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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第1章
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第16話 旅立ちの日

「なんだよ。ずっと、男嫌いだと思ってたけど。ちゃんと好きな人がいるじゃないかよ」

「ち、違うぞ! 私はロック隊長のことをそんな目では見ていない」

「否定しなくていいだろ。別に悪いことじゃない」


 ただ、決勝戦前に語ったバイオレットの理想像は完全に嘘だと言わざる得なくなかったけどな。なにが顔に拘りはないだ。滅茶苦茶、イケメンやないか。


「はぁ。でも、ガッカリだな。結局、顔なんだなぁ」


 なんだ、このガッカリ感。バイオレットみたいに顔なんて二の次。性格が一番大事と口にする奴に限って、イケメンや美女ばっかり追っかけている傾向にあるからな。それはきっと、どこの世界に行っても同じなのだろう。


「フフフッ、そうふて腐れるな。私は凪の顔も好きだぞ」

「えっ、マジで? どのあたりが?」

「えっ、どのあたり? そ、そうだな……全体的な雰囲気かな?」


 すげー、抽象的な答えだな。ないなら、ないときっぱり言って欲しい。無駄に期待するモテない男の身にもなってくれ。


「というか、前にも言ったろ。顔など二の次だ。凪は少し捻くれたところはあるが、本当は誰よりも優しい人だ。私の悩みにも真っ向から向き合ってくれたろ。あの時は凄く嬉しかった。顔なんかじゃなく、私は凪が好きなのだ」

「そんな真面目な顔で好きって言わないでくれる? 告白だと勘違いしちゃうから」


 それにあんまり、顔じゃないって連呼しないでね。俺、顔悪いみたいじゃん。


「勘違いではない」

「は?」


 バイオレットの一言に俺はポカンとしてしまった。途端、バイオレットの顔はみるみると紅潮していき、無言でポカポカと俺の肩を叩く。いや、ポカポカではない。ボコボコだ。やめて、バイオレットさん。肩の骨、折れるから。


「まあ、いい。ところで出発は明日の朝か?」


 骨が折れる前に話題を変えると、バイオレットは安堵した顔をみせた。


「ああ。魔族フリーデンに行くには、まずは港に行き船に乗る必要がある。順調にいっても四日はかかるからな。実際、到着しても交渉次第によってはの他国で何日か過ごす可能性も出て来るだろう」

「じゃあ、かかって二週間くらいか」

「ああ、そうだな。うまく交渉が進めば良いのだが」

「そうだよな。手ぶらで帰ったら、ロック隊長に褒めてもらえないもんな」

「なっ! ロック隊長は関係ないだろ」


 さりげなく毒を吐くと、バイオレットは敏感に反応する。あんまりからかうと、一撃必殺の鉄拳が炸裂するから、ほどほどにしておこう。


「とにかく、今日は凪の優勝を祝いたいと家族の皆が言っているんだ。今日くらいは稽古なしで、お互い羽を伸ばそうじゃないか」


 ほう。稽古三昧のバイオレットには珍しい提案だ。まあ、ここ最近、ずっと休みなしで稽古してたからな。俺もさすがに休みたいとは思っていた。




 その日の夜。バイオレットが祝いたいと言うだけあって、サラさんが御馳走を用意して待っていた。最初は楽しく賑わっていたが、ジョンさんもサラさんも内心、バイオレットを心配しているのが伺えた。


「凪君もアテナさんも、バイオレットの事、宜しくお願いします」

 真っ直ぐな目でジョンさんは俺達に頭を下げた。交渉という目的であっても、他国に足を踏み入れるのだ。心配になるのも当然だ。


「バイオレット。任務なんてどうだっていいから、危なくなったら逃げなさい。いつもみたいに騎士としての心得とか、そういうのはいいから」


 サラさんはバイオレットの手を握り、憂色の濃くなる顔になっていた。


「そういうのいいからと言われても。私は騎士である以上、逃げるわけには」

「バカね。逃げるが勝ちって言葉もあるのよ。格好悪く無様で、泥に塗れようとも……生きる方が勝ちよ。母さんはあなたに英雄なんて欲しいとは思わないわ。あなたが笑って生きていれば、それだで十分」

「わかった、母さん。必ず生きて帰るから」


 サラさんの強い想いに対し、バイオレットは困った様子で微笑んだ。


「ねぇ。凪ちゃん、アテナちゃんも帰ってきてよ。どっかに行かないでよ」


 事情をあまり理解出来ていないシャーロットは任務のことよりも、任務が終わったら俺やアテナがいなくなることを心配していた。俺はすぐに大丈夫だよ。と言って、俺はシャーロットの頭を撫でたが、内心複雑な想いだ。


 任務が終わったら一度はここには戻るが、この街を拠点として長居するかどうかはわからない。俺がやらなければならない本来の任務は六カ国の暴走を阻止しつつ、なんとか大きな戦争を避け、一つずつ国を潰していき、国を一つにする事。冷たいことを言うようだが、事態によってはこの人間国を見捨てる選択をしなければならい時もくる。


 というか……今更だけど、国を一つに収めることなんて本当に出来るのだろうか?

 答えは簡単。出来るわけがない。最近、稽古の毎日で熱血主人公になりつつあったが、今酒を飲んで逆に冷静になってしまった。


 現世で俺はカウンセラーになって、患者を助けられずに自殺に追い込んだ。

 その後、逃げるように仕事を辞め、人間関係を避けて運転手になった。そうやって逃げ続けてきた俺自身が、国を収めるなんて大役出来るわけがない。


「どうした、凪? そんな暗い顔して」


 俺の様子に気付いたバイオレットは、心配そうに顔を覗き込む。


「ふん。どうせ、エッチな妄想にでも耽ってたんでしょ」


 ワインをがぶ飲みしていたアテナが、少し座った目でしてヘラヘラしていた。


「なっ! ダメだぞ、凪。旅の途中で、膝枕などしてやらんからな」


 と、バイオレットは恥ずかしそうに胸を隠す。

 なんで、膝枕なのに胸を隠す必要がある? なんだかんだ言って、こいつも結構、酔ってんな。


「なによ。膝枕くらいしてあげなさいよ。減るものじゃないでしょ」

「ダ、ダメだ! 減るものなんだ、膝枕は」

「はぁ? 何言ってんのよ。まあ、いいわ。その時は凪、私が代わりに膝枕してあげるわよ」

「そんなもっとダメだ! なんだ、お前達、そういう関係だったのか! そんなの嫌だ……私は信じないぞ!」


 バイオレットは駄々を捏ねた子供のように手をばたつかせる。


「は? そんなわけないじゃない。実際、凪と体くっついてたとしても、心がバラバラよ。えっ、てか、膝枕の話しよね。なんで卑猥な話しになってるの?」


 その後もアテナとバイオレットは友達同士のような言い合いをしており、そんな姿をジョンさん、サラさん、シャーロットは微笑んで見つめていた。

 友達がいなかった娘がやっと、家に友達を連れてきた。そんな心境なのだろう。知らんけど。


 しかし、この二人、最初は真逆な性格だから合わないと思っていたが、俺の知らんところで女子会してたって噂だったからな。ある意味、友達と言ってもいいのかもしれん。


 まあ、いい。この世界をどうするかという難題は置いておいて。今はこいつらとする旅を楽しむとしよう。不本意ながらもこの世界に転移したのだから。


 じゃれ合う二人の姿を見て、俺はそう思った。



                                第一章 完

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