第20話 魔族の贈り物
「魔族フリーデンに向かう船はいつ出航予定なんだ?」
「三日後になるな」
「三日後? 明日じゃないのか?」
「その船は週一回ほどしか出なくてな。ほとんど乗客がいないから、仕方あるまい」
俺達は宿を予約した後、近くの酒場に足を運んでいた。宿屋の亭主にうまくて、安いと勧められただけあって、食事はそこそこにうまい。
「その間はどうする?」
「そうだな。この際だ。訓練を再開しようか。二日間、訓練をサボってしまったからな。お互い腕が訛っているだろ。そろそろ筋トレも再開したい」
「筋肉ゴリラ」
「えっ。今、なんて言った?」
やばい、口が滑った。幸い酒場は他の冒険者達が盛り上がっていた為、俺の毒舌はうまくかき消されたようだが。
「ねぇ。筋肉ゴリラのバイオレット」
と、思った矢先、アテナが俺の毒舌を引用していた。
「なっ。筋肉ゴリラだと。なんてこと言うんだ、アテナ」
「私じゃないわよ。さっき、凪が言ってたじゃない。聞こえなかったの?」
しかもご丁寧に暴露していた。はぁ、罪は素直に償えってことだな。
「なんだと! 乙女に向かって、ブタゴリラなんて失礼だろ。ちゃんと謝ってもらおうか。後、ブタさんとゴリラさんにもな」
「そこまで言ってない」
てか、昔のアニメにもいたな、ブタゴリラってあだ名のキャラ。今思えば酷いあだ名だ。本人は気にした様子もなったけど。
「バイオレット。魔族に渡す手土産はどうするの?」
アテナが皿に入ったピーナッツを頬張りながら、バイオレットに尋ねていた。同盟を結ぶ大事な交渉だ。大層、豪華な手土産を用意しているのだろう。が、その質問の後、バイオレットの表情が硬直した。
「まさか。なにも用意していないということはないわよね?」
「いや、その……すっかり、忘れていた」
バイオレットは、やってしまった、みたいな顔で真っ青になる。
こいつ、マジか。いや、バイオレットは悪くない。正確には王国側はなにをやっているんだ。国の将来がかかった交渉だぞ。人員といい、土産の準備といい、本当に同盟を結ぶ気があるのだろうか。
「論外ね。話しにならない」
普段、不真面目なアテナには珍しく、まともなことを言っていた。バイオレットは涙目で「どうしよう、アテナ。凪」と助けを求めている。
「仕方ないわね。女神である私のサインを渡そうかしら」
前言撤回。やっぱ、こいつアホだわ。
「魔族ってなにを好むんだ?」
全く見当がつかないので、俺はバイオレットに質問を返した。そんなの知らん、と即答されると思ったが、バイオレットは顎に指を当て、唸るように考え込む。
「確か昔、どこかの国が竜の角を土産にしたら、喜ばれた……という話しがあるらしいが、本当かどうか」
半信半疑に喋るバイオレットだが、その横でアテナが「本当よ」と即答する。
「階級が高い魔族は竜の角をアクセサリーにする風習があるからね」
「アテナ。何故、そんなことを知っている?」
「なんでって、私女神だもの。なんでも知ってるわよ」
「えっ、女神? アテナって、本当に女神なのか?」
「本当ってなによ。前から、ずっと言ってるんじゃない」
「あー。わかった、わかった。その竜の角にしよう」
二人がややこしい話しを始めたので、俺は割って入った。この際、アテナが女神だろうが、人間だろうがどうだっていい。ただ、一つアテナの情報が確かなものであれば。
「確かここから少し離れた場所に、竜がいる洞窟があると聞いたことがある。ただ、そこに私達三人で行くには危険過ぎる。竜討伐時には、ギルド商会が10人以上の冒険者や騎士が勢揃いで行くと聞く。まあ、アテナの場合は一人でも倒せそうだが」
「あの程度の竜。私なら三割の力を出すまでもないわね。余裕のよっちゃんよ」
「本当か。さすがアテナ。心強い」
「は? 誰も私、力を貸すなんて言ってないわよ。何度も言うけど私、女神なのよ。前も説明したわよね。私、極力この世界で目立っちゃダメなの。だから、あなた達の力でなんとかしなさい。死んだらそれまでの話し。私そのまま、ドロンするから」
と、アテナは両手を重ねて忍者のポーズをする。その説明に対し、バイオレットは口をポカンと開けている。
「……まあ、よくわからんが、アテナが力を貸してくれないなら尚更、辞めておいた方がいいな。凪と私だけで、竜を倒すのは無理だ。相手は火だって吹く。最低一人、援助をしてくれる魔法使いが必要だ。防御魔法や回復魔法が使えるような助っ人が」
「ふん。お困りのようね」
突然、横から声がして、視線を移すと一人の少女が立っていた。
「なんだ。誰かと思ったら、スリ少女じゃないか」
「誰がスリ少女よ!」
俺が溜息交じりに言うと、少女は乗りよくツッコミを入れてきた。
「そうよ、凪。失礼じゃない。ロリコン少女に謝りなさい」
「誰がロリコン少女よ!」
今度はアテナの言葉にツッコミを入れる。なんか毎回、芸人みたいなノリになるな。