自己紹介しろという合図らしい。


「私はニナ。ニナ・シュタイン・クーゲルよ」


 ニナが自己紹介すると、バイオットは「バカ。王女相手だぞ」と、ニナに口の利き方について注意していた。ニナは面倒臭そうに顔を顰め「なによ」と口を尖らせていた。


「そんな畏まらないでいいですよ。私、そういうの気にしてないから。ニナちゃん。私のことはクレアって呼んでくれていいよ」


 柔らかな笑顔でクレアが言うと、ニナは目を丸くし「ニ、ニナちゃん?」と言って唖然としていた。その横でソフィアは、あーあ、この人は。みたいな顔をしている。


「アクアよ」


 アクアは簡潔に自己紹介する。なんだ、こいつ。いつも無愛想ではあるが、どこか違和感を覚える。気のせいだろうか。


「俺は夏目凪だ」

「うん。知ってる」

「えっ?」

「あっ、嘘、嘘。初めましてだよね」


 失言だったと口を抑え、クレアはおどけたような顔をした。


「クレア王女。顔を合わせて早々、大変失礼ではあるのですが……」


 バイオットは突然、オズオズ? いや、ムラムラ? とよくわからんが、小さく体を揺らしている。どうした、バイオレットの奴、変なキノコでも拾い食いしたか?


「どうしたの?」

「その、これはあくまでも国としてではなく、私の個人的な頼みなのですが……クレア王女。私とお手合わせ頂けないでしょうか?」

「ちょっと、バイオット。あんた何言っているの!」


 当然、場違いな発言をするバイオットにニナは声を荒上げる。


「わかっている。失礼であることは百も承知。クレア王女、私は貴女に対して恨みがあるわけではない。ただ、貴女からはとてつもない力を感じる。正直、適うとは思っていない。ただ騎士として、別種族の者相手に自分の力がどこまで通用するか、試してみたいのだ」


 うわー。こいつ、自分の任務の事、すっかり忘れて野生のゴリラに戻りやがった。事の次第では交渉破棄になるぞ。


「クレア王女が出るまでもありません。私が代わりに」


 バイオットの挑戦に対し、ソフィアが前に出るが、その手をクレアが掴んだ。


「バイオちゃん、いいよ。折角、遥々遠くから来たんだもん。土産話の一つや二つ持ち帰りたいもんね」


 王にしては随分と寛容だ。しかも、バイオレットのこと、バイオちゃんって、バイオハザードかと突っ込んでしまいそうだ。その様子を見て、困った人だ、みたいな顔でソフィアはクレアを見ていた。


「わかりました。では訓練場に行きますか」

「いいよ。すぐ終わるからここで」


 ソフィアの提案に対し、クレアはさらりとした口調で返す。凄いな、もう負けるどころか苦戦すらしないと断言しているようなものだ。


「クレア」


 すると、アクアが口を挟む。珍しいな。いつもはギャクパートでしか口を挟まない奴なのに。


「空気が読めないバカな子だけど、私の大事な仲間なのよ。だからお願い。命だけは取らないであげて」


 そう言い、アテナはクレアに向かって、深々と頭を下げた。

 あのアテナが頭を下げるという衝撃映像に俺達三人は言葉を失う。


 バイオレットは「大袈裟だぞ、アテナ。少し手合わせするだけだ」と、アテナの肩に手を当てるが、睨み付けられ「黙りなさい。クソゴリラ」と罵られていた。


「大丈夫だよ、アテナちゃん。大事なお客さんだから殺さないよ。相手がアテナちゃんだったら、力加減を誤って殺しちゃうかもしれないけど。バイオちゃんはただの人間でしょ。指先一つで終わっちゃうよ」


 何気ないそのクレアの一言に、バイオレットの顔は険しくなる。ああ、このゴリラ。相手の挑発にまんまと引っかかっているな。


 巻き添えをくらうのは御免なので、バイオレットとクレアから俺達は10メートル近く距離を置いて、その場を見守ることにした。


「王女様が相手ですので。最初から全力を持って行かせてもらいます」


 バイオレットは緊張した面持ちで、剣を鞘から抜く。


 相手は格上。小手先の攻防は無駄と判断したのか、バイオレットは真っ向勝負と言わんばかりに直線に駆け出して行く。


「ジャスティスソード!」


 来た。全力で行くと言うだけあって、バイオレットの大技が出た。青白い炎が剣先に纏い、相手に向かってその刃が向けられる。あのアテナですら防御魔法をとっさに唱えたくらいの必殺技。どんな防御魔法が出て来るのか固唾を呑む。


 が、振り下ろされたその剣先をクレアは魔法も唱えず、その刃を片手で掴んだ。青白い炎はクレアの手に纏わり付くが、その体がブレることはない。その状況にバイオレットの顔は驚愕の色に染まった。


「バイオちゃん、思ったより強いね。少し驚いちゃった」


 クレアは無邪気に笑うと、ゆっくりとバイオレットの顔へ手を伸ばす。


「長旅、お疲れ様。ゆっくり休んでね」


 そう言うと、クレアは人差し指でツンとバイオレットの首を突く。途端、バイオレットの体は糸が切れた操り人形の崩れ落ち、クレアがそれを支えた。


「ソフィアちゃん。バイオちゃん、数時間は目を覚まさないと思うから。このまま、部屋に案内してあげて」

「わかりました」


 ソフィアは少し面倒臭そうに溜息を漏らすと、バイオレットの体をクレアから預かる。

 は? なに今の戦い。力の差が歴然とか、そういうレベルじゃない。アテナの時と同様。いや、もしかしたらそれ以上。強さの次元が違い過ぎる。


「ちょっと、生きてるわよね?」


 心配になって先に駆け寄ったのはニナだった。ソフィアは「大丈夫ですよ。気絶しているだけですから」と安心させる言葉を放つ。


「ソフィアちゃん。アテナちゃんとニナちゃんを部屋に案内してあげて」


 あれ、なんで俺だけ部屋に案内してくれないの? もしかして、あなたの部屋はないよ。床で寝れば。みたいな展開ですか?


「なんで、私達だけなのよ。凪の部屋がないわけ?」


 と、思ったら、ニナが俺の代わりに聞いてくれた。


「凪さんは私と同じ部屋だよ」

「はぁ!」

「部屋が足りてないの。だから、仕方ないよね。だから、凪さんは私と添い寝だよ」

「んなわけないでしょ! あんた、凪になにする気よ!」

「フフ、冗談だよ。なに怒ってるの? ニナちゃん、凪さんの事、好きなの?」

「なっ。そんなわけないでしょ!」


 プププッ、とクレアが意地悪な笑みを浮かべると、ニナは顔を真っ赤にして「もう、行くわよ!」と、逃げるよう部屋に出て行った。


「アテナさん。部屋を案内します」


 ソフィアはアテナに一言そう告げ、そのまま、ニナの後ろを追っていく。アテナは俺の顔を一瞥するが、言葉を発することなく、続くようにソフィアの後ろに付いて行った。


 なんだ、アテナの奴。さっきからずっと様子が変だな。


 4人が部屋から出て行くのを見送ると、クレアは俺の顔を真っ直ぐに見つめ、満面の笑みを浮かべていた。やっぱり、くるみと瓜二つの顔だな。


「なんで、俺だけ残した? まあ、可愛い王女さんだ。手を出す気にはなれんが、添い寝くらいならお安い御用だぞ」

「その意地悪な言い方。相変わらずだね、凪先生」

「えっ?」

「ここだと誰かの目があるかもしれないから、私の部屋で話しをしよう」

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