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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第2章
24/50

第22話 いざ出陣

 翌日。俺達は三人揃って、酒場に向かって歩いていた。

 ニナは時間にはルーズそうな感じなので、時間ギリギリに来るかと思ったら既に到着している。服装は昨日と同じだが、手には杖を持っていた。


「なんだ。意外と早いな」


 俺が声をかけると、ニナはこちらを振り返り、腰に手を当てる。


「遅いわよ。今、何時だと思ってるの?」

「8時40分。むしろ、早いくらいだと思うが」

「ふん。普通は30分前には着いているものよ。本当、常識がないわね」


 ニナは小姑みたいにグチグチと文句を言っているが、顔は今から遠足に行く子供みたいだ。


「お前、友達いないだろ」


 ボソッと俺は毒を吐く。途端、ニナはキッと眉をつり上げたので、とったに俺は両手で股間を抑えた。


「なによ、その変なポーズ」


 一瞬、足を上げたニナだったが、俺の鉄壁の防御に困惑していた。もう、大事な宝物を蹴られるのはたくさんだからな。


「ニナ。凪の股間を蹴るのはやめなさい」


 珍しく厳しい口調でアテナがニナを叱る。おお、アテナの奴、俺のことを庇ってくれるのか。


「なによ、あんた。こんな奴のこと庇うの?」

「ええ、庇うわ。どうせこの先、使い道なんで一生ないでしょうけど。それでもやめなさい。確かにあっても無意味でしょうけど。それでも希望くらいは持たせてあげて頂戴」

「おいおい、なに言っちゃってるの? 使う予定ありますよ。むしろ、行列出来てるちゅーねん!」


 意地かプライドかは知らんが、俺はムキになりいらんことを口にしてしまう。途端、ニナはキモッみたいな顔で後退りした。


「さ。行くか。バイオット」


 二人に構うとろくなことがないので、俺は顔を逸らし、バイオットの方を見る。が、バイオレットは目を逸らし、モジモジし始めた。


「凪。お主、使う当てがあったのか? しかも行列が出来るまで」


 どうやら、俺の体裁を真に受けているようだ。なんだろう、この反応。これはこれで返しに困るな。

その後、俺達は洞窟に向かって歩き出した。


 ニナはツンツンした性格だが、向かう道中でギクシャクすることはなかった。


 バイオットはさすがお姉さんというべきか、生意気なニナを受け入れ、相槌をうまくうっている。世渡りは下手だが、子供の面倒見はいいようだ。実際、騎士より保母さんなどの仕事に向いているのかもしれない。


 一方、アテナも生意気なニナに対し、目くじらたてるわけでもなく、いつも通りの平常運転。ニナ相手にも遠慮なしにズバズバ言う。それに対しニナも一瞬、ムッとした顔をするが、お互い言いたいことを言ってるから、ストレスのない関係性に見える。


 ニナは終始、表情豊かだった。冷めた奴かと思ったが、こうしてみると普通の子供だな。


「ここか」


 洞窟の前までたどり着き、俺は辺りを見渡した。


「見る限り誰もいないな」

「当たり前でしょ。この洞窟には竜がいるのよ。数カ月に一回、大人数で竜討伐に入る意外、ここに近付く命知らずはいないわ。あなた達みたいに三人だけで、竜を倒そうとするなんて論外。自殺願望者なのかと疑ってしまうわ」

「ほう。そんな自殺願望者の俺達相手に、よく力を貸そうと思ったな」


 素朴に疑問を返すと、ニナは困ったように目を泳がせた。


「うるさいわね。スリ損ねた相手が次の日に死んでるなんて、目覚め悪いでしょ」


 ニナは顔を赤らめ、早口に言う。こいつ今、口を滑らせてゲロりやがったな。


「ニナ。一つだけ約束してくれ」

「なによ」

「やばくなったら逃げろ」

「は?」

「体裁やプライドなんて必要ない。最悪、竜の角なんてどうでもいいからな」

「はぁ? あんたがそれを言っちゃう」

「死んだら元も子もないだろ。そうしないと、君のお父さんに合わす顔がない」

「だから、ガトーはお父さんじゃないわよ!」


 と、いつものノリでサラの蹴りが飛んでくる。蹴る場所はスネか息子か、それを飛び越して顔面かと構えたが、蹴り上げた足は途中で止まった。


「あー、もう、いい。あんたといると、なんか調子狂うわ」


 サラはツンツンとして顔を背ける。


「わかったわ、凪。やばかったら逃げるから。それで凪が死んでも化けて出てこないでよ」


 サラは照れ臭そうな顔をすると、いち早く洞窟の中に入って行った。

 あいつ、初めて俺の名前を呼んだな。


「凪。素晴らしいアドバイスだ。騎士として彼女は私が守ろう」


 後ろからバイオレットが、俺の肩に手を当て微笑んでいた。


「なにが騎士としてだ。バイオレット、お前も同じだぞ。いつもみたいに意地張って戦うなよ。やばいと思ったら、すぐ逃げるんだ」

「ああ、わかってる」


 力強く頷いたバイオレットは、先に洞窟に入って行ったサラを追っかけて行く。

あいつ、本当にわかっているんだろうな? 実際、一番心配なんだよな。


「凪。素晴らしいアドバイスよ」


 今度はアテナが俺の肩に手を当て、親指を立てていた。


「私はやばくなる前に逃げるわね」

「いや、お前は逃げるな。やばくなったら絶対、助けろよ。てか、お前なら余裕で倒せるんだろ?」

「倒せるわよ」

「それなら」

「ダメよー、ダメダメ。私は傍観者なのよ。容易に力を貸したら、父様に叱られちゃうわ」


 真顔でアテナはぶりっ子ポーズをとる。内心、イラっとしたが、このまま言い合って「じゃあ、私行かない」と、不貞腐れても困る。


 さすがにやばい状況になったら助けてくれるよね、アテナちゃん。

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